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脱走
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感情的に声を荒げる美姫の父、誠一郎に対し、秀一はあくまで冷静だった。
「兄様。私は、決して中途半端な思いで美姫と付き合っているのではありませんよ。私は長い間自分の恋心を押し込めて、何度も彼女への思いを断ち、諦めようとしました。けれど、いくら諦めようとしても、彼女への想いは強くなる一方でした。二年間の留学生活でさえ、恋心を募らせる期間でしかありませんでした。
私は美姫が成人になるのを待ち、ようやく彼女に自分の秘めた思いを打ち明けたのです。それは、美姫が未成年であるうちは親の庇護下にあるということに加えて、兄様と姉様に対しての罪悪感もありました。
けれど、私たちはそんな罪悪感やモラルさえ超えてしまう程、深く愛し合っています。私は、彼女の存在なくしての人生など考えられないし、美姫もまた私を強く求めています」
秀一、さん......
毅然とした秀一の態度に、美姫は胸が震えた。秀一の美姫への深い愛情は、父への罪悪感すら霞ませてしまう。
「ありえん! ありえん! ありえんっっ!! 私の大切な娘をよくもたぶらかしたな!
いつから美姫をそそのかし、どうやって手に入れた?」
声だけ聞けば父とは思えないほど鬼気迫るその物言いに、美姫は驚愕し、怯えた。
いつも穏やかなお父様があんなに取り乱して、恐ろしい声音で秀一さんを責め立てるなんて……
お父様は、誤解されている。秀一さんが私をそそのかし、たぶらかしたんじゃない。
私は幼い頃から秀一さんに憧れ、その想いはいつの間にか愛情へと変わっていた。私たちは、純粋に好き合って結ばれたのに。
どうしたら、お父様に分かってもらえるの?
美姫は苦悶した。
秀一は誠一郎の言葉を聞き、鼻で笑った。
「たぶらかしたなど、失礼ですよ。私たちは、純粋に愛し合っているのですから。
先ほど、言った筈です。私は美姫に選択の余地を与え、彼女は両親や世間体よりも私との愛を貫くことを選んだのですよ」
秀一の態度に、誠一郎がますます逆上する。
「認めん! 私は絶対に認めんからな! 今後一切美姫に近づくことを禁止する!
お前のマンションに引っ越すのも取りやめだ!!!」
テーブルがガンッと大きく叩かれる音が響き、美姫は肩をビクンとさせた。
「なぜ、なぜ、美姫なんだ……あの娘は、私の可愛い娘。大事な、大事な娘なんだぞ……
お前は、女ならいくらでも簡単に手に入れられるだろう。
頼む。どうか、美姫には、手を出さないでくれ……あの娘は私と凛子の宝。生きる、希望なんだ。
美姫には、美姫にだけは……普通の幸せを与えてやりたいんだ、頼む……頼む……」
先程まで怒り狂っていた誠一郎は、今度は秀一に泣き縋るような声をあげた。
美姫の胸が引き裂かれんばかりに苦しくなる。
お父……さ、ま……
「たとえ兄様であろうと……美姫は、誰にも渡すつもりはありません」
秀一の覚悟を持った声が静かに響く。
すると、ドンッと鈍い音がする。
一体何が起こっているの!?
美姫の不安が高まる。
「おぉぉぉぉぉ前ぇぇぇぇ!! お前は、美姫の幸せを考えたことはないのか!? 美姫がお前と一緒にいて幸せになど、なれるはずないと分かっているだろ! 美姫がお前といたら、結婚することも出来ず、子供を産むことも出来ず、女としての幸せを一生味わうことが出来ないんだぞ!!
お前は、そんな悲しみや苦しみを美姫に与えるつもりか!?
