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涙の理由
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授業が終わり、休み時間になると青山さん始め気の強い女子達が結託して、お調子者の男子グループ達の前に立ちはだかった。
「あんた達、いい加減にしなさいよ! 男子が美紗ちゃんと矢野のことからかうから、美紗ちゃん傷ついて泣いちゃったじゃない!!」
そう言って、一斉に私を振り返る。
ぁ。そう、思われてたんだ……
私の元に来ていた多恵ちゃんが、「あれは……」と言い掛けたけど、腕を引っ張って阻止する。振り向いた多恵ちゃんに、コクリと小さく頷いた。
「そ、そうだよ! これで美紗ちゃんが学校来れなくなったら、あんたたちのせいだからね!」
私の意思を理解してくれた多恵ちゃんにホッとし、小さく「ありがとう」と言った。
みんなに聞こえないように多恵ちゃんが私の耳に手を当て、囁く。
「部活の時に、ちゃんと何があったか説明してよね」
多恵ちゃんを見て頷きつつも、6限が終わるのが恐かった。
なんて話せばいいんだろう……
女子達に圧倒された男子達は、「えぇー」とか、「俺らだけじゃなく、他の奴らもやってたじゃーん」とか不平を漏らしつつも、私の前まで来ると謝ってくれた。
「水嶋さん、ごめんな」
「なんか反応面白くて、やりすぎた」
けれど、そこには肝心の赤井くんの姿はなかった。
目の前に男子達に立たれて、緊張して上手く声が出ない。
「あ、ううん……」
それだけ言うと、俯いた。
帰りの会が終わった途端、待ってましたとばかりに帰り支度を済ませた多恵ちゃんが私の席まで来た。
「部活、行こっか!」
「うん……」
部長である多恵ちゃんは職員室に寄ると『バドミントン部』と書かれた細長い木のついた鍵を借り、部室へと向かう。
部室は運動場の一角に建てられた2階建てのプレハブ小屋で、そこにすべての運動部の部室がひしめき合ってる。狭いし、埃っぽいし、黴《かび》っぽいし、沁みついた汗だか体臭だかの匂いが籠ってるし、特に雨の時なんかはそれらが混ざり合ってなんともいえない臭気が発生する。
バド部はそれでも人数が少ないし、女の子だから制汗剤とか使って一時的にその臭いから逃れられるけど、野球部やサッカー部なんかの男子の大所帯の部活は大変そうで、運動場や教室で着替える部員たちもいた。
いつもなら1年が部室の外で待ってるんだけど、今日は授業が終わってからすぐに来たためか、誰もいなかった。
縦型の狭いロッカーを開けて、鞄とスクールバッグを縦に重ねて詰め込むと、多恵ちゃんがいきなり捲《まく》し立てた。
「どうして美紗ちゃんが泣いて帰ってきたの!? 前川に何か言われた? 意地悪なことされた?」
「じ、実は……」
「実は?」
迫ってくる多恵ちゃんの迫力に、たじたじとなる。
い、言えない……前川くんにキス、されたなんて。
「あの……矢野くんを待ってる時に、塩沼公園で前川くんと偶然会っちゃったの。
それでさっき、『矢野と付き合ってるのか』って聞かれて……」
「それが、なんで泣かされてるのよ!!」
そ、そうですよねぇ……
「ぇ、えと……『お前みたいなやつが、矢野と付き合うなんて100年早い』とか言われたり、して?」
嘘をついているという背徳感から、1個あけた隣のロッカーを開いて荷物を押し込むことで多恵ちゃんの視線から逃げた。
「何それ! 何様のつもり、あいつ!! ムカつく!!
