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フランツ様を招いてのお茶会
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その日、ジュリエッタはそわそわと落ち着きなく家の中を歩き回っていた。こんな気持ちになるのは、アーロンが婚約者として初顔合わせをする日以来だった。
けれど、あの時のように華美なドレスを着てもいないし、みょうちくりんな化粧もしていなかった。ジュリエッタは、ありのままの自分でフランツと接しようと心に決めていたのだ。
扉がノックされ、メイドが出迎えようとしたが、ジュリエッタがそれを制した。
「私がお迎えします」
今回は使用人が勢揃いしての仰々しい出迎えではない。ジュリエッタは、気軽な感じでフランツを出迎えたかった。
扉を開けると、フランツがにっこりとジュリエッタに笑顔を見せた。ジュリエッタが好きな、いつものあの笑顔だ。
「お茶会の誘いを、どうもありがとう」
「いえ、こちらこそ。来ていただけて、嬉しいですわ。
さぁ、どうぞ」
ジュリエッタはフランツを応接間へと案内する。フランツは初めて訪問するジュリエッタの屋敷に、少し緊張気味な様子を見せた。
「今日、父君と母君はどちらに?」
「父は所用で出かけておりますが、母は家におります。後で、挨拶に伺うと申しておりました」
「……ミッチェルは?」
気遣うように小声で囁かれ、ジュリエッタは小さく肩を震わせた。
「また……部屋に引きこもっていますの」
「そうなんだね……」
応接間の扉を開け、フランツを部屋に通す。
フランツがソファに座ると、扉がノックされ、ワゴンを引いたメイドが入ってきてアフタヌーンティーの用意をした。
ジュリエッタが正面に座るフランツに頭を下げた。
「あの時は……本当に、申し訳ございませんでした。せっかく、グローセスター公爵に舞踏会にご招待いただきましたのに、台無しにしてしまって」
今日フランツを呼び出したのは、まずは直接謝罪をしたいという思いもあったからだった。
フランツは慌てて両手を振った。
「いやいや! 手紙でも伝えたけど、本当に気にしなくて大丈夫だから」
「あの後……大変じゃありませんでしたか?」
ジュリエッタが尋ねると、フランツは言葉を詰まらせた。
やはり、そうでしたか……
想像はついていたものの、ジュリエッタは申し訳ない気持ちになった。
メイドがティーカップをジュリエッタにサーブし、彼女はフランツに紅茶を勧めた。自身もティーカップを手にし、紅茶を上品に口にしてから溜息混じりに呟いた。
「ミッチェルの女装や逃亡について、色々と噂になっているのでしょうね」
「ま、まぁ……社交界ってのは、とかく噂好きな人が多いからね」
「そうですわよね……」
気落ちしているジュリエッタを励ますように、フランツが声をかける。
「僕は、気にしていないよ。きっと……弟さんや君たちご家族にも、何か事情があったんだろうし。わざとソワール子爵を陥れるようなことをするはずがないと、信じてるから」
力強いフランツの声に、ジュリエッタの胸が震えた。
本当に……フランツ様ってなんて心が広い方なのでしょう。
「最初は、そのつもりはありませんでしたが……結局、アーロン様を裏切ったことに変わりありませんわ。私たちは、彼を騙し、裏切り、陥れてしまったのです。
フランツ様に、恥を忍んでお話いたします……」
ジュリエッタはフランツに、元々はアーロンがジュリエッタと婚約する予定であったことや、女装したミッチェルの登場によりアーロンが弟と婚約するまでに至った経緯を語った。
「そう、だったのか……」
ジュリエッタの話を聞き終え、フランツは息を吐き出した。
「ジュリエッタ……君は、アーロンとの婚約を望んでいたのかい?」
ジュリエッタは目を伏せ、睫毛を揺らした。
「私は……ずっと両親から、貴族の嫡男以外の男性との結婚は認めないと言われて育ってきました。けれど、私との婚約を望んでくださる方はおらず、婚姻を諦めかけていました。
そんな時に現れたのが、アーロン様でした。彼は私自身を好きなわけではなく、彼もまたお家のために経済援助を条件に私と婚約することを決めたのです。たとえそれが理由であっても、こんな私を受け入れてくださったことを嬉しく思っていました」
フランツは、「そうか……」と答え、苦しげな表情を見せた。
「確かに、アーロン様が私ではなく、ミッチェルを選んだ時には落胆いたしました。もう私には結婚の望みはなくなったのだと、絶望的な気持ちになりました。
けれど……ミッチェルをアーロン様の婚約者として了承する代わりに父に提案した条件により、私の気持ちががらりと変わったのです」
フランツが興味深気にジュリエッタを見つめる。
「条件?」
「えぇ」
ジュリエッタが頷き、こくりと喉を鳴らす。
「ミッチェルとアーロン様の婚約が成功しようが、失敗しまいが……私がこの家を継いでジェントリになること。
