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ワンコとホワイトデー
1
……面白くない。
営業部第二課の入口の扉を遮るように、波留は4人の女子社員(恐らく見た目からして同期)に囲まれていた。
「波留くん、バレンタインのお返しありがとぉ!」
「もらえるの期待してなかったから嬉しい♪」
「ねぇねぇ、今度の同期会、いつにするぅ?」
「先月は波留くん来なかったから盛り上がらなくて寂しかったもん!今回は絶対来てよね?」
瞳からも脳内からもハートが飛びまくってる女子社員を視界の斜め端に入れながら、黙々とパソコンのキーボードをいつもより強めに打ちつける私。
『波留くん』とか呼んじゃって馴れ馴れしい……
てか、距離近すぎじゃない?
聞きたくないって気持ちはあるものの、女子たちの嬌声の混じった甲高い声にどうしても意識が集中し、聞き耳をたててしまう。
「いや、たいしたものじゃないんだけど……同期会の日にち決まったら教えて。
じゃ、仕事あるから……」
波留は女子たちにサラッと告げると、例のアイドル顔負けの爽やかな笑みを4人に向け、手を上げると余韻を残しながら席へと戻っていく。
当然その場にいた4人の女子、いや……営業部第二課の女子社員全員が波留の笑顔に少し頬を赤らめ、去っていく波留の一挙手一投足を目で追っていた。
あぁ、もぉっっ……!
あんな笑顔見せたらダメでしょ……無自覚ワンコめっ!!
イライライライラ…………
「原田先輩♪コピー30部とってきましたぁ!」
波留は何事もなかったかのように(まぁ、別に後ろめたいことがないからだけど)私にもとびきりのアイドルスマイルをサービスして見せ、依頼していた会議用の企画書のコピーを渡して尻尾を振った……ように、見えた。
「ありがと」
そんな波留に目も合わさず、書類に視線を落としたまま受け取るとバサッと波留の机の間に書類を置いた。そして、何食わぬ表情を装ってパソコンへと視線を戻す、可愛げのない私……
「美緒、先輩……」
波留の傷付いた声に、胸がチクリと傷む。見えてなくても分かる……きっと、波留は俯き、悲しげに長い睫毛を揺らしているに違いない。
ふんっ、知らないっ……
すると、波留がキーボードを打ち込もうとした私の手を握って、回転椅子をくるりとさせると自分の方へと向けた。
「ゆ、柚木くんっ! 何、するの!?」
「僕……何か、しました?」
波留が私の視線に合わせて膝を曲げ、少し首を傾げて不安そうに見つめる。思い描いていた通り長い睫毛を揺らし、キャラメル色の瞳は悲しげに潤んでいる。
ヴっ……なんで私の方が罪悪感感じさせられなきゃいけないのよ……
波留の視線も苦しいけど、営業部女子社員から突き刺さる殺気のような視線も痛い。
けれど、それと同時に私は嬉しさも感じていた。
波留が私の言動に反応し、傷付いてる……それは、波留が私を好きなのだと実感させ、優越感と安堵を与えてくれる。
もっと…もっと…波留を傷付けたら、彼はどうなってしまうのだろう。
例えば、今ここで『別れたい』なんて言ったら?
そんな考えが一瞬脳裏に過る。
波留は、どんな表情をして、どんな言葉を発して……私の愛情を取り戻そうとしてくれるのだろう。
そう思うと身体中がゾクゾクする。もちろん、現実にはそんなことはしないけど。
「は、波留がデレデレしてるから悪いんだから……」
やつ当りって分かっていても負け惜しみのように小さく呟く。
「え……?」
波留がキョトンと私を見つめる。
「……私、まだお返しもらってないし……」
彼女である私はまだ何ももらってないのに、なんであの子たちが先にお返しもらってるのよ……
そんな嫉妬心から、波留に対して恨み言が出てしまう。
いい年して、何拗ねてるんだろうって思うケド、止められない……
あぁ、もうっっ! ヤダ、こんな私……
波留に、見られたくない……
嫉妬した醜い顔を見せないように俯く。
「……原田先輩、今夜僕の家に来てもらえませんか?」
波留からの一言にドキン、と鼓動が跳ねる。少しだけ上目遣いでそっと見上げると、波留が頬を染めながら私を見つめている。その瞳は艶やかに潤みをもっていて優しく細められている。
飛び跳ねた鼓動は今度はドキドキ……と早鐘を打ち始める。
「うん、分かった……」
今日はホワイトデー。
波留は、どんなホワイトデープレゼントを用意していてくれるのかな……
営業部第二課の入口の扉を遮るように、波留は4人の女子社員(恐らく見た目からして同期)に囲まれていた。
「波留くん、バレンタインのお返しありがとぉ!」
「もらえるの期待してなかったから嬉しい♪」
「ねぇねぇ、今度の同期会、いつにするぅ?」
「先月は波留くん来なかったから盛り上がらなくて寂しかったもん!今回は絶対来てよね?」
瞳からも脳内からもハートが飛びまくってる女子社員を視界の斜め端に入れながら、黙々とパソコンのキーボードをいつもより強めに打ちつける私。
『波留くん』とか呼んじゃって馴れ馴れしい……
てか、距離近すぎじゃない?
