15 / 25
フランツ様を招いてのお茶会
その日、ジュリエッタはそわそわと落ち着きなく家の中を歩き回っていた。こんな気持ちになるのは、アーロンが婚約者として初顔合わせをする日以来だった。
けれど、あの時のように華美なドレスを着てもいないし、みょうちくりんな化粧もしていなかった。ジュリエッタは、ありのままの自分でフランツと接しようと心に決めていたのだ。
扉がノックされ、メイドが出迎えようとしたが、ジュリエッタがそれを制した。
「私がお迎えします」
今回は使用人が勢揃いしての仰々しい出迎えではない。ジュリエッタは、気軽な感じでフランツを出迎えたかった。
扉を開けると、フランツがにっこりとジュリエッタに笑顔を見せた。ジュリエッタが好きな、いつものあの笑顔だ。
「お茶会の誘いを、どうもありがとう」
「いえ、こちらこそ。来ていただけて、嬉しいですわ。
さぁ、どうぞ」
ジュリエッタはフランツを応接間へと案内する。フランツは初めて訪問するジュリエッタの屋敷に、少し緊張気味な様子を見せた。
「今日、父君と母君はどちらに?」
「父は所用で出かけておりますが、母は家におります。後で、挨拶に伺うと申しておりました」
「……ミッチェルは?」
気遣うように小声で囁かれ、ジュリエッタは小さく肩を震わせた。
「また……部屋に引きこもっていますの」
「そうなんだね……」
応接間の扉を開け、フランツを部屋に通す。
フランツがソファに座ると、扉がノックされ、ワゴンを引いたメイドが入ってきてアフタヌーンティーの用意をした。
ジュリエッタが正面に座るフランツに頭を下げた。
「あの時は……本当に、申し訳ございませんでした。せっかく、グローセスター公爵に舞踏会にご招待いただきましたのに、台無しにしてしまって」
今日フランツを呼び出したのは、まずは直接謝罪をしたいという思いもあったからだった。
フランツは慌てて両手を振った。
「いやいや! 手紙でも伝えたけど、本当に気にしなくて大丈夫だから」
「あの後……大変じゃありませんでしたか?」
ジュリエッタが尋ねると、フランツは言葉を詰まらせた。
やはり、そうでしたか……
想像はついていたものの、ジュリエッタは申し訳ない気持ちになった。
メイドがティーカップをジュリエッタにサーブし、彼女はフランツに紅茶を勧めた。自身もティーカップを手にし、紅茶を上品に口にしてから溜息混じりに呟いた。
「ミッチェルの女装や逃亡について、色々と噂になっているのでしょうね」
「ま、まぁ……社交界ってのは、とかく噂好きな人が多いからね」
「そうですわよね……」
気落ちしているジュリエッタを励ますように、フランツが声をかける。
「僕は、気にしていないよ。きっと……弟さんや君たちご家族にも、何か事情があったんだろうし。わざとソワール子爵を陥れるようなことをするはずがないと、信じてるから」
力強いフランツの声に、ジュリエッタの胸が震えた。
本当に……フランツ様ってなんて心が広い方なのでしょう。
「最初は、そのつもりはありませんでしたが……結局、アーロン様を裏切ったことに変わりありませんわ。私たちは、彼を騙し、裏切り、陥れてしまったのです。
フランツ様に、恥を忍んでお話いたします……」
ジュリエッタはフランツに、元々はアーロンがジュリエッタと婚約する予定であったことや、女装したミッチェルの登場によりアーロンが弟と婚約するまでに至った経緯を語った。
「そう、だったのか……」
ジュリエッタの話を聞き終え、フランツは息を吐き出した。
「ジュリエッタ……君は、アーロンとの婚約を望んでいたのかい?」
ジュリエッタは目を伏せ、睫毛を揺らした。
「私は……ずっと両親から、貴族の嫡男以外の男性との結婚は認めないと言われて育ってきました。けれど、私との婚約を望んでくださる方はおらず、婚姻を諦めかけていました。
そんな時に現れたのが、アーロン様でした。彼は私自身を好きなわけではなく、彼もまたお家のために経済援助を条件に私と婚約することを決めたのです。たとえそれが理由であっても、こんな私を受け入れてくださったことを嬉しく思っていました」
フランツは、「そうか……」と答え、苦しげな表情を見せた。
「確かに、アーロン様が私ではなく、ミッチェルを選んだ時には落胆いたしました。もう私には結婚の望みはなくなったのだと、絶望的な気持ちになりました。
けれど……ミッチェルをアーロン様の婚約者として了承する代わりに父に提案した条件により、私の気持ちががらりと変わったのです」
フランツが興味深気にジュリエッタを見つめる。
「条件?」
「えぇ」
ジュリエッタが頷き、こくりと喉を鳴らす。
「ミッチェルとアーロン様の婚約が成功しようが、失敗しまいが……私がこの家を継いでジェントリになること。
その暁には、今まで結婚相手の条件としていた貴族の嫡男でなくとも、私が自由に結婚相手を選ぶことができること。
