＜完結＞【R１８】深窓の令嬢は美麗なピアニストの叔父と禁忌の恋に堕ち、淫らに溺れる

１０９.愛憎の果て

 　全身の力が抜け、ステファンはへなへなとソファに崩れ落ちた。

「ステファン……」

　力の抜けたステファンの躰を、サラは抱き締めた。

「ごめ……ごっめんな、さい……ステファン……ｯｩ、ｳｸﾞｯ……ご、め……」

　サラの謝罪の言葉は、ステファンの耳にも心にも届くことはなかった。まるで人形のように、瞳から色が消えていた。

　だが、暫くすると突然、ムクッと躰を引き起こした。

　サラを深く愛するがあまり、ステファンの強い想いは裏切られたことで底知れぬ憎しみへと変化していた。憎しみは感情を焼き尽くし、冷淡な行動へと駆り立てる。

　ーー悪魔に魅入られた瞬間だった。

　ステファンは、サラの華奢な首に引き寄せられるように手を掛けた。彼の指が、細くて白い首をギリギリと締め付けていく。

「ｳﾞｯ……」

　ステファンが誰を傷つけようとも自分だけは傷つけることは絶対にないと確信していたサラは、信じられない思いで目玉が飛び出しそうなぐらい、彼を凝視した。

　だが、華奢な首をギリギリと締め付ける力強い手の力と、血走った瞳が本気で自分を殺そうとしていることを物語っていた。

　サラは首にかかるステファンの指に手を掛け、引き剥がそうとした。けれど、ステファンの力は緩むことなく、首の血管を圧迫していく。

「サラが私の元を離れるというのなら、貴女を殺して私もここで死にます……貴女のいない世界でひとりで生きていくことなど、私にとっては死と同じ意味」
「ｯ……ｯｯ！！」

　涙と鼻水が伝い、遠のきそうになる意識を必死に覚醒させ、サラは必死に目で訴えた。

　お願い……ステファン、生きて！
　生きて、ピアニストとしての道を極めてください。

　私には、貴方と共に生きることは出来ない。
　でも、一緒に死ぬことも出来ないんです。

　私は、救わなければならないのです。
　お父様を、お母様を、財閥とその下にいる大勢の従業員とその家族を。

　私は、死ぬわけにはいかないんです。

　お願い、どうか……どう、か……

　サラの意識が朦朧とし、口から泡が出て、全身が痙攣する。

　ステファンが突然現実に戻り、手を外した途端、サラは力を失いバッタリと倒れた。

「サ、サラ！？　サラ！！　しっかり……しっかりして下さい！！」

　蒼白になり、ステファンはサラの躰に覆い被さった。

　この世で何よりも大切な愛しいサラを、唯一の光を、自らの手にかけてしまったことが信じられなかった。

　ステファンは、サラを腕に抱いたまま呆然とした。

「ッゴホッ、ゴホッ……」

　咳き込む音が響き、ステファンが全身を震わせた。

「サラ……サラ……よかっ……」

　涙ぐむステファンに、未だ朦朧としながらもサラは必死に訴えかけた。

「お、ねが……ステファン……生き、て。
　ピアニストとして、どう、か……生きて下さい……」

　ステファンが、胸を詰まらせる。