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女の子同士のエッチって、どうすればいいの!?

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「美来さんを初めて見たのは、5月の体育祭の時でした。騎馬戦やリレーで活躍している姿を見て、素敵な人だなって思いました。でも、見た目のかっこよさだけじゃなくて、自分が出ていない種目も一生懸命応援してたりとか、タオルを渡してくれた人に優しく声をかけてたりとか、クラス全員に呼び掛けて輪になって掛け声出したりとか、怪我した子を心配して保健室に連れてってあげたりだとか……
 そういう姿を見て、あぁ見た目は男性みたいにかっこいいのに、気遣いが出来て、優しくて、頼りにされて、素敵な女性なんだって思って……それから、気付いたら先輩のことを目で追うようになってました」

 体育祭……そんなこともあったかも。中学最後の体育祭だからって、気合い入ってた気がする。

「1年と3年じゃ、階が違うから会う機会もなかなかないし、美来先輩はいつも取り巻きの人たちに囲まれてたので、遠くから見つめてるだけでした。それで、何も出来ないまま美来先輩は中学を卒業してしまって……卒業式の日に、勇気を出して遠くから写真を撮るだけで精一杯でした。

 私、家庭科部だったんですけど、同じ部だった先輩にお願いして高校での美来先輩の様子をたまに聞いたり、イベントがある時には写真をもらったりしてました。

 高校に行ったら、少しでも美来先輩に近づきたいって思ってたんですけど……高校でも、先輩は相変わらずたくさんの取り巻きに囲まれてて、しかもその中でもカーストがあったりして……とてもじゃないけど、入れないって思いました」
「え、何それ!?」

 初耳なんですけど!?

 やよいは、私が取り巻きグループの中にカーストがあるってことを当然知ってると思ってたようで、彼女もまた目を丸くしていた。

「私は属してなかったので詳しいことは知らないですけど、タオルを渡すのにもローテーションがあったり、出待ちとか告白の抜け駆け禁止とかバレンタインの時のルールとか、いろいろあったみたいですよ?」

 そ、そうなんだ……

 私がバスケットボールばっかり追いかけてる間に、裏ではそんなやりとりがあったのね。

 やよいはクスクスッと笑い、ようやくこっちに顔を向けた。

「分かってはいたんですけど……本当に美来先輩って、バスケ以外何も見えてなかったんですね」
「う……うん、そうみたい。今になって、ようやく自覚が出てきたけど……」
「良かった……実は、美来先輩があのグループを影で仕切ってたりしたら嫌だなぁ、なんて考えたこともあったんですよ。そうではないだろうと思いながらも」
「全然全然!! 知らなかったよー、今まで!!」
「ふふっ、ほんとに恐かったんですよ、グループに入ってない遠目に眺めてる私たちみたいな子に対しても牽制かけてきたりとかしてたし。先輩に告白した子は呼び出しされたりもしてましたし」
「え、そうなの!?うわっ、知らなくて悪いことしちゃったなー」
 
 ちょ、うちの女子校って実は結構陰湿だったりしたのかな。
 私の取り巻きの子達はいい子ばっかりだって思ってたけど……実は、あの中でも色々裏で喧嘩したり陰口叩いたりとかあったのかな……そんなん、全然気づきもしなかった。

 私って、男見る目ないって思ってたけど、女見る目もなかったんだ……

「私は……もし美来先輩がほんの少しでも気持ちを向けてくれるのなら、告白してグループの人に呼び出されても構わないって思ってました。でも……先輩を見ていればいるほど、先輩には恋愛に興味がないってことが分かったんです。だから、告白はしませんでした。先輩が高校を卒業するのを機に、先輩への恋心も卒業するつもりでいました。

 その、つもりだったんです……」

 そこまで言うとやよいは再び顔を伏せ、ピーチ酎ハイをグッと握り締めた。

「先輩が卒業してしまってからも……私の美来先輩への想いはいつまでも消えることはありませんでした。いつも先輩の影を廊下や体育館や運動場で追ってしまって、考えずにいられなくて……
 先輩は私の存在なんか全然知らなくて、もう新たな地で新たな人と出会って生活してるのかと思うと苦しくて……どうして私は、もっと先輩に自分のことを知ってもらおうとしなかったんだろうって凄く……凄く、後悔しました。 

 だから、決意したんです。先輩を追いかけて同じ大学に行こうって。先輩が私のことを知らないのなら、新しい自分に生まれ変わって会いに行って、知り合いになりたい。出来るなら友達になって、近くで先輩のことを見ていたいって。
 先輩は同性を好きになることはないって分かっていたので、それ以上の関係を望むことなんて考えてませんでした。ただもう、遠くから眺めるだけの私じゃ嫌だって思ってたんです……」
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