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結実

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 翌日。

「なぁ、ほんとに......いいのか、俺たち?」
「でも、呼び出されたのはここ、だし......行くしか、ないよ」

 大和と美姫は、重い足取りで薫子との待ち合わせ場所へと向かっていた。

 大和が足を止め、ゴクリと唾を飲み込む。

「行くぞ」

 コンコン、と扉を軽く叩く。

 暫くすると内側から扉が開き、薫子が顔を覗かせた。
 
 わ、薫子のお腹、前に会った時と比べ物にならないぐらい大きくなってる......

 驚きながらお腹を見つめる美姫に、にっこりと笑みを見せ、薫子は扉を大きく開いた。

「どうぞ、入って」

 美姫と大和が入ったのは......悠の病室、だった。静音はそこにはおらず、美姫と大和は同時に肩を撫で下ろした。だが、まだ緊張感は抜けきれない。

 初めて悠の病室に入った美姫は、戸惑いながら悠のベッドへと歩いて行く。事故に遭ってからあと少しで3ヶ月になるが、悠は未だ足をギプスで固定されたまま、ベッドに横たわっている。

「大和、美姫。来てくれたんだ」

 悠が顔をこちらに向けるものの、その視線が合うことはない。

 ほん、とに......目が見えないんだ。

 美姫の胸が潰れそうに苦しくなった。

 悠に、謝らないと......

 薫子に余計なことを言ったばかりに、彼女が駆け落ちする勇気を挫いてしまったこと。
 悠が事故に遭ってから、罪悪感に苛まれ、顔を合わせられなかったこと。

 美姫はゴクリと喉を鳴らすと、拳を握った。すると、悠の左手が薫子の手に触れて握り締めると、笑みを見せた。

「ふたりとも、結婚おめでとう。
 俺と薫子も、婚約したんだ」

 それを聞いた途端、言おうとしていた言葉が一気に吹き飛んだ。美姫と大和の胸に、熱いものが込み上げる。

 薫子に悠の病室に呼び出された時から、ふたりが恋人に戻ったということは予測していた。けれど、婚約にまで至っていたと知り、更に幸せな気持ちで満たされた。

「おめ、でとう......おめでとう。ほん、とに......よかっ......グッ」

 美姫は溢れ出す涙と共に、お祝いの言葉を告げた。大和は薫子の左手薬指に光る婚約指輪を感慨深げに見つめ、彼女の肩を軽く叩いた。

「おめでとう、幸せにな」

 薫子は大和に応えて頷いた。

「ずっと心配掛けて、ごめんね。大和にいっぱい助けてもらったね、ありがとう」
「悠......ごめんね。ずっと、お見舞いに来られなくて」

 美姫はそう言って、俯いた。どう、声を掛けていいのか分からなかった。

 何を言っても、言い訳にしか聞こえない気がして。言葉が、見つからない。

 大和も弱々しく言った。

「俺、も......暫く顔、見せなくて悪かった。お前が失明してるって聞いて......怖かったんだ。
 俺のせいだって、思ったら......」

 喉が詰まり、黙りこくる。

 すると突然、沈黙を突き破って扉が開くと同時に怒声が響いた。

「またあなた、性懲りも無く来てるの!!!」

 静音の声に、美姫と大和はビクッと肩を震わせた。

「すみま...」

 美姫が謝ろうとすると、それよりも前に薫子が静音に振り返り、声を掛ける。

「おば様、おはようございます」

 静音は美姫や大和など目もくれず、一直線に薫子に向かって歩いて行く。

「悠ちゃんには会わないでって、言ったでしょう! 今すぐ出てってちょうだい!!」

 静音は、怒りで目をギラギラさせた。
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