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究極の選択
4
美姫が出て行った途端、秀一と誠一郎は気まずい雰囲気になった。
このままふたりで美姫を待つというのは……なかなか辛いですね。
そう思っていると、誠一郎のスマホが受信を知らせる音が響き、秀一は心の中で安堵の息を吐いた。誠一郎も同じように思っていたらしく、ソファから即座に立ち上がると、キッチンの方へと向かった。
キッチンの奥からくぐもって聞こえる会話から、どうやら呼び出されているらしいことがわかった。きっとこの電話を切ったらすぐに、誠一郎はここを出て行くだろう。
兄様。だから貴方には、美姫を奪う権利はないのですよ。
娘が大事。家族を愛していると口では言いながらも、後ろ髪を引かれつつも結局仕事を選んでしまう。
キッチンから戻ってきた誠一郎は、口籠くちごもるように告げた。
「会社、からだ……」
迷っているふりをしているが、もう心の中では決めているのでしょう。
「そうですか。美姫のことは私が待っていますので、ご心配なく」
秀一の言葉に誠一郎は焦りの色を浮かべ、何か言いかけた。だが結局、頭を項垂れるだけだった。
「まだこの話の決着はついておらん。また、話し合いの場を設けよう」
「いくら話し合いをしたところで、美姫と私の気持ちは変わりませんよ。
兄様こそ、覚悟を決めてください」
秀一の言葉に、誠一郎は再び激昂した。
「ッッお前、分かっているのか!? このことが世間に知られたら……」
そこで、再び催促するようにスマホが鳴り響く。
一瞬躊躇った後、再び誠一郎はスマホを手にし、耳に当てると、慌ただしく玄関へと向かう。リビングの扉を開ける時にチラと秀一を振り返り、バタバタと出て行った。
ひとりになった途端、秀一は全身に重みを感じた。
ソファに座っていることすら苦痛に感じ、長い脚を投げ出して躰を沈めた。気怠い腕を持ち上げ、目を覆う。
まさか、美姫に聞かれていたとは……
兄との言い争いの中で感情が先走り、周りが見えていなかった自分を呪わずにはいられない。
あの時、もっと配慮すべきでした……
今朝、ピアノを弾いている途中から美姫の気配に気づいた。だが、気配に気づいた途端に演奏を止めてしまうのは不自然だ。
『美姫、起きたのですね』
そう声を掛け、自分の元へと呼び寄せた。
『怖い、曲ですね......』
そう言った美姫の真意が、本当にその曲自体にあるのか、それとも兄との電話の内容を聞いたことによるものだったのかは、推し量りかねた。
念のため、マネージャーの上條に美姫を監視するように言いつけ、これで美姫にはどうすることもできないだろうと楽観していた。
まさか、美姫が上條の目を掻い潜ってまで脱走するとは、思いもよらなかった。
美姫には、知られたくなかった。隠し通しておきたかった。
血塗られた、来栖家の過去の歴史を……
もし、美姫とのことを問い詰められることがなければ、兄にも、誰にも話すつもりはなかったというのに。
秀一は、まるで自分が正義であるかのように両親を見殺しにした兄を責め、それを盾に美姫との仲を認めるように迫る自分を、心の奥底から反吐が出るほど嫌悪した。
兄様には、両親を亡き者にしてくれて、むしろ感謝していたというのに。
恩を仇で返すことになってしまいましたね……
「ック……」
ーー私、こそが……あの人たちの死を、望んでいたというのに。
秀一の中で、封印していた過去の悍おぞましい記憶が呼び起こされる。
このままふたりで美姫を待つというのは……なかなか辛いですね。
そう思っていると、誠一郎のスマホが受信を知らせる音が響き、秀一は心の中で安堵の息を吐いた。誠一郎も同じように思っていたらしく、ソファから即座に立ち上がると、キッチンの方へと向かった。
キッチンの奥からくぐもって聞こえる会話から、どうやら呼び出されているらしいことがわかった。きっとこの電話を切ったらすぐに、誠一郎はここを出て行くだろう。
兄様。だから貴方には、美姫を奪う権利はないのですよ。
娘が大事。家族を愛していると口では言いながらも、後ろ髪を引かれつつも結局仕事を選んでしまう。
キッチンから戻ってきた誠一郎は、口籠くちごもるように告げた。
「会社、からだ……」
迷っているふりをしているが、もう心の中では決めているのでしょう。
「そうですか。美姫のことは私が待っていますので、ご心配なく」
秀一の言葉に誠一郎は焦りの色を浮かべ、何か言いかけた。だが結局、頭を項垂れるだけだった。
「まだこの話の決着はついておらん。また、話し合いの場を設けよう」
「いくら話し合いをしたところで、美姫と私の気持ちは変わりませんよ。
兄様こそ、覚悟を決めてください」
秀一の言葉に、誠一郎は再び激昂した。
「ッッお前、分かっているのか!? このことが世間に知られたら……」
そこで、再び催促するようにスマホが鳴り響く。
一瞬躊躇った後、再び誠一郎はスマホを手にし、耳に当てると、慌ただしく玄関へと向かう。リビングの扉を開ける時にチラと秀一を振り返り、バタバタと出て行った。
ひとりになった途端、秀一は全身に重みを感じた。
ソファに座っていることすら苦痛に感じ、長い脚を投げ出して躰を沈めた。気怠い腕を持ち上げ、目を覆う。
まさか、美姫に聞かれていたとは……
兄との言い争いの中で感情が先走り、周りが見えていなかった自分を呪わずにはいられない。
あの時、もっと配慮すべきでした……
今朝、ピアノを弾いている途中から美姫の気配に気づいた。だが、気配に気づいた途端に演奏を止めてしまうのは不自然だ。
『美姫、起きたのですね』
そう声を掛け、自分の元へと呼び寄せた。
『怖い、曲ですね......』
そう言った美姫の真意が、本当にその曲自体にあるのか、それとも兄との電話の内容を聞いたことによるものだったのかは、推し量りかねた。
念のため、マネージャーの上條に美姫を監視するように言いつけ、これで美姫にはどうすることもできないだろうと楽観していた。
まさか、美姫が上條の目を掻い潜ってまで脱走するとは、思いもよらなかった。
美姫には、知られたくなかった。隠し通しておきたかった。
血塗られた、来栖家の過去の歴史を……
もし、美姫とのことを問い詰められることがなければ、兄にも、誰にも話すつもりはなかったというのに。
秀一は、まるで自分が正義であるかのように両親を見殺しにした兄を責め、それを盾に美姫との仲を認めるように迫る自分を、心の奥底から反吐が出るほど嫌悪した。
兄様には、両親を亡き者にしてくれて、むしろ感謝していたというのに。
恩を仇で返すことになってしまいましたね……
「ック……」
ーー私、こそが……あの人たちの死を、望んでいたというのに。
秀一の中で、封印していた過去の悍おぞましい記憶が呼び起こされる。
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