その暁には、今まで結婚相手の条件としていた貴族の嫡男でなくとも、私が自由に結婚相手を選ぶことができること。
このふたつを条件とし、父はそれを了承してくれたのです」
けれど、あの時のように華美なドレスを着てもいないし、みょうちくりんな化粧もしていなかった。ジュリエッタは、ありのままの自分でフランツと接しようと心に決めていたのだ。
扉がノックされ、メイドが出迎えようとしたが、ジュリエッタがそれを制した。
「私がお迎えします」
今回は使用人が勢揃いしての仰々しい出迎えではない。ジュリエッタは、気軽な感じでフランツを出迎えたかった。
扉を開けると、フランツがにっこりとジュリエッタに笑顔を見せた。ジュリエッタが好きな、いつものあの笑顔だ。
「お茶会の誘いを、どうもありがとう」
「いえ、こちらこそ。来ていただけて、嬉しいですわ。
さぁ、どうぞ」
ジュリエッタはフランツを応接間へと案内する。フランツは初めて訪問するジュリエッタの屋敷に、少し緊張気味な様子を見せた。
「今日、父君と母君はどちらに?」
「父は所用で出かけておりますが、母は家におります。後で、挨拶に伺うと申しておりました」
「……ミッチェルは?」
気遣うように小声で囁かれ、ジュリエッタは小さく肩を震わせた。
「また……部屋に引きこもっていますの」
「そうなんだね……」
応接間の扉を開け、フランツを部屋に通す。
フランツがソファに座ると、扉がノックされ、ワゴンを引いたメイドが入ってきてアフタヌーンティーの用意をした。
ジュリエッタが正面に座るフランツに頭を下げた。
「あの時は……本当に、申し訳ございませんでした。せっかく、グローセスター公爵に舞踏会にご招待いただきましたのに、台無しにしてしまって」
今日フランツを呼び出したのは、まずは直接謝罪をしたいという思いもあったからだった。
フランツは慌てて両手を振った。
「いやいや! 手紙でも伝えたけど、本当に気にしなくて大丈夫だから」
「あの後……大変じゃありませんでしたか?」
ジュリエッタが尋ねると、フランツは言葉を詰まらせた。
やはり、そうでしたか……
想像はついていたものの、ジュリエッタは申し訳ない気持ちになった。
メイドがティーカップをジュリエッタにサーブし、彼女はフランツに紅茶を勧めた。自身もティーカップを手にし、紅茶を上品に口にしてから溜息混じりに呟いた。
「ミッチェルの女装や逃亡について、色々と噂になっているのでしょうね」
「ま、まぁ……社交界ってのは、とかく噂好きな人が多いからね」
「そうですわよね……」
気落ちしているジュリエッタを励ますように、フランツが声をかける。
「僕は、気にしていないよ。きっと……弟さんや君たちご家族にも、何か事情があったんだろうし。わざとソワール子爵を陥れるようなことをするはずがないと、信じてるから」
力強いフランツの声に、ジュリエッタの胸が震えた。
本当に……フランツ様ってなんて心が広い方なのでしょう。
「最初は、そのつもりはありませんでしたが……結局、アーロン様を裏切ったことに変わりありませんわ。私たちは、彼を騙し、裏切り、陥れてしまったのです。
フランツ様に、恥を忍んでお話いたします……」
ジュリエッタはフランツに、元々はアーロンがジュリエッタと婚約する予定であったことや、女装したミッチェルの登場によりアーロンが弟と婚約するまでに至った経緯を語った。
「そう、だったのか……」
ジュリエッタの話を聞き終え、フランツは息を吐き出した。
「ジュリエッタ……君は、アーロンとの婚約を望んでいたのかい?」
ジュリエッタは目を伏せ、睫毛を揺らした。
「私は……ずっと両親から、貴族の嫡男以外の男性との結婚は認めないと言われて育ってきました。けれど、私との婚約を望んでくださる方はおらず、婚姻を諦めかけていました。
そんな時に現れたのが、アーロン様でした。彼は私自身を好きなわけではなく、彼もまたお家のために経済援助を条件に私と婚約することを決めたのです。たとえそれが理由であっても、こんな私を受け入れてくださったことを嬉しく思っていました」
フランツは、「そうか……」と答え、苦しげな表情を見せた。
「確かに、アーロン様が私ではなく、ミッチェルを選んだ時には落胆いたしました。もう私には結婚の望みはなくなったのだと、絶望的な気持ちになりました。
けれど……ミッチェルをアーロン様の婚約者として了承する代わりに父に提案した条件により、私の気持ちががらりと変わったのです」
フランツが興味深気にジュリエッタを見つめる。
「条件?」
「えぇ」
ジュリエッタが頷き、こくりと喉を鳴らす。
「ミッチェルとアーロン様の婚約が成功しようが、失敗しまいが……私がこの家を継いでジェントリになること。
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このふたつを条件とし、父はそれを了承してくれたのです」
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