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144.連れて行きたい場所
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「サラ、着きましたよ」
ステファンに声を掛けられ、サラは目を覚ました。まだぼんやりとした頭で視界を見回し、ここが機内であることが分かると、途端に記憶が蘇った。
慌てて下を見下ろすと、ワンピースを着て髪も綺麗に整えられている。寝ている間、あられもない格好をしていたのではないかとか、色々な不安が押し寄せ、顔を赤らめたり青褪めたりするサラに、ステファンが笑みを零す。
「もうサラの全てを見ていますから、今更慌てることはありませんよ。
さぁ、行きましょうか」
ステファンの言葉に、サラは小さくなりながら頷いた。
「はい……」
ウィーン・シュヴェヒャート空港に着いた時には、もう夜の11時を過ぎていた。
「よく眠れましたか?」
「……みたいですね、すみません」
サラは申し訳なく答えた。
気づいた時には意識がなくなっていた。どのくらい寝ていたのかも分からない。
ステファンは腕時計に視線を落とすと、サラに告げた。
「ちょうど、CAT(シティ・エアポート・トレイン)を逃してしまいました。
次の電車まで30分あるので、タクシーに乗りましょう」
到着ロビーからすぐにタクシー乗り場へと向かった。
空港から外に出ると、躰が芯から冷える寒波が吹き付ける。ステファンの腕に自分の腕を回すと優しく微笑まれ、胸がキュッと縮まった。
ステファンが窓越しにタクシーの運転手に目で合図をしてから、扉を開けてサラをエスコートする。寒さから逃れるように、素早く乗り込んだ。
「疲れていませんか。少し寄りたいところがあるのですが」
サラはにこっと笑みを返した。
「私は大丈夫ですよ」
それを受けてステファンは運転手にメモを渡し、車が発進した。
どこへ行くのでしょうか……
サラの心に、少しの不安と緊張が広がった。
車はウィーン市内のダウンタウンへと向けて走っていた。懐かしい景色に目を奪われていると、ステファンの手がサラの手を取り、繋いだ。
なんだか嫉妬しているようにも見えて、サラは思わずステファンを見つめて微笑んだ。すると、サラの肩に甘えるようにステファンが頭を寄せた。
「機内ではあまり眠れませんでした。少し、こうしていていいですか」
「はい」
瞳を閉じたステファンの綺麗に整った睫毛を見つめ、魅入られる。彼の匂いが自分の服にも沁み込んで、同じ匂いになればいいのにと思った。
この人とずっとこの先もこうしていられるのかと思うと、涙が出るほど幸せな気持ちになり、胸が熱くなる。
どうしようもないくらい……本当に、好き。
タクシーが停車すると、ステファンは瞳を開け、ゆっくりと躰を起こした。運転手にお金を支払って礼を言うと、扉を開ける。
手を差し伸べられ、甘く疼く胸と共に手を重ねる。
タクシーを降りた右手には、シュテファン大聖堂があった。
「ステファンが来たかった場所って、ここですか」
「えぇ、そうです」
ステファンはギリギリまでサラに目的地を隠しておくため、わざと運転手にメモを渡したのだ。
だが、シュテファン大聖堂の周りは誰もおらず、扉も固く閉ざされていた。
そういえば、確か大聖堂へ入れるのは10時までだったはず……
サラは、せっかく来たのにと残念な気持ちになった。
だがステファンは気にすることなく、小さな扉の方に向かってノックした。 暫くして扉が開き、教会関係者と思われる者とステファンが会話を交わす。
ステファンが扉を支えた。
「サラ、どうぞ入って下さい」
「え、いいんですか!?」
驚いて見上げるサラに、ステファンがにっこりと微笑んだ。
「えぇ。貸し切ってますから」
ステファンに声を掛けられ、サラは目を覚ました。まだぼんやりとした頭で視界を見回し、ここが機内であることが分かると、途端に記憶が蘇った。
慌てて下を見下ろすと、ワンピースを着て髪も綺麗に整えられている。寝ている間、あられもない格好をしていたのではないかとか、色々な不安が押し寄せ、顔を赤らめたり青褪めたりするサラに、ステファンが笑みを零す。
「もうサラの全てを見ていますから、今更慌てることはありませんよ。
さぁ、行きましょうか」
ステファンの言葉に、サラは小さくなりながら頷いた。
「はい……」
ウィーン・シュヴェヒャート空港に着いた時には、もう夜の11時を過ぎていた。
「よく眠れましたか?」
「……みたいですね、すみません」
サラは申し訳なく答えた。
気づいた時には意識がなくなっていた。どのくらい寝ていたのかも分からない。
ステファンは腕時計に視線を落とすと、サラに告げた。
「ちょうど、CAT(シティ・エアポート・トレイン)を逃してしまいました。
次の電車まで30分あるので、タクシーに乗りましょう」
到着ロビーからすぐにタクシー乗り場へと向かった。
空港から外に出ると、躰が芯から冷える寒波が吹き付ける。ステファンの腕に自分の腕を回すと優しく微笑まれ、胸がキュッと縮まった。
ステファンが窓越しにタクシーの運転手に目で合図をしてから、扉を開けてサラをエスコートする。寒さから逃れるように、素早く乗り込んだ。
「疲れていませんか。少し寄りたいところがあるのですが」
サラはにこっと笑みを返した。
「私は大丈夫ですよ」
それを受けてステファンは運転手にメモを渡し、車が発進した。
どこへ行くのでしょうか……
サラの心に、少しの不安と緊張が広がった。
車はウィーン市内のダウンタウンへと向けて走っていた。懐かしい景色に目を奪われていると、ステファンの手がサラの手を取り、繋いだ。
なんだか嫉妬しているようにも見えて、サラは思わずステファンを見つめて微笑んだ。すると、サラの肩に甘えるようにステファンが頭を寄せた。
「機内ではあまり眠れませんでした。少し、こうしていていいですか」
「はい」
瞳を閉じたステファンの綺麗に整った睫毛を見つめ、魅入られる。彼の匂いが自分の服にも沁み込んで、同じ匂いになればいいのにと思った。
この人とずっとこの先もこうしていられるのかと思うと、涙が出るほど幸せな気持ちになり、胸が熱くなる。
どうしようもないくらい……本当に、好き。
タクシーが停車すると、ステファンは瞳を開け、ゆっくりと躰を起こした。運転手にお金を支払って礼を言うと、扉を開ける。
手を差し伸べられ、甘く疼く胸と共に手を重ねる。
タクシーを降りた右手には、シュテファン大聖堂があった。
「ステファンが来たかった場所って、ここですか」
「えぇ、そうです」
ステファンはギリギリまでサラに目的地を隠しておくため、わざと運転手にメモを渡したのだ。
だが、シュテファン大聖堂の周りは誰もおらず、扉も固く閉ざされていた。
そういえば、確か大聖堂へ入れるのは10時までだったはず……
サラは、せっかく来たのにと残念な気持ちになった。
だがステファンは気にすることなく、小さな扉の方に向かってノックした。 暫くして扉が開き、教会関係者と思われる者とステファンが会話を交わす。
ステファンが扉を支えた。
「サラ、どうぞ入って下さい」
「え、いいんですか!?」
驚いて見上げるサラに、ステファンがにっこりと微笑んだ。
「えぇ。貸し切ってますから」
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