矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。

奏音 美都

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勇気を出して

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 翌日。

 図書委員の当番の為、お弁当を急いで食べる。図書室が開くのはお昼休みからなので、その前に行かないといけない。お弁当を持ち込んで食べてもいいって言われてるんだけど、お弁当の匂いがするカウンターで作業をするのが嫌で、私はいつも教室で食べ終えてから向かっていた。

「すみません、図書委員の当番なので……」

 村中先生に断ると、教室を出た。

 図書室のカウンターに座ると、ホッと息を吐く。誰もいない図書室ってやっぱり落ち着く。時計を見ると、あと5分で昼休みが始まるとこだった。

 あれ、今日のもう一人のお当番さんって誰なんだろう……

 自分の番を忘れてるのか、一向に来る気配がない。当番表を確認しようかと思ったけど、確認したところでもうお昼休みが始まるし、呼び出しするなんて恥ずかしくて出来ないので諦めることにした。司書さんは常時滞在してるけど、基本的にカウンター業務は当番に任せてるので、呼び出さない限りは司書室に籠もりっきりだ。

 ついに昼休みを告げるチャイムが鳴り、私のひとり業務は決定となった。

 何か、読む本でも探して来ようかな。そういえば、『図書便り』にあげるオススメの本を選ぶように頼まれてたんだった。

 立ち上がり、カウンターから出ようとすると図書室の扉が開いた。

 自然に向けられた私の視線が、そこでピタッと止まる。

 矢野くん、だ……

  矢野くんが図書室に来たのを見たのは、初めてだった。今朝は挨拶しようとしても目も合わせてくれなかった矢野くんが図書室に来るなんて考えてもいなかったので、思わず二度見してしまった。

 矢野くんが、はにかみながら視線を向ける。

「ぁ、あの……本って何冊借りられるんだっけ?」
「ひ、ひとり2冊まで、2週間借りられます……」

 緊張のあまり自分の言葉で伝えられなくて、店員さんのような口調になってしまった。

「2週間か……読み切れるかな」

 素を思わせる矢野くんの発言に緊張が緩み、思わず微笑んだ。

「返却の際に言ってくれれば延滞も出来るから、大丈夫だよ」

 矢野くんは本を選ぶため、書棚の方に向かった。私もついて行きたかったけど、返却の人がカウンターに来たので戻って席に着いた。

 返却処理をしながらも、矢野くんがどんな本を選ぶのか気になって仕方なくて、視線でチラチラと追ってしまう。そんなことをしているうちに、他にも返却に来たり、貸し出したりで、いつもなら二人でカウンター座ってれば余裕で終わるのに、今日はひとりでてんてこまいしてた。

 ようやくひと段落ついた時に、矢野くんがカウンターの前に立った。

「これ、しか……読み切れる自信なかったから」

 そう言って渡されたのは、漫画だった。

 矢野くん、この漫画好きなのかな。私も今度、読んでみよう。

『2年1組 矢野颯太』をコード表から探してバーコードを読み取り、渡された漫画を手にして図書バーコードを読み取った。それから、お知らせカードに返却日を記入して一頁目に挟む。

 指が震えてるのが、気づかれませんように……

 顔を上げて漫画を差し出すと、矢野くんと視線がぶつかる。

「これで、終わり?」
「ぁ。う、うん……だい、じょうぶ……です」
 
 受け取った矢野くんの指先が触れてしまい、ピクンと震えてしまった。その途端、バッと矢野くんが漫画を引いた。
 
「や! わ、わざとじゃ、ないから……」
「ぅ。うん……」

 熱い……

 触れられた指が火傷したみたいに脈を打ち、ジンジン疼く。

 矢野くんは視線を逸らすとくるりと背を向け、漫画を手に立ち去っていく。その背中を見つめていると、またくるりと矢野くんの体が向き直り、私を見つめる。

「ぁ、あのさぁ、水嶋さんって……」

 矢野くんは何か喋ろうとしてるんだけど、言葉になってなくて、私の耳まで届かない。

 ど、どうしたんだろう……

「矢野、くん?」
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