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過去から語られる過去
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「えぇ。私がレナードに会ったのはモルテッソーニに師事してからでしたが、彼の曲を初めて聴いた時、すぐに昔の自分と重なりました......美姫、貴方と出会う前の自分に。
彼は楽譜通りにピアノを弾くことは出来るし、その技術は非常に高いものでしたが、そこに彼の心というものは全くありませんでした。私はそんなレナードを気にかけるようになったのです。
そして、私たちには幾つかの共通点があることが分かりました。私生児として育ったことや、上流階級の父親に養子として引き取られたこと、義母と上手くいってなかったこと、辛く苦しい思いをピアノを弾くことで乗り越えてきたこと……
それから、懐いてくるレナードが少しずつ笑顔を見せるようになり、他の兄弟弟子とも会話をするようになったり、演奏も今までのような無機質なものから感情が滲み出るようになったりと、まるで昔の自分が立ち直っていく姿が目の前で見せられているかのように錯覚して、自分のことのように嬉しく感じました。
そうですね、確かにそう言った感情は今まで貴女以外に感じたことはありませんでした。けれどそれは、レナードを過去の自分と重ねていたからに過ぎません。私には言うまでもなく、恋愛感情は一切ありません。
レナードが私に憧れからの恋心を抱いていたのはもちろん気づいていましたが、貴女以外を愛することなど出来ない私には到底受け入れることなど出来ませんでした。何度もレナードにはお伝えしたのですが……猪突猛進とは彼のことを言うのでしょうね」
秀一は何かを思い出したかのように苦笑した。
美姫は、レナードの秀一への恋心や、ふたりの間に何かあったのか、ということよりも、レナードの過去に重なるように語られていく隠れた秀一の過去の話に愕然とした。
秀一さんも昔、レナードと同じような辛い思いをしていたの?
私、そんなこと……全然知らなかった。秀一さんは今までそんな話、してくれなかったから。過去のことは、何も……それはお父様も同じで、来栖家の過去について話してくれることはなかった。
秀一さんは私が生まれてから20年間、ずっと私を見守り、見つめ続けてきて、私のことは離れていた時間があったものの、何でも知っていて......けれど、私は自分が生まれる前の秀一さんを何も知らないという事実に今更ながら、気付かされた。
私だって、知りたくなかったわけではない。過去にそれとなく聞いてみたこともあった。
でも、秀一さんにしろ、お父様にしろ、口を濁し、それとなく他の話題にすり替えられることが続き……それは、私の中でのタブーとなった。
だから今、こうしてレナードの過去を聞くことによって秀一さんの過去を聞けたのは複雑な気分だ。
秀一さんは…….今でも私に、自分の過去を語りたくないと思っているのだろうか。
秀一さんの、過去。知りたくもあり、知ってはいけない気もする。もし彼がそれを望まないのであれば……私は聞く術を持たない。
どうする?
それは、開けてもいい扉なの?
決断出来ないまま、美姫は秀一に呼びかけた。
「秀一さ...」
美姫の唇に秀一が人差し指を当てた。
「約束を…果たしましょうか」
耳元で甘く低い秀一の声が熱い吐息とともに零されて、美姫はフルリと身を震わせて身を竦めた。
やく、そく?
