私より美しく女装した弟に、婚約者が私だと勘違いして一目惚れしてしまいました

奏音 美都

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どうか弟が男性であることがバレませんように……!

 アーロンのエスコートでミッチェルが馬車を降りる。今日ミッチェルが社交界デビューするのは、グローセスター公爵主催の舞踏会だ。門から入口の扉まで馬車でもかなりの距離があり、館は豪奢で宮殿のようだった。

 多くの馬車が横付けされ、次々に招待客が降りていた。

 ジュリエッタがその様子を見つめ、緊張に満ちた表情で喉をゴクリと鳴らした。

 大丈夫……バレることはないわ。
 今の時期はパブリックスクールの学生は寮生活をしているため、舞踏会に参加することはできない。ミッチェルが知り合いに会う可能性はないはずだわ。

 ジュリエッタはミッチェル達に続き、両親と共に建物の中へと入って行った。

 両側から曲線を描いておりている大理石の階段には真紅のベルベットの絨毯が敷かれおり、壁には今をときめくモネやルノワールといった印象派達の絵画がかけられ、猫足の曲線が優美なチェストの上には流行のジャポニスムを取り入れた壺が飾られている。既に大勢の正装した男女が溢れかえっており、華々しいムードが会場全体に漂っていた。

 ミッチェルは瞳を輝かせ、アーロンに話しかけていた。傍目には仲の良い男女の婚約者そのものに見え、ジュリエッタはホッと息を吐いた。

 ウェルカムドリンクを受け取り、舞踏会会場となる大ホールへと向かおうとするが、ニコラスとマリエンヌが主催であるグローセスター公爵に声を掛けられて立ち止まった。

「本日は、お招きいただきましてありがとうございます」

 両親と共に挨拶し、笑顔で会話を交わすものの、ジュリエッタは気もそぞろでまったく内容が頭に入ってなかった。

 ミッチェルとアーロン様は大丈夫かしら……

 目で追っているふたりが、視界の端に消えかかっていた。

「申し訳ございません、失礼いたします」

 ジュリエッタは公爵にお辞儀すると、足早にミッチェル達を追った。

 舞踏会会場はとてつもなく広く、本格的なオーケストラまで用意されていた。

「ミッチェル!」

 ジュリエッタが呼びかけるとミッチェルが振り返り、花が開いたような笑顔を見せた。

「ジュリエッタお姉様。私、デビュタントのお披露目に行って参りますね」
「え。えぇ……どうか、気をつけて」

 ジュリエッタが不安な眼差しを向けると、アーロンがにこりと微笑んだ。

「大丈夫ですよ。この日のために私もダンスの特訓をしてきましたから。立派にエスコートしてみせます」
「まぁ、頼もしいですわ」

 ウフフとミッチェルが上品に笑い、ふたりは去って行った。

 あぁ、ミッチェル達よりも私の方が緊張してるじゃないの。
 早く……終わってほしいわ。

 しばらくすると、ファンファーレが鳴り響いた。会場にワルツが流れ、舞台の端から男女のグループが現れた。女性は純白のドレスに羽の髪飾りをつけ、男性はタキシードを身に纏っている。デビュタントによるカドリーユのダンスだ。

 華麗な音楽に合わせてドレスがくるくると周り、次々に男女が入れ替わりながらステップを踏んで踊る。その中には、ミッチェルとアーロンの姿もあった。ミッチェルは女性として違和感なく溶け込んでいた。

 これが終わると、いよいよ正式なデビュタントのお披露目となる。カドリーユの時と違い、ひとりひとりに視線が向けられるため、一番注目が集まる危険な場面だ。

 男女ペアで縦に並び、オーケストラの演奏が流れる中、デビュタントたちが入場する。

 1組ずつ皆の前に立ち、デビュタントが紹介される。

 ついに、ミッチェルがアーロンと腕を組んで前へと進み出た。

「ミッチェル・グレース・トンプソン嬢。ウエスト・ミッドランドのジェントリ、ニコラス・クリストファー・トンプソンの二女」

 ミッチェルが優雅に膝をおって挨拶をすると、周囲から溜息が零れた。

 ミッチェルのミドルネーム、グレースは本来女性につける名だが、マリエンヌがどうしても譲らず、父と喧嘩した末に決められた経緯がある。ジュリエッタは、あの時父が折れてくれて本当に良かったと思った。

 すべてのデビュタント達の紹介が終わると、全員が左右それぞれの端に並んだ。これから、お披露目のダンスとなる。

 デビュタント達が列を保ったまま前に進み出た。ミッチェルとアーロンは真ん中あたりに並んでいた。

 ミッチェルが片膝をつき、アーロンは繋いでいる手の甲に口づけを落とす真似をした。アーロンが促すように少し手を持ち上げ、ミッチェルが立ち上がる。左手をアーロンの右腕に添え、ダンスの姿勢に入った。

 オーケストラの演奏でワルツが流れ、皆が一斉にドレスを揺らしてステップを踏み始める。

 ミッチェルもアーロンも、舞踏会の主役のように輝いていた。誰もミッチェルを見て男性だと疑う人はいないだろう。

 それでも、ジュリエッタは生きている心地がしなかった。

 あぁ、今日だけで寿命が10年ぐらい縮まったような気がするわ。お披露目のダンスが終わったら、グローセスター公爵に挨拶をして、すぐに帰りましょう。

 その時、後ろから声をかけられた。

「やぁジュリエッタ、来てくれて嬉しいよ」
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