矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。

奏音 美都

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伝えたい想い

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 日曜日、アピタのいつも待ち合わせてる広場に立ってると、多恵ちゃんが大きく手を振ってきた。

「お待たせー。うわっ、美紗ちゃん可愛い!」

 そう言われて、赤面する。

 何度違うと言っても今日は矢野くんとデートするのだと思ってる和紗のコーディネートで、白のニットにベージュのミニスカートの上にライトブラウンのダッフルコートを羽織っていた。それに、和紗にサイドポニーテールをしてもらって大きなリボンまでつけてる。

「あ、ありがとう……」

 ほんとに、矢野くんとデート出来たらいいのになぁ。

 エレベーターに乗ってバレンタイン特設会場のある5階まで上がっていくと、ピンクや赤で彩られた『Valentine's Day』と書かれたのぼりやポップがあちこちに飾られている。日曜はいつも家族連れとかで賑わってるけど、ここはバーゲン並にたくさんの人でごった返していた。立ってるだけで、熱気が伝わって来る。

「うっわぁ、すごい人だね!!」
「うん……」

 みんな手にカゴを持ち、真剣にチョコを見定めている。

 特設会場の半分のスペースには様々な種類のチョコレートが綺麗に陳列されていて、ブランドものから製菓会社のものから面白チョコまであった。残りのスペースは手作りグッズのコーナーが設けられている。

 手作りチョコ、か……

 矢野くんに手作りのチョコを渡したいと思いつつも、手編みのセーターの時に言われた涼子ちゃんの『重い』の言葉が引っ掛かってしまって手を出せない。

 やっぱり、市販のチョコにしよう。

 手作りグッズのコーナーに向きかけた足を戻そうとすると、多恵ちゃんが腕を絡めてきた。

「もちろん美紗ちゃんは、矢野に手作りチョコあげるんでしょ?」 

 心臓がトクン、と波打った。

 多恵ちゃんの瞳に私の顔が映ってる。
 私の気持ちが、映し出されてる……

 拳をギュッと握り締めた。

「多恵ちゃん……私、矢野くんに手作りのチョコ、あげたい……」
「そんなの当然でしょ! 私ん家で一緒に作ろうよ。私も部員と村中チャンに作ってビックリさせたいし!」

 多恵ちゃんはチョコクッキーにメッセージを書いて渡すとか、ハートのチョコケーキをプレゼントとか色々アイデアを出してくれたんだけど、どれも恥ずかしいので遠慮することにした。

 生チョコやフォンダンショコラもいいけど、トリュフにしようかな。色んな種類のトリュフを作って箱に詰めたら綺麗だし、喜んでもらえるかなぁ。

 買い物カゴを手に取ると、板チョコ、ココアパウダー、抹茶パウダー、粉砂糖、それにチョコペンを入れていく。生クリームは地下1階のスーパーで買うことにした。

 そうだ、ラッピングも買わないと……

 トリュフが8個入る黒い箱に同色のラッピングペーパーと真っ赤なリボンがついた包装キットをカゴに入れる。

「うわっ、袋いっぱいになったねぇ」

 長蛇の列の末にようやく支払いを終えると、私が抱えたレジ袋を見て、多恵ちゃんが驚きの声を上げた。

「うん、そうだね」

 結構お金かかっちゃったけど、トリュフの材料を多恵ちゃんが半額出してくれて助かったぁ。1人で来てたら、お金足りなかったよ……
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