262 / 1,014
憂慮
1
しおりを挟む
美姫と秀一は、美姫の両親である誠一郎と凛子を出迎えるため、再びウィーン・シュヴェヒャート空港の到着ゲートに立っていた。
ふたりが滞在していたドイツの商業都市であるフランクフルトを8時50分に発ったルフトハンザの飛行機は、ウィーンに10時10分到着予定となっていた。美姫は秀一とともに両親を空港に迎えに行くことは今までに何度かあったが、外国の空港で両親を迎え入れるという初めての状況に、高揚と緊張と不安を感じていた。
腕時計を見ると、10時40分を指している。そろそろ両親がゲートに現れる頃だ。
飛行機の到着時刻を過ぎてから、ふたりは自然にスペースを空けて立っていた。それは、『恋人』から『叔父と姪』への関係への切り替えであった。
到着ゲートの自動扉が開く。背の高い欧米人達に混じって、誠一郎と凛子が小さめのスーツケースを引いて歩いてくるのが見えた。デュッセルドルフには2週間滞在していたとのことだったが、それにしては荷物が少ないのは、旅慣れている証拠なのだろう。
誠一郎はキョロキョロと落ち着きなく視線を彷徨わせていたが、凛子は扉を出てすぐに美姫と秀一を認め、誠一郎に呼び掛けた。その途端、誠一郎は満面の笑みを浮かべ、手を振る。
美姫はそんなふたりを見て、両親に会えたこと、そしてこれから一緒の時間を過ごせることを心から嬉しく思った。
「お父様、お母様、ウィーンへようこそ」
美姫は花が咲いたような笑みを浮かべ、それを見た誠一郎と凛子はお互い顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ。美姫にウィーンで会えるなんて、本当に嬉しいわ。秀一さんお忙しいのに、わざわざ迎えに来て下さってありがとうございます」
「いえ、オーストリアの地理に詳しくない美姫をひとりで行かせるわけにはいきませんから。この後、私は昼から仕事が入っていますので、ホテルまでお送りすることぐらいしかできませんが」
「いやいや十分だよ。すまんな、秀一」
誠一郎も凛子同様に申し訳なさそうにした後、久々に会う愛娘を慈しむように見つめた。
「美姫、久しぶりだな」
そう言って、誠一郎が美姫に手を伸ばした瞬間...美姫の躰がビクッと震える。と同時に、秀一の手が誠一郎の手を掴んだ。
「...兄様。美姫はもう立派な淑女ですので、子供扱いされるのは嫌がる年頃ですよ?」
秀一はにこやかに笑みを浮かべ、誠一郎を軽く窘めた。その間、美姫の心臓がドクドクと早鐘を打ち、背中から冷たい汗が滴り落ちる。
誠一郎は秀一に手を掴まれたまま、キョトンとした。
「そう、なのか?」
おおおおおお落ち着くんだ......絶対に、悟られちゃ、ダメ......
速まる鼓動を押さえつける。
大丈夫...大丈夫......私は、絶対に乗り切ってみせる......
