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迷い
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この日のオープニングセレモニーには誠一郎と凛子も出席していた。
「美姫、おめでとう。自分のブランドを立ち上げるなんて、凄いな美姫は」
「本当に、よく今まで頑張りましたね」
手放しで喜び、褒めてくれる誠一郎と、今までの労をねぎらう凛子。二人はオープンを迎えられたことを、心から祝福してくれていた。
「私ひとりで出来ることなんて、限られています。これも、皆さんが支えて下さったお陰です」
その言葉に二人は誇らしげに娘を見つめ、微笑みあった。
主催者挨拶が無事に終わり、来賓祝辞が終わるとテープカットとなった。渡された白手袋をはめていると司会者から案内が入り、テープの前へと誘導される。キーパーソンである美姫は、テープの真ん中へと立った。
アテンドから黒盆に載せられたハサミが渡される。美姫は左手でリボンを下から掬うように持ち、右手にはハサミを持ってリボン右側の張り渡しテープにハサミを当てた。
司会者から案内が入る。
「皆さま、準備が整ったようでございます。私が『どうぞ!』と申し上げましたら、テープにハサミをお入れください。
それでは、これより来栖財閥ファッションブランド店『KURUSU』の新装オープンです。
どうぞ!」
司会者の合図によってファンファーレが鳴り響き、ハサミを入れてリボンをカットすると、拍手が沸き起こった。
店の入口に立ち、来店客をお出迎えする。客層はターゲット層である20代前半から半ばにかけての女性が多かったが、中には中高生や中高年の女性もいた。美姫はここで1日接客する予定だが、大和はこの後両親と共に本社へ戻る。
「ごめんな、ずっといてやれなくて」
申し訳なさそうに謝った後、大和が美姫の頭をポンポンと撫でた。
「頑張れよ」
それを見ていた来客からは、黄色い声が上がった。
美姫は大和を見上げ、微笑んだ。
「大和も、お仕事頑張ってね」
お願い。早く行って......
このままだと、泣き出しそうだから......
オープン当日の店は大盛況で、美姫は休む暇なく接客に追われた。店の閉店時間の8時を過ぎても客はなかなか帰ってくれず、店を閉めたのは9時半を回ってからだった。
店の売上を計算し、反省会を開き、ショップの女の子たちを送り出す頃には真夜中を過ぎていた。肉体的には疲れていたものの、精神的には充足感で満たされていた。
店内には、お祝いの花や祝電がたくさん届けられていた。花輪や鉢植えの花は店に綺麗に飾られていたが、花束は忙しくて花瓶に生けている時間すらなかったのでそのまま置かれていた。
ちゃんと、花瓶に生けてあげないと......
薔薇の花束を手にした美姫は、ふと既視感を覚えた。
美姫の実家の庭に植えてあった薔薇も、真っ赤だった。ずっと忘れていた匂いと共に、記憶が蘇る。
幼い頃、秀一とままごとの結婚式を挙げ、互いに愛を誓い合ったことを。そして、薔薇の花弁を摘み、むじゃきにそれを散らせて笑っていたあの日を。
もしかして、これ......
美姫は、ドキドキしながら添えられていたカードを手に取った。
『ご開店、心よりお祝い申し上げます。微力ながらも弊社も貴店発展の為に応援させて頂きますので、今後ますますの御繁盛をお祈り申し上げます。
◯△商事株式会社』
秀一さんじゃ、なかった。
真っ赤な薔薇なんて珍しいものでもないのに、それを秀一と結びつけてしまう自分を愚かしく思った。
秀一さんがお祝いの言葉なんて送ってくるはずないのに、何を期待していたんだろう......
レナードと空港で別れてから3ヶ月が経つ。
あの時、私は......本当に、正しい選択をしたんだろうか。
大和との婚約記者会見の後で秀一をウィーンへと送った時には、自分の選択は間違っていないと確信を持って言えていた。
けれど、それさえも今は少しずつぐらつき始めていた。
「ウッ、ウゥッ......」
考え、ない。
考えちゃいけない。
もう、全て終わったことなんだから......