ック、どんなことをしてでもお前たちを引き離す! それが、美姫の為なんだ!!」
昂ぶる感情のまま発された誠一郎の言葉は、壁を隔てた場所にいるはずの美姫にすら、まるで耳の側で話されているかのようにはっきりと聞こえた。
「兄様。私は、決して中途半端な思いで美姫と付き合っているのではありませんよ。私は長い間自分の恋心を押し込めて、何度も彼女への思いを断ち、諦めようとしました。けれど、いくら諦めようとしても、彼女への想いは強くなる一方でした。二年間の留学生活でさえ、恋心を募らせる期間でしかありませんでした。
私は美姫が成人になるのを待ち、ようやく彼女に自分の秘めた思いを打ち明けたのです。それは、美姫が未成年であるうちは親の庇護下にあるということに加えて、兄様と姉様に対しての罪悪感もありました。
けれど、私たちはそんな罪悪感やモラルさえ超えてしまう程、深く愛し合っています。私は、彼女の存在なくしての人生など考えられないし、美姫もまた私を強く求めています」
秀一、さん......
毅然とした秀一の態度に、美姫は胸が震えた。秀一の美姫への深い愛情は、父への罪悪感すら霞ませてしまう。
「ありえん! ありえん! ありえんっっ!! 私の大切な娘をよくもたぶらかしたな!
いつから美姫をそそのかし、どうやって手に入れた?」
声だけ聞けば父とは思えないほど鬼気迫るその物言いに、美姫は驚愕し、怯えた。
いつも穏やかなお父様があんなに取り乱して、恐ろしい声音で秀一さんを責め立てるなんて……
お父様は、誤解されている。秀一さんが私をそそのかし、たぶらかしたんじゃない。
私は幼い頃から秀一さんに憧れ、その想いはいつの間にか愛情へと変わっていた。私たちは、純粋に好き合って結ばれたのに。
どうしたら、お父様に分かってもらえるの?
美姫は苦悶した。
秀一は誠一郎の言葉を聞き、鼻で笑った。
「たぶらかしたなど、失礼ですよ。私たちは、純粋に愛し合っているのですから。
先ほど、言った筈です。私は美姫に選択の余地を与え、彼女は両親や世間体よりも私との愛を貫くことを選んだのですよ」
秀一の態度に、誠一郎がますます逆上する。
「認めん! 私は絶対に認めんからな! 今後一切美姫に近づくことを禁止する!
お前のマンションに引っ越すのも取りやめだ!!!」
テーブルがガンッと大きく叩かれる音が響き、美姫は肩をビクンとさせた。
「なぜ、なぜ、美姫なんだ……あの娘は、私の可愛い娘。大事な、大事な娘なんだぞ……
お前は、女ならいくらでも簡単に手に入れられるだろう。
頼む。どうか、美姫には、手を出さないでくれ……あの娘は私と凛子の宝。生きる、希望なんだ。
美姫には、美姫にだけは……普通の幸せを与えてやりたいんだ、頼む……頼む……」
先程まで怒り狂っていた誠一郎は、今度は秀一に泣き縋るような声をあげた。
美姫の胸が引き裂かれんばかりに苦しくなる。
お父……さ、ま……
「たとえ兄様であろうと……美姫は、誰にも渡すつもりはありません」
秀一の覚悟を持った声が静かに響く。
すると、ドンッと鈍い音がする。
一体何が起こっているの!?
美姫の不安が高まる。
「おぉぉぉぉぉ前ぇぇぇぇ!! お前は、美姫の幸せを考えたことはないのか!? 美姫がお前と一緒にいて幸せになど、なれるはずないと分かっているだろ! 美姫がお前といたら、結婚することも出来ず、子供を産むことも出来ず、女としての幸せを一生味わうことが出来ないんだぞ!!
お前は、そんな悲しみや苦しみを美姫に与えるつもりか!?
ック、どんなことをしてでもお前たちを引き離す! それが、美姫の為なんだ!!」
昂ぶる感情のまま発された誠一郎の言葉は、壁を隔てた場所にいるはずの美姫にすら、まるで耳の側で話されているかのようにはっきりと聞こえた。
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