秀一が後ろから腕を回して交差した。
「ひゃんっ!!」
ネットリとした秀一の舌の感触を耳朶に感じて、美姫は奇声を発した。
「今日は、貴女に寂しい思いをさせてしまいましたね。『このお詫びは、今夜にでも…貴女との時間で償いますので……』そう、約束したでしょう?」
「ッハァ…や…ンフ…」
耳朶を舐められながら紡がれる言葉と吐息に、だんだんと美姫の意識が朦朧とし、躰の隅々が急激に熱くなる。
そう、だった……
昼間の秀一の言葉を思い出し、美姫はカーッと顔が熱くなり、耳まで真っ赤になった。
話を逸らされてしまった……秀一さんは過去の話にはやっぱり触れてほしくないんだ。
そのわけを美姫は考えようとするが、そんな余裕など、奪われてしまった。
彼は楽譜通りにピアノを弾くことは出来るし、その技術は非常に高いものでしたが、そこに彼の心というものは全くありませんでした。私はそんなレナードを気にかけるようになったのです。
そして、私たちには幾つかの共通点があることが分かりました。私生児として育ったことや、上流階級の父親に養子として引き取られたこと、義母と上手くいってなかったこと、辛く苦しい思いをピアノを弾くことで乗り越えてきたこと……
それから、懐いてくるレナードが少しずつ笑顔を見せるようになり、他の兄弟弟子とも会話をするようになったり、演奏も今までのような無機質なものから感情が滲み出るようになったりと、まるで昔の自分が立ち直っていく姿が目の前で見せられているかのように錯覚して、自分のことのように嬉しく感じました。
そうですね、確かにそう言った感情は今まで貴女以外に感じたことはありませんでした。けれどそれは、レナードを過去の自分と重ねていたからに過ぎません。私には言うまでもなく、恋愛感情は一切ありません。
レナードが私に憧れからの恋心を抱いていたのはもちろん気づいていましたが、貴女以外を愛することなど出来ない私には到底受け入れることなど出来ませんでした。何度もレナードにはお伝えしたのですが……猪突猛進とは彼のことを言うのでしょうね」
秀一は何かを思い出したかのように苦笑した。
美姫は、レナードの秀一への恋心や、ふたりの間に何かあったのか、ということよりも、レナードの過去に重なるように語られていく隠れた秀一の過去の話に愕然とした。
秀一さんも昔、レナードと同じような辛い思いをしていたの?
私、そんなこと……全然知らなかった。秀一さんは今までそんな話、してくれなかったから。過去のことは、何も……それはお父様も同じで、来栖家の過去について話してくれることはなかった。
秀一さんは私が生まれてから20年間、ずっと私を見守り、見つめ続けてきて、私のことは離れていた時間があったものの、何でも知っていて......けれど、私は自分が生まれる前の秀一さんを何も知らないという事実に今更ながら、気付かされた。
私だって、知りたくなかったわけではない。過去にそれとなく聞いてみたこともあった。
でも、秀一さんにしろ、お父様にしろ、口を濁し、それとなく他の話題にすり替えられることが続き……それは、私の中でのタブーとなった。
だから今、こうしてレナードの過去を聞くことによって秀一さんの過去を聞けたのは複雑な気分だ。
秀一さんは…….今でも私に、自分の過去を語りたくないと思っているのだろうか。
秀一さんの、過去。知りたくもあり、知ってはいけない気もする。もし彼がそれを望まないのであれば……私は聞く術を持たない。
どうする?
それは、開けてもいい扉なの?
決断出来ないまま、美姫は秀一に呼びかけた。
「秀一さ...」
美姫の唇に秀一が人差し指を当てた。
「約束を…果たしましょうか」
耳元で甘く低い秀一の声が熱い吐息とともに零されて、美姫はフルリと身を震わせて身を竦めた。
やく、そく?
秀一が後ろから腕を回して交差した。
「ひゃんっ!!」
ネットリとした秀一の舌の感触を耳朶に感じて、美姫は奇声を発した。
「今日は、貴女に寂しい思いをさせてしまいましたね。『このお詫びは、今夜にでも…貴女との時間で償いますので……』そう、約束したでしょう?」
「ッハァ…や…ンフ…」
耳朶を舐められながら紡がれる言葉と吐息に、だんだんと美姫の意識が朦朧とし、躰の隅々が急激に熱くなる。
そう、だった……
昼間の秀一の言葉を思い出し、美姫はカーッと顔が熱くなり、耳まで真っ赤になった。
話を逸らされてしまった……秀一さんは過去の話にはやっぱり触れてほしくないんだ。
そのわけを美姫は考えようとするが、そんな余裕など、奪われてしまった。
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