私より美しく女装した弟に、婚約者が私だと勘違いして一目惚れしてしまいました

奏音 美都

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社交界デビュー

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 ジュリエッタが両親と相談した上で決めたのは、ミッチェルの婚姻を早めることだった。

 当初は16歳で社交界デビューしてから結婚式を挙げる予定だったが、それを1年早めて今年に行う。

 それをミッチェルに話したところ、結婚式はすぐにでも挙げたいと乗り気だったが、社交界デビューについては浮かない表情だった。

「どうしても、社交界デビューしなくてはならないのですか……?」

 そう尋ねたミッチェルに、ニコラスが溜息を吐いた。

「上流社会の令嬢にとって、デビュタントとして社交界デビューすることは避けては通れない。しかも、その際は婚約者であるアーロン様が付き添うことになるのだ。もし、社交界デビューしなければ、不審がられることになるだろう」
「ですが、同じパブリックスクールに通っていた方達に会うかもしれないのですよ。そうしたら、私が男性だとバレて社交界の噂の的になってしまいます……しかも、その場にはアーロン様もいますのに」

 それは、ミッチェルだけでなく、家族全員にとっても避けたいことだった。

 ジュリエッタが喉を鳴らした。

「小さな集まりに出れば、ミッチェルの存在がかえって目立ってしまうかもしれません。
 木を隠すには森の中。できるだけ大きな社交場に参加して、大勢の中に紛れるようにしましょう」
「そうね……そうするしか、ないわね」

 母のマリエンヌが覚悟を決めたように頷くと、ミッチェルも仕方なく従った。

 手紙でアーロンと彼の両親に打診したところ、すぐに快諾の返事をもらった。

 一番大きなデビュタントの舞台といえば、王宮で行われる舞踏会だが、そこには上流貴族しか出席できないため、二番目に大きな舞踏会に出席することが決まり、慌ただしく準備が始まった。

 ミッチェルは既に社交ダンスは習っていたので問題ないが、舞踏会ではカドリーユ(4組の男女のカップルがスクエアになって踊る)も踊らなくてはならないので、その練習をしなければならなかった。

 ジュリエッタもデビュタントとして舞踏会に出席した時にカドリーユを踊ったが、一緒に踊った男性の足を思い切り踏みつけてしまい、それから二度と踊っていない。

 デビュタントのドレスは必ず白と決まっており、髪に羽飾りをつける。その他にも靴、アクセサリー、ブーケの発注をしたり、写真館の予約を取ったりと慌ただしい。ミッチェルだけでなく、付き添い役であるマリエンヌとジュリエッタもそれぞれドレスや小物の手配をせねばならなかった。

 いよいよ、当日を迎えた。

 朝からミッチェルは落ち着きなくそわそわしていた。緊張をほぐすようにカドリーユの練習をしたが、上の空で、結局練習にならなかった。
 
 午後になり、アーロンが訪れた。アーロンは、赤に金ボタンがついた軍服に身を包んでいた。やはり、こうして見るといい男だ。

 だが、ジュリエッタには、ミッチェルに対して羨ましいだとか嫉妬心はいっさい感じなかった。アーロンは確かに見目はいいが、男性としての魅力を感じない。なにより、彼がジュリエッタに興味がないのだから。

 アーロンと婚姻を交わすより、たとえ一生を独身で過ごすことになってもジェントリとして生きる方が、ジュリエッタにとっては魅力的だった。

「アーロン様、ようこそいらっしゃいました」

 恥ずかしげに頬を染め、ミッチェルがアーロンを迎える。胸元に金糸のこまかな刺繍がほどこしてある純白のドレスは、まるでウェディングドレス を思わせる。肩は出ているものの、この日の為にダイエットした努力の成果と長いサテンの手袋のおかげで男性的なラインは感じられなかった。美しく結い上げた髪には豪勢な白い羽飾りをつけ、華やかな顔立ちに彩りを添えていた。

 アーロンがミッチェルを見つめたまま、暫し見惚れた。

「……なんて、美しいんだ」

 その言葉を聞き、ミッチェルが嬉しそうに唇を緩めて俯いた。

 舞踏会が始まるのは夜からだ。まずは写真館に行き、ミッチェルとアーロン、そして家族写真を撮影した。それから家に戻ってお茶を飲んだり、談笑をしたりして時間を過ごしたが、これからのことを思うとアーロン以外の人間は気が気でなかった。

 時計が7時の鐘を打つ。

 手配していた馬車が、こちらに向かってくるのが窓越しに見えた。

「では、まいりましょうか」

 アーロンが腕を差し出し、ミッチェルが腕を絡めた。その顔が緊張で引き攣っている。

 あぁ、どうか社交界デビューが何事もなく、無事に終わりますように。

 ジュリエッタは心の中で祈った。
 
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