このふたつを条件とし、父はそれを了承してくれたのです」
けれど、あの時のように華美なドレスを着てもいないし、みょうちくりんな化粧もしていなかった。ジュリエッタは、ありのままの自分でフランツと接しようと心に決めていたのだ。
扉がノックされ、メイドが出迎えようとしたが、ジュリエッタがそれを制した。
「私がお迎えします」
今回は使用人が勢揃いしての仰々しい出迎えではない。ジュリエッタは、気軽な感じでフランツを出迎えたかった。
扉を開けると、フランツがにっこりとジュリエッタに笑顔を見せた。ジュリエッタが好きな、いつものあの笑顔だ。
「お茶会の誘いを、どうもありがとう」
「いえ、こちらこそ。来ていただけて、嬉しいですわ。
さぁ、どうぞ」
ジュリエッタはフランツを応接間へと案内する。フランツは初めて訪問するジュリエッタの屋敷に、少し緊張気味な様子を見せた。
「今日、父君と母君はどちらに?」
「父は所用で出かけておりますが、母は家におります。後で、挨拶に伺うと申しておりました」
「……ミッチェルは?」
気遣うように小声で囁かれ、ジュリエッタは小さく肩を震わせた。
「また……部屋に引きこもっていますの」
「そうなんだね……」
応接間の扉を開け、フランツを部屋に通す。
フランツがソファに座ると、扉がノックされ、ワゴンを引いたメイドが入ってきてアフタヌーンティーの用意をした。
ジュリエッタが正面に座るフランツに頭を下げた。
「あの時は……本当に、申し訳ございませんでした。せっかく、グローセスター公爵に舞踏会にご招待いただきましたのに、台無しにしてしまって」
今日フランツを呼び出したのは、まずは直接謝罪をしたいという思いもあったからだった。
フランツは慌てて両手を振った。
「いやいや! 手紙でも伝えたけど、本当に気にしなくて大丈夫だから」
「あの後……大変じゃありませんでしたか?」
ジュリエッタが尋ねると、フランツは言葉を詰まらせた。
やはり、そうでしたか……
想像はついていたものの、ジュリエッタは申し訳ない気持ちになった。
メイドがティーカップをジュリエッタにサーブし、彼女はフランツに紅茶を勧めた。自身もティーカップを手にし、紅茶を上品に口にしてから溜息混じりに呟いた。
「ミッチェルの女装や逃亡について、色々と噂になっているのでしょうね」
「ま、まぁ……社交界ってのは、とかく噂好きな人が多いからね」
「そうですわよね……」
気落ちしているジュリエッタを励ますように、フランツが声をかける。
「僕は、気にしていないよ。きっと……弟さんや君たちご家族にも、何か事情があったんだろうし。わざとソワール子爵を陥れるようなことをするはずがないと、信じてるから」
力強いフランツの声に、ジュリエッタの胸が震えた。
本当に……フランツ様ってなんて心が広い方なのでしょう。
「最初は、そのつもりはありませんでしたが……結局、アーロン様を裏切ったことに変わりありませんわ。私たちは、彼を騙し、裏切り、陥れてしまったのです。
フランツ様に、恥を忍んでお話いたします……」
ジュリエッタはフランツに、元々はアーロンがジュリエッタと婚約する予定であったことや、女装したミッチェルの登場によりアーロンが弟と婚約するまでに至った経緯を語った。
「そう、だったのか……」
ジュリエッタの話を聞き終え、フランツは息を吐き出した。
「ジュリエッタ……君は、アーロンとの婚約を望んでいたのかい?」
ジュリエッタは目を伏せ、睫毛を揺らした。
「私は……ずっと両親から、貴族の嫡男以外の男性との結婚は認めないと言われて育ってきました。けれど、私との婚約を望んでくださる方はおらず、婚姻を諦めかけていました。
そんな時に現れたのが、アーロン様でした。彼は私自身を好きなわけではなく、彼もまたお家のために経済援助を条件に私と婚約することを決めたのです。たとえそれが理由であっても、こんな私を受け入れてくださったことを嬉しく思っていました」
フランツは、「そうか……」と答え、苦しげな表情を見せた。
「確かに、アーロン様が私ではなく、ミッチェルを選んだ時には落胆いたしました。もう私には結婚の望みはなくなったのだと、絶望的な気持ちになりました。
けれど……ミッチェルをアーロン様の婚約者として了承する代わりに父に提案した条件により、私の気持ちががらりと変わったのです」
フランツが興味深気にジュリエッタを見つめる。
「条件?」
「えぇ」
ジュリエッタが頷き、こくりと喉を鳴らす。
「ミッチェルとアーロン様の婚約が成功しようが、失敗しまいが……私がこの家を継いでジェントリになること。
その暁には、今まで結婚相手の条件としていた貴族の嫡男でなくとも、私が自由に結婚相手を選ぶことができること。
このふたつを条件とし、父はそれを了承してくれたのです」
あなたにおすすめの小説
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。