あぁーっ、ほんっとごめん!! あん時の前川の雰囲気が真剣だったから、まさかそんなこと言うなんて思わなくてさ。一緒にいてあげれば良かったよね。あいつ、今度会ったら絶対に文句言ってやるから!!」
多恵ちゃんの予想以上の反応に驚き、慌ててロッカーの扉から顔を出し、両手を激しく振った。
「あぁっ、いいのいいの!! なんか、それで泣き出したら謝ってくれたから。だから、もう大丈夫……なの」
ごめんなさい、前川くん……勝手に話を捏造しちゃって。
「そう? まぁ、美紗ちゃんがそう言うなら、何も言わないけど……
私はいつでも、美紗ちゃんの味方だからね!」
そんな多恵ちゃんの言葉を心強く思いながらも、本当のことを話せずにいることが、心苦しかった。全部話して楽になりたいって気持ちもあったけど、多恵ちゃんに話してしまえば、前川くんとキスしたことを認めてしまう気がして……話せ、なかった。
すぐにトントンと1年が扉を叩く音が聞こえてきて、ホッと息を吐いて部室の扉を開いた。
「あんた達、いい加減にしなさいよ! 男子が美紗ちゃんと矢野のことからかうから、美紗ちゃん傷ついて泣いちゃったじゃない!!」
そう言って、一斉に私を振り返る。
ぁ。そう、思われてたんだ……
私の元に来ていた多恵ちゃんが、「あれは……」と言い掛けたけど、腕を引っ張って阻止する。振り向いた多恵ちゃんに、コクリと小さく頷いた。
「そ、そうだよ! これで美紗ちゃんが学校来れなくなったら、あんたたちのせいだからね!」
私の意思を理解してくれた多恵ちゃんにホッとし、小さく「ありがとう」と言った。
みんなに聞こえないように多恵ちゃんが私の耳に手を当て、囁く。
「部活の時に、ちゃんと何があったか説明してよね」
多恵ちゃんを見て頷きつつも、6限が終わるのが恐かった。
なんて話せばいいんだろう……
女子達に圧倒された男子達は、「えぇー」とか、「俺らだけじゃなく、他の奴らもやってたじゃーん」とか不平を漏らしつつも、私の前まで来ると謝ってくれた。
「水嶋さん、ごめんな」
「なんか反応面白くて、やりすぎた」
けれど、そこには肝心の赤井くんの姿はなかった。
目の前に男子達に立たれて、緊張して上手く声が出ない。
「あ、ううん……」
それだけ言うと、俯いた。
帰りの会が終わった途端、待ってましたとばかりに帰り支度を済ませた多恵ちゃんが私の席まで来た。
「部活、行こっか!」
「うん……」
部長である多恵ちゃんは職員室に寄ると『バドミントン部』と書かれた細長い木のついた鍵を借り、部室へと向かう。
部室は運動場の一角に建てられた2階建てのプレハブ小屋で、そこにすべての運動部の部室がひしめき合ってる。狭いし、埃っぽいし、黴《かび》っぽいし、沁みついた汗だか体臭だかの匂いが籠ってるし、特に雨の時なんかはそれらが混ざり合ってなんともいえない臭気が発生する。
バド部はそれでも人数が少ないし、女の子だから制汗剤とか使って一時的にその臭いから逃れられるけど、野球部やサッカー部なんかの男子の大所帯の部活は大変そうで、運動場や教室で着替える部員たちもいた。
いつもなら1年が部室の外で待ってるんだけど、今日は授業が終わってからすぐに来たためか、誰もいなかった。
縦型の狭いロッカーを開けて、鞄とスクールバッグを縦に重ねて詰め込むと、多恵ちゃんがいきなり捲《まく》し立てた。
「どうして美紗ちゃんが泣いて帰ってきたの!? 前川に何か言われた? 意地悪なことされた?」
「じ、実は……」
「実は?」
迫ってくる多恵ちゃんの迫力に、たじたじとなる。
い、言えない……前川くんにキス、されたなんて。
「あの……矢野くんを待ってる時に、塩沼公園で前川くんと偶然会っちゃったの。
それでさっき、『矢野と付き合ってるのか』って聞かれて……」
「それが、なんで泣かされてるのよ!!」
そ、そうですよねぇ……
「ぇ、えと……『お前みたいなやつが、矢野と付き合うなんて100年早い』とか言われたり、して?」
嘘をついているという背徳感から、1個あけた隣のロッカーを開いて荷物を押し込むことで多恵ちゃんの視線から逃げた。
「何それ! 何様のつもり、あいつ!! ムカつく!!
あぁーっ、ほんっとごめん!! あん時の前川の雰囲気が真剣だったから、まさかそんなこと言うなんて思わなくてさ。一緒にいてあげれば良かったよね。あいつ、今度会ったら絶対に文句言ってやるから!!」
多恵ちゃんの予想以上の反応に驚き、慌ててロッカーの扉から顔を出し、両手を激しく振った。
「あぁっ、いいのいいの!! なんか、それで泣き出したら謝ってくれたから。だから、もう大丈夫……なの」
ごめんなさい、前川くん……勝手に話を捏造しちゃって。
「そう? まぁ、美紗ちゃんがそう言うなら、何も言わないけど……
私はいつでも、美紗ちゃんの味方だからね!」
そんな多恵ちゃんの言葉を心強く思いながらも、本当のことを話せずにいることが、心苦しかった。全部話して楽になりたいって気持ちもあったけど、多恵ちゃんに話してしまえば、前川くんとキスしたことを認めてしまう気がして……話せ、なかった。
すぐにトントンと1年が扉を叩く音が聞こえてきて、ホッと息を吐いて部室の扉を開いた。
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