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矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。
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けれど、蚊が鳴くよりも、もっと小さい掠れた声しか出なかった。
「え?」
矢野くんが、聞き返す。
好き。好き。好き……
矢野くんが、好き……なの。
ずっと、言いたかった。言いたくて、言いたくて、仕方なかった。
「好き……矢野くんのことが、好きです。
矢野くんが好きって、言ってくれる前から……ずっと、好きでした」
涙で滲む、視界の向こう側に向かって伝える。
「……マジ、で?」
矢野くんは、信じられない……といった様子で、恐る恐る私に聞いてきた。
「……マジ、で」
同じように返すと、小さく頷く。
すると、突然フワッと空気が揺れて、気づけば私は矢野くんの腕の中にいた。
ぇ。えぇっ、うぅぅぅうわーっっ!!
制服を通して触れ合う距離の近さに、心臓が飛び出しそうなぐらいパニックに陥る。
けど、自分が横倒しのまま不自然な形で抱き締められてることに気づいて、そこから聞こえる矢野くんの心臓が私に負けないぐらいドキドキしているのを感じて、ふわっと気持ちが解けていった。
やっぱり、矢野くん……好きだなぁ。
「めちゃめちゃ、嬉しい……」
優しく柔らかく響く矢野くんの声に見上げると、彼の顔はほんの僅かの距離に迫っていて。
『ッッ!!』
二人同時に顔を赤らめ、瞬息の勢いで元の位置へと離れていく。
「ご、ごめっ!!」
「こ、こちらこそっ!!」
プシューッと頭から蒸気が出そうだった。
凍てついた空気が肌を刺す中、見回りの先生が校門へと向かうのが見えて立ち上がる。
「行こっか」
矢野くんの言葉に頷き、足早に校門へと急いだ。
校門を抜けると私は左手、矢野くんは右手に行くんだけど……
「今日は……家まで送ってもいい?」
矢野くんに聞かれ、マフラーに顔を埋めて頷いた。
私はコートを着てるけど、矢野くんは学生服だけだから寒そう。
「ぁ、あの……マフラー貸そうか?」
「ぇ。でもそれじゃ、水嶋さんが寒くない?」
「大丈夫だよ。コート着てるし、手袋もあるから」
マフラーを外し、正面から矢野くんにマフラーを掛けると、あまりに近い距離に顔が熱くなる。
「ぁ。すげぇ、あったかい……ありがとう」
目を細めて微笑む矢野くんに、ドキドキする。さっきまで顔を埋めてたマフラーを矢野くんがしてるんだって気づいて、なんて大胆なことしてしまったんだろうと恥ずかしくなった。
「なんで……クリスマスの時、マフラー渡してくれなかったの?」
矢野くんに聞かれ、心臓を杭で打たれたようにズキッと痛みが襲う。
「そ、それは……手編みのマフラーなんて、重いと思って……それに、すごく下手だし……」
消え入りそうな声で告げると、矢野くんが呟いた。
「水嶋さんが編んだ下手なマフラー、欲しかったな……」
もし今の気持ちを音で表現するなら、それは間違いなくキュンッて音で……そんな風に言ってから、照れた顔をマフラーに埋めた矢野くんにもまたキュンとして。私の心臓は鳴りっぱなしだった。
「ぁ。あの……今度は、もっと上手く編めると思うから……そしたら、もらって欲しい……です」
「うん。楽しみに、してる」
どうしよう、家に帰ったらすぐにでも編み始めたい気分……
小学校のフェンス沿いをぐるりと歩いて、横断歩道を右に曲がったら、いつもならずっと真っ直ぐ進むだけなんだけど、
「こっち、渡ろ」
矢野くんは、向かい側の道へと誘導した。
その先にあったのは、コンビニで。
「寒いし、ここで少し暖まってから行こうか」
矢野くんがコンビニの入口へと歩いて行き、私も慌てて後に続いた。
「え?」
矢野くんが、聞き返す。
好き。好き。好き……
矢野くんが、好き……なの。
ずっと、言いたかった。言いたくて、言いたくて、仕方なかった。
「好き……矢野くんのことが、好きです。
矢野くんが好きって、言ってくれる前から……ずっと、好きでした」
涙で滲む、視界の向こう側に向かって伝える。
「……マジ、で?」
矢野くんは、信じられない……といった様子で、恐る恐る私に聞いてきた。
「……マジ、で」
同じように返すと、小さく頷く。
すると、突然フワッと空気が揺れて、気づけば私は矢野くんの腕の中にいた。
ぇ。えぇっ、うぅぅぅうわーっっ!!
制服を通して触れ合う距離の近さに、心臓が飛び出しそうなぐらいパニックに陥る。
けど、自分が横倒しのまま不自然な形で抱き締められてることに気づいて、そこから聞こえる矢野くんの心臓が私に負けないぐらいドキドキしているのを感じて、ふわっと気持ちが解けていった。
やっぱり、矢野くん……好きだなぁ。
「めちゃめちゃ、嬉しい……」
優しく柔らかく響く矢野くんの声に見上げると、彼の顔はほんの僅かの距離に迫っていて。
『ッッ!!』
二人同時に顔を赤らめ、瞬息の勢いで元の位置へと離れていく。
「ご、ごめっ!!」
「こ、こちらこそっ!!」
プシューッと頭から蒸気が出そうだった。
凍てついた空気が肌を刺す中、見回りの先生が校門へと向かうのが見えて立ち上がる。
「行こっか」
矢野くんの言葉に頷き、足早に校門へと急いだ。
校門を抜けると私は左手、矢野くんは右手に行くんだけど……
「今日は……家まで送ってもいい?」
矢野くんに聞かれ、マフラーに顔を埋めて頷いた。
私はコートを着てるけど、矢野くんは学生服だけだから寒そう。
「ぁ、あの……マフラー貸そうか?」
「ぇ。でもそれじゃ、水嶋さんが寒くない?」
「大丈夫だよ。コート着てるし、手袋もあるから」
マフラーを外し、正面から矢野くんにマフラーを掛けると、あまりに近い距離に顔が熱くなる。
「ぁ。すげぇ、あったかい……ありがとう」
目を細めて微笑む矢野くんに、ドキドキする。さっきまで顔を埋めてたマフラーを矢野くんがしてるんだって気づいて、なんて大胆なことしてしまったんだろうと恥ずかしくなった。
「なんで……クリスマスの時、マフラー渡してくれなかったの?」
矢野くんに聞かれ、心臓を杭で打たれたようにズキッと痛みが襲う。
「そ、それは……手編みのマフラーなんて、重いと思って……それに、すごく下手だし……」
消え入りそうな声で告げると、矢野くんが呟いた。
「水嶋さんが編んだ下手なマフラー、欲しかったな……」
もし今の気持ちを音で表現するなら、それは間違いなくキュンッて音で……そんな風に言ってから、照れた顔をマフラーに埋めた矢野くんにもまたキュンとして。私の心臓は鳴りっぱなしだった。
「ぁ。あの……今度は、もっと上手く編めると思うから……そしたら、もらって欲しい……です」
「うん。楽しみに、してる」
どうしよう、家に帰ったらすぐにでも編み始めたい気分……
小学校のフェンス沿いをぐるりと歩いて、横断歩道を右に曲がったら、いつもならずっと真っ直ぐ進むだけなんだけど、
「こっち、渡ろ」
矢野くんは、向かい側の道へと誘導した。
その先にあったのは、コンビニで。
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矢野くんがコンビニの入口へと歩いて行き、私も慌てて後に続いた。
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