薔薇の花束に顔を埋めると、鼻腔を懐かしい匂いが擽った。
美姫は膝から崩れ、肩を大きく震わせた。
「美姫、おめでとう。自分のブランドを立ち上げるなんて、凄いな美姫は」
「本当に、よく今まで頑張りましたね」
手放しで喜び、褒めてくれる誠一郎と、今までの労をねぎらう凛子。二人はオープンを迎えられたことを、心から祝福してくれていた。
「私ひとりで出来ることなんて、限られています。これも、皆さんが支えて下さったお陰です」
その言葉に二人は誇らしげに娘を見つめ、微笑みあった。
主催者挨拶が無事に終わり、来賓祝辞が終わるとテープカットとなった。渡された白手袋をはめていると司会者から案内が入り、テープの前へと誘導される。キーパーソンである美姫は、テープの真ん中へと立った。
アテンドから黒盆に載せられたハサミが渡される。美姫は左手でリボンを下から掬うように持ち、右手にはハサミを持ってリボン右側の張り渡しテープにハサミを当てた。
司会者から案内が入る。
「皆さま、準備が整ったようでございます。私が『どうぞ!』と申し上げましたら、テープにハサミをお入れください。
それでは、これより来栖財閥ファッションブランド店『KURUSU』の新装オープンです。
どうぞ!」
司会者の合図によってファンファーレが鳴り響き、ハサミを入れてリボンをカットすると、拍手が沸き起こった。
店の入口に立ち、来店客をお出迎えする。客層はターゲット層である20代前半から半ばにかけての女性が多かったが、中には中高生や中高年の女性もいた。美姫はここで1日接客する予定だが、大和はこの後両親と共に本社へ戻る。
「ごめんな、ずっといてやれなくて」
申し訳なさそうに謝った後、大和が美姫の頭をポンポンと撫でた。
「頑張れよ」
それを見ていた来客からは、黄色い声が上がった。
美姫は大和を見上げ、微笑んだ。
「大和も、お仕事頑張ってね」
お願い。早く行って......
このままだと、泣き出しそうだから......
オープン当日の店は大盛況で、美姫は休む暇なく接客に追われた。店の閉店時間の8時を過ぎても客はなかなか帰ってくれず、店を閉めたのは9時半を回ってからだった。
店の売上を計算し、反省会を開き、ショップの女の子たちを送り出す頃には真夜中を過ぎていた。肉体的には疲れていたものの、精神的には充足感で満たされていた。
店内には、お祝いの花や祝電がたくさん届けられていた。花輪や鉢植えの花は店に綺麗に飾られていたが、花束は忙しくて花瓶に生けている時間すらなかったのでそのまま置かれていた。
ちゃんと、花瓶に生けてあげないと......
薔薇の花束を手にした美姫は、ふと既視感を覚えた。
美姫の実家の庭に植えてあった薔薇も、真っ赤だった。ずっと忘れていた匂いと共に、記憶が蘇る。
幼い頃、秀一とままごとの結婚式を挙げ、互いに愛を誓い合ったことを。そして、薔薇の花弁を摘み、むじゃきにそれを散らせて笑っていたあの日を。
もしかして、これ......
美姫は、ドキドキしながら添えられていたカードを手に取った。
『ご開店、心よりお祝い申し上げます。微力ながらも弊社も貴店発展の為に応援させて頂きますので、今後ますますの御繁盛をお祈り申し上げます。
◯△商事株式会社』
秀一さんじゃ、なかった。
真っ赤な薔薇なんて珍しいものでもないのに、それを秀一と結びつけてしまう自分を愚かしく思った。
秀一さんがお祝いの言葉なんて送ってくるはずないのに、何を期待していたんだろう......
レナードと空港で別れてから3ヶ月が経つ。
あの時、私は......本当に、正しい選択をしたんだろうか。
大和との婚約記者会見の後で秀一をウィーンへと送った時には、自分の選択は間違っていないと確信を持って言えていた。
けれど、それさえも今は少しずつぐらつき始めていた。
「ウッ、ウゥッ......」
考え、ない。
考えちゃいけない。
もう、全て終わったことなんだから......
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美姫は膝から崩れ、肩を大きく震わせた。
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