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招待状
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時を同じくして、同じ空の下。
シュタート王国本城から遠く離れたグレートブルタン国の城では、ルチアがバルコニーから空を見上げていた。
今夜は、満月の光がいつもより明るく感じる……
ふと、クロードと初めて出会った運命の夜を思い出す。
野盗に襲われ、危機に瀕していたルチアを救ったのが、クロードだった。
『お前、こんなところで何をしている?』
風になびく美しい漆黒の長髪が月の光を受けて煌き、ライトグレーの魅惑的な瞳に目を奪われた。
クロードの逞しい背中に隠れて怯えながらも、野盗に対して落ち着き払い、堂々とした威厳のある態度の彼に、怯えとは違う、胸の鼓動を感じたのだった。
あの時から私は、クロード様のことが……
森で救ってくれた男性が、数年後、シュタート王国の国王だと知った時には、ルチアは心臓が止まるかと思うくらい驚いた。
なぜなら、シュタート王国の国王は冷徹で非情な人物だと聞き及んでいたからだ。前国王であった父にクーデターを起こし、籠城したというニュースを聞いたときには、こちらにも被害が及ぶのではと恐れを抱いた。
前王を倒してシュタートの国王になったにもかかわらず、クロードは国民の前に姿を現さず、いつしか彼は陰で王国を操っているという噂が広まるようになった。
グレートブルタン国の王であるルチアの父は、こちらにも戦争を仕掛けられるかもしれないと危機感を強めていたが、シュタート王国から和平交渉を持ちかけられ、それに伴う条約締結のため、初めてクロード本人がグレートブルタン国を訪問することとなった。
緊張に満ちた歓迎の晩餐会にて、ルチアはクロードこそがあの時自分を野盗から救ってくれた男性だったと知ったのだった。その時の衝撃は、今でも忘れることはできない。
だが、再会したクロードにお礼を告げると、そんなことは知らないと突っぱねられた。ルチアに対して冷たく接し、心を閉ざしていたが、ルチアはそれは彼の本心ではないと感じていた。森で自分を助けてくれた時のクロードこそが、彼の本来の姿だと信じていた。
なんとかクロード様に自分のことを見て、理解して頂きたい……
そんな一途な想いを抱き、ルチアはずっとクロードを慕い続けてきた。
前王の歩兵の生き残りが反乱を起こしているという情報を手に入れ、必死の思いでそれを伝えにいったり、捕らえられたクロードを助けるため、父を説得してグレートブルタンの騎兵隊を向かわせたり、グレートブルタン国をクロードが狙っているという噂の出所を探り、真実を明らかにしたり……今思うと、危ない綱渡りを何度もしてきた。
その度にクロードがルチアを身を呈して守ってくれた。時に叱責されたこともあったが、それはクロードがルチアを心配するゆえのことだった。
クロードと接していく中で、今までに見せなかったような表情を少しずつ見せてくれるようになった。心を開いてくれるようになった。
それだけで、十分幸せだと思っていましたのに……
ずっと憧れだった、手に届かないと思っていたクロード様と心を通わせ、彼の妻になれただなんて……今でも信じられない。
深い闇のようでありながらも光を受けると眩しく輝く漆黒の長髪、凛々しく整った眉、見る者を強く惹きつける魅惑的なライトグレーの瞳、筋の通った高い鼻梁、意思の強さを感じさせるきつく結ばれた唇、シャープなフェースライン、彫刻美のような鍛えられた肉体、そして腰に響く低くて甘い声音。
『ルチア、愛している……』
誓約の儀でのクロードを思い出し、ルチアの頬が紅く染まり、胸が切なく震える。
「クロード様……」
早く、お会いしたい……
ルチアの紅く染まった頬を風が撫で、小さな囁きは漆黒の闇へ溶けていった。
シュタート王国本城から遠く離れたグレートブルタン国の城では、ルチアがバルコニーから空を見上げていた。
今夜は、満月の光がいつもより明るく感じる……
ふと、クロードと初めて出会った運命の夜を思い出す。
野盗に襲われ、危機に瀕していたルチアを救ったのが、クロードだった。
『お前、こんなところで何をしている?』
風になびく美しい漆黒の長髪が月の光を受けて煌き、ライトグレーの魅惑的な瞳に目を奪われた。
クロードの逞しい背中に隠れて怯えながらも、野盗に対して落ち着き払い、堂々とした威厳のある態度の彼に、怯えとは違う、胸の鼓動を感じたのだった。
あの時から私は、クロード様のことが……
森で救ってくれた男性が、数年後、シュタート王国の国王だと知った時には、ルチアは心臓が止まるかと思うくらい驚いた。
なぜなら、シュタート王国の国王は冷徹で非情な人物だと聞き及んでいたからだ。前国王であった父にクーデターを起こし、籠城したというニュースを聞いたときには、こちらにも被害が及ぶのではと恐れを抱いた。
前王を倒してシュタートの国王になったにもかかわらず、クロードは国民の前に姿を現さず、いつしか彼は陰で王国を操っているという噂が広まるようになった。
グレートブルタン国の王であるルチアの父は、こちらにも戦争を仕掛けられるかもしれないと危機感を強めていたが、シュタート王国から和平交渉を持ちかけられ、それに伴う条約締結のため、初めてクロード本人がグレートブルタン国を訪問することとなった。
緊張に満ちた歓迎の晩餐会にて、ルチアはクロードこそがあの時自分を野盗から救ってくれた男性だったと知ったのだった。その時の衝撃は、今でも忘れることはできない。
だが、再会したクロードにお礼を告げると、そんなことは知らないと突っぱねられた。ルチアに対して冷たく接し、心を閉ざしていたが、ルチアはそれは彼の本心ではないと感じていた。森で自分を助けてくれた時のクロードこそが、彼の本来の姿だと信じていた。
なんとかクロード様に自分のことを見て、理解して頂きたい……
そんな一途な想いを抱き、ルチアはずっとクロードを慕い続けてきた。
前王の歩兵の生き残りが反乱を起こしているという情報を手に入れ、必死の思いでそれを伝えにいったり、捕らえられたクロードを助けるため、父を説得してグレートブルタンの騎兵隊を向かわせたり、グレートブルタン国をクロードが狙っているという噂の出所を探り、真実を明らかにしたり……今思うと、危ない綱渡りを何度もしてきた。
その度にクロードがルチアを身を呈して守ってくれた。時に叱責されたこともあったが、それはクロードがルチアを心配するゆえのことだった。
クロードと接していく中で、今までに見せなかったような表情を少しずつ見せてくれるようになった。心を開いてくれるようになった。
それだけで、十分幸せだと思っていましたのに……
ずっと憧れだった、手に届かないと思っていたクロード様と心を通わせ、彼の妻になれただなんて……今でも信じられない。
深い闇のようでありながらも光を受けると眩しく輝く漆黒の長髪、凛々しく整った眉、見る者を強く惹きつける魅惑的なライトグレーの瞳、筋の通った高い鼻梁、意思の強さを感じさせるきつく結ばれた唇、シャープなフェースライン、彫刻美のような鍛えられた肉体、そして腰に響く低くて甘い声音。
『ルチア、愛している……』
誓約の儀でのクロードを思い出し、ルチアの頬が紅く染まり、胸が切なく震える。
「クロード様……」
早く、お会いしたい……
ルチアの紅く染まった頬を風が撫で、小さな囁きは漆黒の闇へ溶けていった。
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