聞きたくないって気持ちはあるものの、女子たちの嬌声の混じった甲高い声にどうしても意識が集中し、聞き耳をたててしまう。
「いや、たいしたものじゃないんだけど……同期会の日にち決まったら教えて。
じゃ、仕事あるから……」
波留は女子たちにサラッと告げると、例のアイドル顔負けの爽やかな笑みを4人に向け、手を上げると余韻を残しながら席へと戻っていく。
当然その場にいた4人の女子、いや……営業部第二課の女子社員全員が波留の笑顔に少し頬を赤らめ、去っていく波留の一挙手一投足を目で追っていた。
あぁ、もぉっっ……!
あんな笑顔見せたらダメでしょ……無自覚ワンコめっ!!
イライライライラ…………
「原田先輩♪コピー30部とってきましたぁ!」
波留は何事もなかったかのように(まぁ、別に後ろめたいことがないからだけど)私にもとびきりのアイドルスマイルをサービスして見せ、依頼していた会議用の企画書のコピーを渡して尻尾を振った……ように、見えた。
「ありがと」
そんな波留に目も合わさず、書類に視線を落としたまま受け取るとバサッと波留の机の間に書類を置いた。そして、何食わぬ表情を装ってパソコンへと視線を戻す、可愛げのない私……
「美緒、先輩……」
波留の傷付いた声に、胸がチクリと傷む。見えてなくても分かる……きっと、波留は俯き、悲しげに長い睫毛を揺らしているに違いない。
ふんっ、知らないっ……
すると、波留がキーボードを打ち込もうとした私の手を握って、回転椅子をくるりとさせると自分の方へと向けた。
「ゆ、柚木くんっ! 何、するの!?」
「僕……何か、しました?」
波留が私の視線に合わせて膝を曲げ、少し首を傾げて不安そうに見つめる。思い描いていた通り長い睫毛を揺らし、キャラメル色の瞳は悲しげに潤んでいる。
ヴっ……なんで私の方が罪悪感感じさせられなきゃいけないのよ……
波留の視線も苦しいけど、営業部女子社員から突き刺さる殺気のような視線も痛い。
けれど、それと同時に私は嬉しさも感じていた。
波留が私の言動に反応し、傷付いてる……それは、波留が私を好きなのだと実感させ、優越感と安堵を与えてくれる。
もっと…もっと…波留を傷付けたら、彼はどうなってしまうのだろう。
例えば、今ここで『別れたい』なんて言ったら?
そんな考えが一瞬脳裏に過る。
波留は、どんな表情をして、どんな言葉を発して……私の愛情を取り戻そうとしてくれるのだろう。
そう思うと身体中がゾクゾクする。もちろん、現実にはそんなことはしないけど。
「は、波留がデレデレしてるから悪いんだから……」
やつ当りって分かっていても負け惜しみのように小さく呟く。
「え……?」
波留がキョトンと私を見つめる。
「……私、まだお返しもらってないし……」
彼女である私はまだ何ももらってないのに、なんであの子たちが先にお返しもらってるのよ……
そんな嫉妬心から、波留に対して恨み言が出てしまう。
いい年して、何拗ねてるんだろうって思うケド、止められない……
あぁ、もうっっ! ヤダ、こんな私……
波留に、見られたくない……
嫉妬した醜い顔を見せないように俯く。
「……原田先輩、今夜僕の家に来てもらえませんか?」
波留からの一言にドキン、と鼓動が跳ねる。少しだけ上目遣いでそっと見上げると、波留が頬を染めながら私を見つめている。その瞳は艶やかに潤みをもっていて優しく細められている。
飛び跳ねた鼓動は今度はドキドキ……と早鐘を打ち始める。
「うん、分かった……」
今日はホワイトデー。
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