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破門宣告
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美姫の声が小さく落とされる。
「ザルツブルク音楽祭......招待されていたんですね」
ホテルの部屋へ戻り、互いに寄りかかるような姿勢でカウチに身を沈めた二人。美しく結わえられた着物の帯が崩れてしまうことすら、美姫は気遣う余裕を失くしていた。
秀一は美姫の髪を撫でてから、少しの間を空けて答える。
「......えぇ」
「いつ、から知ってたんですか......」
「......去年の9月頃に正式なオファーが来ました」
私たちが恋人になる前から......
美姫は愕然とした。
ザルツブルク音楽祭がどれだけピアニストにとって大きな意味のあるものか、正直美姫にはよく分からない。けれど、モルテッソーニが激昂し、辞退するなら師弟を解消すると言わしめるほどの大きなものなのだろう。
美姫は何度も大きく息を吐き出し、喉から声を絞り出そうとしては止め、また勇気を振り絞って声を出そうとして、息を吐いた。
私のせいで辞退するか迷っているのに、私がこんなことを聞くべきじゃないのかもしれない。
けれど、美姫は思い直し、ようやくカラカラに乾いた喉から言葉を絞り出した。
「......ザルツブルク音楽祭には...参加しないのですか」
秀一の胸に顔を寄せ、震えながら美姫は尋ねた。
重い沈黙の後、秀一が美姫の髪を撫でながら小さく声を落とす。
「正直言うと......迷っています。
昨日までは、音楽祭は辞退しようと考え、その意向をモルテッソーニに伝えるつもりでした......ですが、それがあれ程彼の逆鱗に触れることになるとは予想していませんでしたので、動揺し、迷いが生じ始めています。
もし、この音楽祭に参加するのであれば、私はオーストリアにウィーン滞在含めて少なくとも3か月、長くて半年ほどは滞在することになるでしょう」
そう言った後についた秀一の深い溜息が、二人の間に流れる空気をより一層重苦しいものにする。
「そ、んなに......」
「ソロのみであれば、日本で準備することは可能ですが......オケとの演奏がありますので、それを考えるとやはり、それぐらいは必要になるでしょう」
半、年......
ザルツブルク音楽祭は夏に開催される。半年前といえば、来月にはもうここに戻ってくることになる。
美姫は目の前が真っ暗になるのを感じた。
「当初の予定では、年末年始の休暇に美姫を連れてウィーンを紹介し、それからザルツブルク音楽祭のことを打ち明けるつもりでした」
それを聞き、美姫の心に悲しみの雨がポツポツと降り注いでくる。
あ、んなことが起こらなかったら良かったのに......もし、あの時襲われることがなければ、きっと今頃私は、秀一さんのウィーンでの過去や兄弟弟子に嫉妬しながらも楽しく過ごし、もしかしたら将来ウィーンに住むことすら、考えられたかもしれない。
「......」
私はいつだって、秀一さんの真意に気づくことが出来なかった。
恋人なのに、愛おしい人なのに......私は、秀一さんのことをちっとも理解出来ていないことを思い知らされた。
「ザルツブルク音楽祭......招待されていたんですね」
ホテルの部屋へ戻り、互いに寄りかかるような姿勢でカウチに身を沈めた二人。美しく結わえられた着物の帯が崩れてしまうことすら、美姫は気遣う余裕を失くしていた。
秀一は美姫の髪を撫でてから、少しの間を空けて答える。
「......えぇ」
「いつ、から知ってたんですか......」
「......去年の9月頃に正式なオファーが来ました」
私たちが恋人になる前から......
美姫は愕然とした。
ザルツブルク音楽祭がどれだけピアニストにとって大きな意味のあるものか、正直美姫にはよく分からない。けれど、モルテッソーニが激昂し、辞退するなら師弟を解消すると言わしめるほどの大きなものなのだろう。
美姫は何度も大きく息を吐き出し、喉から声を絞り出そうとしては止め、また勇気を振り絞って声を出そうとして、息を吐いた。
私のせいで辞退するか迷っているのに、私がこんなことを聞くべきじゃないのかもしれない。
けれど、美姫は思い直し、ようやくカラカラに乾いた喉から言葉を絞り出した。
「......ザルツブルク音楽祭には...参加しないのですか」
秀一の胸に顔を寄せ、震えながら美姫は尋ねた。
重い沈黙の後、秀一が美姫の髪を撫でながら小さく声を落とす。
「正直言うと......迷っています。
昨日までは、音楽祭は辞退しようと考え、その意向をモルテッソーニに伝えるつもりでした......ですが、それがあれ程彼の逆鱗に触れることになるとは予想していませんでしたので、動揺し、迷いが生じ始めています。
もし、この音楽祭に参加するのであれば、私はオーストリアにウィーン滞在含めて少なくとも3か月、長くて半年ほどは滞在することになるでしょう」
そう言った後についた秀一の深い溜息が、二人の間に流れる空気をより一層重苦しいものにする。
「そ、んなに......」
「ソロのみであれば、日本で準備することは可能ですが......オケとの演奏がありますので、それを考えるとやはり、それぐらいは必要になるでしょう」
半、年......
ザルツブルク音楽祭は夏に開催される。半年前といえば、来月にはもうここに戻ってくることになる。
美姫は目の前が真っ暗になるのを感じた。
「当初の予定では、年末年始の休暇に美姫を連れてウィーンを紹介し、それからザルツブルク音楽祭のことを打ち明けるつもりでした」
それを聞き、美姫の心に悲しみの雨がポツポツと降り注いでくる。
あ、んなことが起こらなかったら良かったのに......もし、あの時襲われることがなければ、きっと今頃私は、秀一さんのウィーンでの過去や兄弟弟子に嫉妬しながらも楽しく過ごし、もしかしたら将来ウィーンに住むことすら、考えられたかもしれない。
「......」
私はいつだって、秀一さんの真意に気づくことが出来なかった。
恋人なのに、愛おしい人なのに......私は、秀一さんのことをちっとも理解出来ていないことを思い知らされた。
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