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奪われた幸せ ー久美sideー
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礼音は布団に包まって寝ていた躰を、大きく震わせた。
「礼音! 礼音! 久美だよ、一緒に帰ろう」
「ヒッ......く、くるな......」
礼音は布団を必死に握り締め、こっちを向かせようとする私に身を捩って抵抗する。
「怖がらなくて大丈夫、助けに来たの。
私たち、一緒に住むんだよ。これからは何も心配いらない。私が全部、守ってあげるから」
ちゃんと、私を見て。そしたら、分かるから......
あなたの好きな、久美だって分かるから。
無理やり布団を剥がし、礼音の顔に瞳を寄せる。
礼音が私を見て怯えながら後退りする。
「ック...かーちゃ......こ、こわ......かーちゃーーーーん!!!」
礼音が叫んだ瞬間、私の躰が物凄い力で押し退けられた。
「礼音! 礼音! 大丈夫!?」
「かーちゃ......ッグ、ッグ」
礼音がお母さんに縋りつき、泣いている。
な、んで......
「れ、おん......」
私の呼びかけに肩を震わせ、こちらを振り向くこともなく母親の胸に顔を埋める礼音。
---望みの糸が、私の中でプツリと切れた。
「これで、分かったでしょう? どうぞ、お引き取り下さい。
今ここで警察を呼んだら、間違いなく刑務所行きですよ」
冷たいお母さんの声が、礼音の部屋に静かに響いた。まるで抜け殻みたいに、礼音がいなくなった布団には丸く空洞が出来ていた。
現実を受け止めきれないまま東京に帰り、また私はお姉ちゃんの家で鬱々と過ごす日々に戻った。
以前よりも更に家から出なくなった。1日中部屋に閉じ籠り、礼音のことを思い出しては涙し、いつからか死にたいという思いが私の心を蝕み、侵食するようになっていた。
でも、いざとなると自殺する勇気が出ない。
手首にカッターナイフを当ててみたけど、その先を考えるだけで恐ろしくなり、実行出来なかった。首を吊って自殺すると糞尿がその後垂れ流しになるとか、溺死体は物凄く醜いだとか、飛び込み自殺は頭や内臓がバラバラに飛び散るだとかそんなことをネットで調べたら、もう考えるだけで無理だった。
誰か一緒に死んでくれる人がいれば、自殺できるかもしれない。
その時、思い浮かんだのが美姫の顔だった。
そうだ、私ひとりひっそり自殺なんてことしない。美姫を殺して、私も死ぬんだ。
美姫だけ幸せになんて、絶対にさせない。
ネットでいろいろ調べてみたところ、美姫は現在青海学園大学に通いながら、来栖財閥の仕事をサポートしているようだった。
夫である次期社長とともに来栖財閥のCMに出演し、雑誌やTVの取材に引っ張りだこ、しかも美姫のファッションは若い女性から注目され、彼女の着ていた服や小物が紹介されるとすぐに売れるのだとか。まるで芸能人気取りだ。
私がこんなにも苦しい思いをしていた間、美姫は世間から批判されることもないどころかもてはやされるなんて......許せない。
一緒に、地獄に引き摺り込んでやる。
けど、状況は簡単じゃなかった。
青海学園大学のセキュリティはN大に比べてはるかに高く、入学式以外は学生ICカードがなければ構内には入れない。ふたりが住むマンションも中に入るには鍵が必要だし、もし中にうまく入れてもロビーには警備員が常駐している。それ以外でなんとか美姫に近づく方法を探しても、常に美姫は旦那か母親と一緒のことが多く、それでなければ老人の男の人がそばについていた。
なかなか近づくチャンスがない......
焦りを募らせる私に、美姫が明治神宮で神前式を挙げるという噂が耳に入った。
以前、明治神宮に行った時に、偶然新郎新婦が行列をなして歩いているのを見かけたことがあるのを思い出した。これは、絶好の機会かもしれない。
もちろん、ふたりの挙式を見ようと大勢の人が押しかけるだろうけど、その方が私の姿をうまく隠すことが出来るし、人に押されたふりをして前に出てって美姫をそのままナイフで刺すことが出来るかもしれない......!!
