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葛藤
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新婚旅行から帰ってきても、休む間などない。すぐに大学の夏休みが明けて授業が始まり、加えて財閥での仕事があるからだ。
美姫は大和と一緒の時間を多く過ごし、公私ともに支えることで、彼との関係を深めたいと考えていた。そうしたら、いつかはセックスのことでも話し合えるようになれるかもしれないと期待していたからだ。
だが、そんな美姫の目論見が外れることになった。
帰国した翌日、美姫と大和は凛子から社長室に呼び出された。凛子は社長のデスクに腰掛け、その隣には京香が立っていた。
凛子は、単刀直入に美姫に告げた。
「美姫、あなたにはこれから秘書ではなく、来栖財閥が立ち上げるファッションブランドのチーフを任せます」
美姫が突然の辞令に言葉を失くしていると、京香が横から口を挟む。
「美姫さんがデザインした来栖財閥の制服や、結婚式での衣装がすごく話題になってね。それに以前からあなたは、ファッションリーダーとしても注目されていたでしょう?
そこで、来栖財閥からファッションブランドを立ち上げようという企画を持ちかけたところ、凛子さんも乗り気になってね」
「美姫、あなたにはファッションセンスがあり、デザインの才能があります。それに今、消費者は来栖財閥及び美姫に注目していますし、それだけの需要が見込めます。
これは、財閥にとってもあなたにとっても大きなチャンスなんですよ」
凛子にデザインの才能を認められ、需要があると聞いて嬉しい気持ちはあったが、戸惑いの方が大きかった。
「でも、それじゃ......大和を、秘書として支えられません」
大和の傍にいて、支えるって決めたのに......
凛子がデスクに肘をつき、手を組んで美姫を見上げた。
「美姫、あなたはファッションブランドの立ち上げに携わるのは嫌かしら?
様々な服のデザインや縫製、販売に関わりたくはない?」
「制服や着物、ドレスのデザインを考えたり描くのは楽しかったですし、それが実際に縫製されて手元に来た時は嬉しかったです。もし自分がデザインしたものが多くの人の目に留まり、喜んでもらえたらと思うと胸がわくわくします。
でも......私がそんな大きな仕事を任されて大丈夫なのかという不安もありますし、大和の傍にいて秘書として支えていきたいっていう気持ちが大きいんです」
美姫は、正直な気持ちを吐露した。
京香がぴしゃりと言い放つ。
「甘いわよ、美姫さん。
これはね、莫大な投資をかけた一大プロジェクトなのよ。そのために大勢の人が関わり、携わっていくの。そして、その中心にいるのは美姫さん、あなたでなければ意味がないの。
消費者は『来栖美姫』というブランドバリューがついている商品だからこそ買う価値があるし、購入したいと思っているの。あなたがこの企画に携わるか携わらないかで、成功するかどうかが大きく変わってくるのよ」
私が、企画に携わるか携わらないかで......
事の重大さを受け止めた美姫が、黙って俯いた。
凛子が優しく話しかける。
「美姫、あなたは好きだと思い、興味のある分野に挑戦する機会を与えられたの。これは、とても幸福なことですよ。望んでもそれを手に入れられる人はほんの僅か一握りという世界で、あなたはそれを差し出されているのです。
それともあなたは、ファッションやデザイン以上に、秘書の仕事に魅力を感じ、好きだと言えますか」
美姫は大和と一緒の時間を多く過ごし、公私ともに支えることで、彼との関係を深めたいと考えていた。そうしたら、いつかはセックスのことでも話し合えるようになれるかもしれないと期待していたからだ。
だが、そんな美姫の目論見が外れることになった。
帰国した翌日、美姫と大和は凛子から社長室に呼び出された。凛子は社長のデスクに腰掛け、その隣には京香が立っていた。
凛子は、単刀直入に美姫に告げた。
「美姫、あなたにはこれから秘書ではなく、来栖財閥が立ち上げるファッションブランドのチーフを任せます」
美姫が突然の辞令に言葉を失くしていると、京香が横から口を挟む。
「美姫さんがデザインした来栖財閥の制服や、結婚式での衣装がすごく話題になってね。それに以前からあなたは、ファッションリーダーとしても注目されていたでしょう?
そこで、来栖財閥からファッションブランドを立ち上げようという企画を持ちかけたところ、凛子さんも乗り気になってね」
「美姫、あなたにはファッションセンスがあり、デザインの才能があります。それに今、消費者は来栖財閥及び美姫に注目していますし、それだけの需要が見込めます。
これは、財閥にとってもあなたにとっても大きなチャンスなんですよ」
凛子にデザインの才能を認められ、需要があると聞いて嬉しい気持ちはあったが、戸惑いの方が大きかった。
「でも、それじゃ......大和を、秘書として支えられません」
大和の傍にいて、支えるって決めたのに......
凛子がデスクに肘をつき、手を組んで美姫を見上げた。
「美姫、あなたはファッションブランドの立ち上げに携わるのは嫌かしら?
様々な服のデザインや縫製、販売に関わりたくはない?」
「制服や着物、ドレスのデザインを考えたり描くのは楽しかったですし、それが実際に縫製されて手元に来た時は嬉しかったです。もし自分がデザインしたものが多くの人の目に留まり、喜んでもらえたらと思うと胸がわくわくします。
でも......私がそんな大きな仕事を任されて大丈夫なのかという不安もありますし、大和の傍にいて秘書として支えていきたいっていう気持ちが大きいんです」
美姫は、正直な気持ちを吐露した。
京香がぴしゃりと言い放つ。
「甘いわよ、美姫さん。
これはね、莫大な投資をかけた一大プロジェクトなのよ。そのために大勢の人が関わり、携わっていくの。そして、その中心にいるのは美姫さん、あなたでなければ意味がないの。
消費者は『来栖美姫』というブランドバリューがついている商品だからこそ買う価値があるし、購入したいと思っているの。あなたがこの企画に携わるか携わらないかで、成功するかどうかが大きく変わってくるのよ」
私が、企画に携わるか携わらないかで......
事の重大さを受け止めた美姫が、黙って俯いた。
凛子が優しく話しかける。
「美姫、あなたは好きだと思い、興味のある分野に挑戦する機会を与えられたの。これは、とても幸福なことですよ。望んでもそれを手に入れられる人はほんの僅か一握りという世界で、あなたはそれを差し出されているのです。
それともあなたは、ファッションやデザイン以上に、秘書の仕事に魅力を感じ、好きだと言えますか」
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