「お父様、私はもう20歳ですよ? 子供扱いしないで下さい」
可愛く拗ねたように、美姫は口を尖らせた。
「そ、そうか...すまん、すまん。いやぁ、いつまでも小さい子供のように扱っていてはレディーに申し訳ないな」
秀一は軽く誠一郎の手を解き、誠一郎はその手で恥ずかしそうに頭を掻いた。美姫は心の中で安堵の息を吐いた。
「うふふ、秀一さんに女性の扱い方の手解きを受けた方がいいかもしれませんね」
凛子はそう言って微笑むと、その場は途端に和やかな雰囲気になった。
美姫は自分が父に対しても他の男性と同じような拒否反応を起こしたことにショックを受けていたが、それを必死に押し隠し、皆と一緒に笑った。
どう、して......お父様を、男性だなんて意識したこと、なかったのに......お父様にまで、拒否反応を示してしまうなんて。
これから過ごす幸せなはずだった家族の時間に、暗い影が落ちていく恐怖を美姫は感じた。
ふたりが滞在していたドイツの商業都市であるフランクフルトを8時50分に発ったルフトハンザの飛行機は、ウィーンに10時10分到着予定となっていた。美姫は秀一とともに両親を空港に迎えに行くことは今までに何度かあったが、外国の空港で両親を迎え入れるという初めての状況に、高揚と緊張と不安を感じていた。
腕時計を見ると、10時40分を指している。そろそろ両親がゲートに現れる頃だ。
飛行機の到着時刻を過ぎてから、ふたりは自然にスペースを空けて立っていた。それは、『恋人』から『叔父と姪』への関係への切り替えであった。
到着ゲートの自動扉が開く。背の高い欧米人達に混じって、誠一郎と凛子が小さめのスーツケースを引いて歩いてくるのが見えた。デュッセルドルフには2週間滞在していたとのことだったが、それにしては荷物が少ないのは、旅慣れている証拠なのだろう。
誠一郎はキョロキョロと落ち着きなく視線を彷徨わせていたが、凛子は扉を出てすぐに美姫と秀一を認め、誠一郎に呼び掛けた。その途端、誠一郎は満面の笑みを浮かべ、手を振る。
美姫はそんなふたりを見て、両親に会えたこと、そしてこれから一緒の時間を過ごせることを心から嬉しく思った。
「お父様、お母様、ウィーンへようこそ」
美姫は花が咲いたような笑みを浮かべ、それを見た誠一郎と凛子はお互い顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ。美姫にウィーンで会えるなんて、本当に嬉しいわ。秀一さんお忙しいのに、わざわざ迎えに来て下さってありがとうございます」
「いえ、オーストリアの地理に詳しくない美姫をひとりで行かせるわけにはいきませんから。この後、私は昼から仕事が入っていますので、ホテルまでお送りすることぐらいしかできませんが」
「いやいや十分だよ。すまんな、秀一」
誠一郎も凛子同様に申し訳なさそうにした後、久々に会う愛娘を慈しむように見つめた。
「美姫、久しぶりだな」
そう言って、誠一郎が美姫に手を伸ばした瞬間...美姫の躰がビクッと震える。と同時に、秀一の手が誠一郎の手を掴んだ。
「...兄様。美姫はもう立派な淑女ですので、子供扱いされるのは嫌がる年頃ですよ?」
秀一はにこやかに笑みを浮かべ、誠一郎を軽く窘めた。その間、美姫の心臓がドクドクと早鐘を打ち、背中から冷たい汗が滴り落ちる。
誠一郎は秀一に手を掴まれたまま、キョトンとした。
「そう、なのか?」
おおおおおお落ち着くんだ......絶対に、悟られちゃ、ダメ......
速まる鼓動を押さえつける。
大丈夫...大丈夫......私は、絶対に乗り切ってみせる......
「お父様、私はもう20歳ですよ? 子供扱いしないで下さい」
可愛く拗ねたように、美姫は口を尖らせた。
「そ、そうか...すまん、すまん。いやぁ、いつまでも小さい子供のように扱っていてはレディーに申し訳ないな」
秀一は軽く誠一郎の手を解き、誠一郎はその手で恥ずかしそうに頭を掻いた。美姫は心の中で安堵の息を吐いた。
「うふふ、秀一さんに女性の扱い方の手解きを受けた方がいいかもしれませんね」
凛子はそう言って微笑むと、その場は途端に和やかな雰囲気になった。
美姫は自分が父に対しても他の男性と同じような拒否反応を起こしたことにショックを受けていたが、それを必死に押し隠し、皆と一緒に笑った。
どう、して......お父様を、男性だなんて意識したこと、なかったのに......お父様にまで、拒否反応を示してしまうなんて。
これから過ごす幸せなはずだった家族の時間に、暗い影が落ちていく恐怖を美姫は感じた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる