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乾いていく蜜
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春休みが終わり、美姫と大和は大学4年次となった。角膜移植が成功し、視力が戻った悠も4年次から復学する。美姫は、薫子も悠と共に復学するかもしれないと嬉しくなった。
4人が集まることによって、昔のような楽しい日々を取り戻せるのではないかという希望が湧いてきた。
「薫子も、大学に復学するよね?」
期待を込めて尋ねた美姫に対し、電話の向こうからは薫子の困ったような声の響きが伝わってきた。
『しーちゃんの育児でそれどころじゃないし、私は元々大学に興味があったわけじゃないから......
私ね、育児が落ち着いたら、生け花教室を開きたいなって考えてるの』
薫子の理由に納得できないわけではない。今、薫子にとって最も大切なのは詩織の育児だということも。彼女には、彼女自身の目標や夢があることも。
本当は、美姫だって分かっていた。
薫子だけの問題じゃない。美姫だって大和だって、仕事が多忙を極めているため、大学に来ることは滅多にない。
それでも、同じ大学に通えれば昔みたいにおしゃべりしたり、ランチしたりできるんじゃないかと淡い期待を抱いていた美姫は、寂しく思わずにはいられなかった。
もう昔とは違うのだと......強く実感させられた。
今までよりも講義の数は減るものの、卒業論文を仕上げなければならないので、仕事との両立で相変わらず多忙な日々は続きそうだ。
美姫はプレゼンが終わった事で仕事が少しは落ち着くかと思っていたが、来栖財閥が立ち上げた新たなファッションブランド『KURUSU』は大きな注目を集めたことで一層忙しくなった。プレゼン終了後、すぐにネットでの注文が大量に押し寄せ、雑誌やTVからのインタビューが殺到し、店頭販売がいつ始まるのか、問い合わせが相次いだ。
しかも部署の引越し作業に加えて店舗の内装を決めたり、それにかかる発注、商品のラインナップなど、やらなければいけないことは限りなくあった。美姫ひとりではスケジュール管理が難しくなり、本社の秘書課からひとり秘書を回してもらうことになった。
美姫の主な仕事は『KURUSU』の顔として、メディアに登場する事だ。インタビューに応じたり、時にはモデルとして自らのブランド服を着てファッション誌を飾る事もあった。
大和は未だ大地の死から完全に立ち直ってはいないものの、いつまでも家で過ごすわけにもいかず、ようやく仕事に復帰し、大学との両立で再び慌ただしい日常が始まった。
また以前のように大学でも家でも会社でも、顔を合わせることが少なくなってしまった。大地の死をきっかけとして大和との心が近づき、夫婦としての強い絆を深められたように感じていたのに、それがまた遠のいてしまうのではないかと美姫の不安が一層募っていった。
それは、ただ物理的に大和に会えなくなったからという理由だけではなかった。
ふたりの間に性行為はあるものの性交がなくなってしまったことが、美姫の不安を募らせる原因となっていた。
あの日以来、大和は美姫の頭を撫でたり、キスをしたりといったことは以前よりも増えていた。同じベッドで寝ているし、時には胸を撫でたり、美姫の秘部を弄ったりといった愛撫もしてくる。
それなのに、いざ挿入となると、
「やっぱり無理だ......」
と、背中を向けられてしまうのだ。
大地の死のショックから、そんな気分になれないのだと理解しようとした。自分よりも辛い彼の立場を分かってあげ、優しく包み込まなければいけないと。それでも、火照った躰を持て余さなければならないことに、つい恨めしい気持ちになってしまう。美姫は、溜まりに溜まった欲求不満が爆発してしまいそうだった。
仕事に没頭しようとしても、仕事の合間にジムに通って汗を流しても、燻る火種を消すことはできなかった。
美姫は、満たされない欲を自分で慰めようとした。
柔らかくて弾力のある膨らみを撫で、その先端を指先で摘む。少しずつ硬くなるその感触を確かめながら、捻りあげるようにしてクニクニと揉みしだく。次第にその手は、自分のものではなく、誰かに触られているかのように感じる。
細くて長い、繊細な指先......
『美姫......』
耳元で囁かれ、背中がゾクゾクした。
駄、目......何を考えてるの。
美姫は、必死に空想を打ち消した。大和の顔を思い浮かべ、彼との行為を思い浮かべて自慰しようとするが、躰は反応してくれない。
秀一を想像する時にはその声を、香りを思い出すだけで蜜が溢れ出すのに、大和との行為を思い出そうとすると途端に乾いてしまうのだ。
それでも美姫は、秀一を思って自慰はしない、と自らを諌めた。たとえ想像の中であっても、大和を裏切るような行為はしないと誓ったからだ。
美姫は燻り続ける火種を抱えたまま、日々を過ごしていた。
4人が集まることによって、昔のような楽しい日々を取り戻せるのではないかという希望が湧いてきた。
「薫子も、大学に復学するよね?」
期待を込めて尋ねた美姫に対し、電話の向こうからは薫子の困ったような声の響きが伝わってきた。
『しーちゃんの育児でそれどころじゃないし、私は元々大学に興味があったわけじゃないから......