そう思ったら、興奮で血が沸き立った。
「礼音! 礼音! 久美だよ、一緒に帰ろう」
「ヒッ......く、くるな......」
礼音は布団を必死に握り締め、こっちを向かせようとする私に身を捩って抵抗する。
「怖がらなくて大丈夫、助けに来たの。
私たち、一緒に住むんだよ。これからは何も心配いらない。私が全部、守ってあげるから」
ちゃんと、私を見て。そしたら、分かるから......
あなたの好きな、久美だって分かるから。
無理やり布団を剥がし、礼音の顔に瞳を寄せる。
礼音が私を見て怯えながら後退りする。
「ック...かーちゃ......こ、こわ......かーちゃーーーーん!!!」
礼音が叫んだ瞬間、私の躰が物凄い力で押し退けられた。
「礼音! 礼音! 大丈夫!?」
「かーちゃ......ッグ、ッグ」
礼音がお母さんに縋りつき、泣いている。
な、んで......
「れ、おん......」
私の呼びかけに肩を震わせ、こちらを振り向くこともなく母親の胸に顔を埋める礼音。
---望みの糸が、私の中でプツリと切れた。
「これで、分かったでしょう? どうぞ、お引き取り下さい。
今ここで警察を呼んだら、間違いなく刑務所行きですよ」
冷たいお母さんの声が、礼音の部屋に静かに響いた。まるで抜け殻みたいに、礼音がいなくなった布団には丸く空洞が出来ていた。
現実を受け止めきれないまま東京に帰り、また私はお姉ちゃんの家で鬱々と過ごす日々に戻った。
以前よりも更に家から出なくなった。1日中部屋に閉じ籠り、礼音のことを思い出しては涙し、いつからか死にたいという思いが私の心を蝕み、侵食するようになっていた。
でも、いざとなると自殺する勇気が出ない。
手首にカッターナイフを当ててみたけど、その先を考えるだけで恐ろしくなり、実行出来なかった。首を吊って自殺すると糞尿がその後垂れ流しになるとか、溺死体は物凄く醜いだとか、飛び込み自殺は頭や内臓がバラバラに飛び散るだとかそんなことをネットで調べたら、もう考えるだけで無理だった。
誰か一緒に死んでくれる人がいれば、自殺できるかもしれない。
その時、思い浮かんだのが美姫の顔だった。
そうだ、私ひとりひっそり自殺なんてことしない。美姫を殺して、私も死ぬんだ。
美姫だけ幸せになんて、絶対にさせない。
ネットでいろいろ調べてみたところ、美姫は現在青海学園大学に通いながら、来栖財閥の仕事をサポートしているようだった。
夫である次期社長とともに来栖財閥のCMに出演し、雑誌やTVの取材に引っ張りだこ、しかも美姫のファッションは若い女性から注目され、彼女の着ていた服や小物が紹介されるとすぐに売れるのだとか。まるで芸能人気取りだ。
私がこんなにも苦しい思いをしていた間、美姫は世間から批判されることもないどころかもてはやされるなんて......許せない。
一緒に、地獄に引き摺り込んでやる。
けど、状況は簡単じゃなかった。
青海学園大学のセキュリティはN大に比べてはるかに高く、入学式以外は学生ICカードがなければ構内には入れない。ふたりが住むマンションも中に入るには鍵が必要だし、もし中にうまく入れてもロビーには警備員が常駐している。それ以外でなんとか美姫に近づく方法を探しても、常に美姫は旦那か母親と一緒のことが多く、それでなければ老人の男の人がそばについていた。
なかなか近づくチャンスがない......
焦りを募らせる私に、美姫が明治神宮で神前式を挙げるという噂が耳に入った。
以前、明治神宮に行った時に、偶然新郎新婦が行列をなして歩いているのを見かけたことがあるのを思い出した。これは、絶好の機会かもしれない。
もちろん、ふたりの挙式を見ようと大勢の人が押しかけるだろうけど、その方が私の姿をうまく隠すことが出来るし、人に押されたふりをして前に出てって美姫をそのままナイフで刺すことが出来るかもしれない......!!
そう思ったら、興奮で血が沸き立った。
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