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弟が婚約破棄されました
それからジュリエッタが心配した通り、再びミッチェルは部屋に引き篭もるようになった。誰とも話をしようともしないし、顔を合わせようともしない。ただ……扉の奥からは、啜り泣く声が漏れて聞こえてくるだけだった。
アーロンからはソワール子爵の名で、婚約破棄の書状が送りつけられた。ただ、そこには賠償金を請求する旨は書かれておらず、向こうにも非があったことを考慮した上で穏便な処置がとられたようで、そこは安心した。
ミッチェルにも扉越しに婚約破棄の旨を伝え、扉の隙間越しに書類を渡した。ミッチェルは抗うことなく、素直にサインをして返した。
こうして、1年半という短いミッチェルとアーロンの婚約期間は幕を閉じた。
噂では、アーロンはミッチェルとの婚約破棄後、他に経済援助を申し出てくれていた家の娘と既に婚約を交わしたらしい。
それは、アーロンの意思なのか、ソワール子爵夫妻の意思なのかは分からないが、ミッチェルのことを思うと胸が苦しくなり、そのことを弟に伝えることはジュリエッタには出来なかった。
これでミッチェルが家に残ることになったのだが、ニコラスはジュリエッタを安心させるように告げた。
「ミッチェルが婚約破棄となったが、私はこのままジェントリの地位をお前に譲るつもりでいる。今までミッチェルが男だからというだけでジェントリを継がせるつもりでいたが、ジュリエッタに仕事を教え、一緒に取引先を回るうちに気づいたのだ。お前には商才があり、領民を思いやる心もある。ジェントリはお前の方が相応しい」
まぁ、ミッチェルは引きこもりで、部屋から出てこないってこともありますけどね……
そう思いながらも、ジュリエッタは父の言葉を嬉しく思った。
だが、ひとつ気にかかっていることがあった。
ミッチェルが貴族の嫡男と婚姻を結べなかったということは……また、その期待が私の肩にのしかかってくるのでしょうか。
「お父様……お父様は、まだ私に貴族の嫡男との婚姻をお望みですか?」
ジュリエッタが尋ねると、ニコラスは一瞬押し黙った。それから、フゥと息を吐く。
「お母様は未だに上級貴族の縁戚になる夢を諦めきれずにいるが……私は諦めた。
ジュリエッタ、お前は好きな相手と結婚しなさい。考えてみれば、私だって両親の反対を押し切って平民であったマリエンヌと結婚したのだ。お前には……幸せになってほしい」
『お前には』の部分に力を込めた父の言葉には、弟の分まで幸せになってほしいという父の思いを感じた。
「お父、様……」
ジュリエッタの胸が震えた。
ようやく、これからは自分の好きな道を歩むことができるのだわ。結婚相手に縛られることもなく、自由に選ぶことができる……
多少、両親に対して申し訳ない気持ちも芽生えたが、それは立派なジェントリとなることで恩返ししていこうとジュリエッタは誓った。
「ところで……ジュリエッタ」
「なんですの、お父様?」
「お前は……結婚するならと、心に決めた相手はいるのか?」
父にそう問われ、ジュリエッタの脳裏に浮かんだのはフランツの笑顔だった。
「えぇ、おります……」
ジュリエッタはそう答えながらも、果たしてフランツが自分を受け入れてくれるのだろうかと不安になった。
先日、ミッチェルが女装した男性だったとバレたのは、フランツの屋敷での舞踏会だ。ミッチェルは逃げ出し、ジュリエッタはフランツと談笑中だったにも関わらず失礼してミッチェルの後を追いかけた。あの時ジュリエッタは必死だったので気付かなかったが、きっと大勢の人々が好奇の目線を向けていたことだろう。せっかく招待してくれた舞踏会を、台無しにしてしまった。
もちろんすぐにフランツに謝罪の手紙を送ったし、彼からは『気にしなくても大丈夫だよ』という内容の返事をもらってはいたものの、彼の本心はどうなのか、彼の両親はどう思っているのだろうかと気になってしまう。
あれ以来、ジュリエッタは社交界に顔を出していなかったが、どこにいってもミッチェルの話題でもちきりであることは間違いない。もしジュリエッタが他人事だったら、女装した男性がデビュタントとして社交界デビューし、婚約者まで連れてきていただなんて面白いネタ、興味をそそられるに違いない。
きっと噂では、貴族との繋がりが欲しいがためにミッチェルを女装させ、婚約者であるアーロンを騙したとし、一家揃って非難されていることだろう。
そんな私が、フランツ様をデートに誘ったら……迷惑ではないのかしら。