私ね、育児が落ち着いたら、生け花教室を開きたいなって考えてるの』
薫子の理由に納得できないわけではない。今、薫子にとって最も大切なのは詩織の育児だということも。彼女には、彼女自身の目標や夢があることも。
本当は、美姫だって分かっていた。
薫子だけの問題じゃない。美姫だって大和だって、仕事が多忙を極めているため、大学に来ることは滅多にない。
それでも、同じ大学に通えれば昔みたいにおしゃべりしたり、ランチしたりできるんじゃないかと淡い期待を抱いていた美姫は、寂しく思わずにはいられなかった。
もう昔とは違うのだと......強く実感させられた。
今までよりも講義の数は減るものの、卒業論文を仕上げなければならないので、仕事との両立で相変わらず多忙な日々は続きそうだ。
美姫はプレゼンが終わった事で仕事が少しは落ち着くかと思っていたが、来栖財閥が立ち上げた新たなファッションブランド『KURUSU』は大きな注目を集めたことで一層忙しくなった。プレゼン終了後、すぐにネットでの注文が大量に押し寄せ、雑誌やTVからのインタビューが殺到し、店頭販売がいつ始まるのか、問い合わせが相次いだ。
しかも部署の引越し作業に加えて店舗の内装を決めたり、それにかかる発注、商品のラインナップなど、やらなければいけないことは限りなくあった。美姫ひとりではスケジュール管理が難しくなり、本社の秘書課からひとり秘書を回してもらうことになった。
美姫の主な仕事は『KURUSU』の顔として、メディアに登場する事だ。インタビューに応じたり、時にはモデルとして自らのブランド服を着てファッション誌を飾る事もあった。
大和は未だ大地の死から完全に立ち直ってはいないものの、いつまでも家で過ごすわけにもいかず、ようやく仕事に復帰し、大学との両立で再び慌ただしい日常が始まった。
また以前のように大学でも家でも会社でも、顔を合わせることが少なくなってしまった。大地の死をきっかけとして大和との心が近づき、夫婦としての強い絆を深められたように感じていたのに、それがまた遠のいてしまうのではないかと美姫の不安が一層募っていった。
それは、ただ物理的に大和に会えなくなったからという理由だけではなかった。
ふたりの間に性行為はあるものの性交がなくなってしまったことが、美姫の不安を募らせる原因となっていた。
あの日以来、大和は美姫の頭を撫でたり、キスをしたりといったことは以前よりも増えていた。同じベッドで寝ているし、時には胸を撫でたり、美姫の秘部を弄ったりといった愛撫もしてくる。
それなのに、いざ挿入となると、
「やっぱり無理だ......」
と、背中を向けられてしまうのだ。
大地の死のショックから、そんな気分になれないのだと理解しようとした。自分よりも辛い彼の立場を分かってあげ、優しく包み込まなければいけないと。それでも、火照った躰を持て余さなければならないことに、つい恨めしい気持ちになってしまう。美姫は、溜まりに溜まった欲求不満が爆発してしまいそうだった。
仕事に没頭しようとしても、仕事の合間にジムに通って汗を流しても、燻る火種を消すことはできなかった。
美姫は、満たされない欲を自分で慰めようとした。
柔らかくて弾力のある膨らみを撫で、その先端を指先で摘む。少しずつ硬くなるその感触を確かめながら、捻りあげるようにしてクニクニと揉みしだく。次第にその手は、自分のものではなく、誰かに触られているかのように感じる。
細くて長い、繊細な指先......
『美姫......』
耳元で囁かれ、背中がゾクゾクした。
駄、目......何を考えてるの。
美姫は、必死に空想を打ち消した。大和の顔を思い浮かべ、彼との行為を思い浮かべて自慰しようとするが、躰は反応してくれない。
秀一を想像する時にはその声を、香りを思い出すだけで蜜が溢れ出すのに、大和との行為を思い出そうとすると途端に乾いてしまうのだ。
それでも美姫は、秀一を思って自慰はしない、と自らを諌めた。たとえ想像の中であっても、大和を裏切るような行為はしないと誓ったからだ。
美姫は燻り続ける火種を抱えたまま、日々を過ごしていた。
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