不安に思いながらも、あれこれ考えたところでフランツの心は計りかねない。ジュリエッタは勇気を出して、フランツをお茶に招待する手紙を出すことにした。
アーロンからはソワール子爵の名で、婚約破棄の書状が送りつけられた。ただ、そこには賠償金を請求する旨は書かれておらず、向こうにも非があったことを考慮した上で穏便な処置がとられたようで、そこは安心した。
ミッチェルにも扉越しに婚約破棄の旨を伝え、扉の隙間越しに書類を渡した。ミッチェルは抗うことなく、素直にサインをして返した。
こうして、1年半という短いミッチェルとアーロンの婚約期間は幕を閉じた。
噂では、アーロンはミッチェルとの婚約破棄後、他に経済援助を申し出てくれていた家の娘と既に婚約を交わしたらしい。
それは、アーロンの意思なのか、ソワール子爵夫妻の意思なのかは分からないが、ミッチェルのことを思うと胸が苦しくなり、そのことを弟に伝えることはジュリエッタには出来なかった。
これでミッチェルが家に残ることになったのだが、ニコラスはジュリエッタを安心させるように告げた。
「ミッチェルが婚約破棄となったが、私はこのままジェントリの地位をお前に譲るつもりでいる。今までミッチェルが男だからというだけでジェントリを継がせるつもりでいたが、ジュリエッタに仕事を教え、一緒に取引先を回るうちに気づいたのだ。お前には商才があり、領民を思いやる心もある。ジェントリはお前の方が相応しい」
まぁ、ミッチェルは引きこもりで、部屋から出てこないってこともありますけどね……
そう思いながらも、ジュリエッタは父の言葉を嬉しく思った。
だが、ひとつ気にかかっていることがあった。
ミッチェルが貴族の嫡男と婚姻を結べなかったということは……また、その期待が私の肩にのしかかってくるのでしょうか。
「お父様……お父様は、まだ私に貴族の嫡男との婚姻をお望みですか?」
ジュリエッタが尋ねると、ニコラスは一瞬押し黙った。それから、フゥと息を吐く。
「お母様は未だに上級貴族の縁戚になる夢を諦めきれずにいるが……私は諦めた。
ジュリエッタ、お前は好きな相手と結婚しなさい。考えてみれば、私だって両親の反対を押し切って平民であったマリエンヌと結婚したのだ。お前には……幸せになってほしい」
『お前には』の部分に力を込めた父の言葉には、弟の分まで幸せになってほしいという父の思いを感じた。
「お父、様……」
ジュリエッタの胸が震えた。
ようやく、これからは自分の好きな道を歩むことができるのだわ。結婚相手に縛られることもなく、自由に選ぶことができる……
多少、両親に対して申し訳ない気持ちも芽生えたが、それは立派なジェントリとなることで恩返ししていこうとジュリエッタは誓った。
「ところで……ジュリエッタ」
「なんですの、お父様?」
「お前は……結婚するならと、心に決めた相手はいるのか?」
父にそう問われ、ジュリエッタの脳裏に浮かんだのはフランツの笑顔だった。
「えぇ、おります……」
ジュリエッタはそう答えながらも、果たしてフランツが自分を受け入れてくれるのだろうかと不安になった。
先日、ミッチェルが女装した男性だったとバレたのは、フランツの屋敷での舞踏会だ。ミッチェルは逃げ出し、ジュリエッタはフランツと談笑中だったにも関わらず失礼してミッチェルの後を追いかけた。あの時ジュリエッタは必死だったので気付かなかったが、きっと大勢の人々が好奇の目線を向けていたことだろう。せっかく招待してくれた舞踏会を、台無しにしてしまった。
もちろんすぐにフランツに謝罪の手紙を送ったし、彼からは『気にしなくても大丈夫だよ』という内容の返事をもらってはいたものの、彼の本心はどうなのか、彼の両親はどう思っているのだろうかと気になってしまう。
あれ以来、ジュリエッタは社交界に顔を出していなかったが、どこにいってもミッチェルの話題でもちきりであることは間違いない。もしジュリエッタが他人事だったら、女装した男性がデビュタントとして社交界デビューし、婚約者まで連れてきていただなんて面白いネタ、興味をそそられるに違いない。
きっと噂では、貴族との繋がりが欲しいがためにミッチェルを女装させ、婚約者であるアーロンを騙したとし、一家揃って非難されていることだろう。
そんな私が、フランツ様をデートに誘ったら……迷惑ではないのかしら。
不安に思いながらも、あれこれ考えたところでフランツの心は計りかねない。ジュリエッタは勇気を出して、フランツをお茶に招待する手紙を出すことにした。
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