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降臨
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秀一の手が美姫に伸ばされた時、美姫の躰がぐいと後ろへ引き寄せられた。
「来栖財閥創立記念パーティーにお越し下さり、ありがとうございます」
大和が美姫を守るように、肩を抱いていた。
「妻を誘惑しないで頂けますか。
ただでさえ、昔スキャンダルで騒がれて迷惑したんですから」
攻撃的な言葉ではあるものの、大和は笑顔を浮かべて軽く言うことで、周囲には冗談であるかのように見せた。だが、その笑顔は決して柔らかいものではなかった。
秀一は大和の先制攻撃に怯むことなく、切れ長の目を細めると口角を上げた。
「世界有数企業の1つである来栖財閥の新社長ともあろう方が、まさか叔父と姪の感動の再会を邪魔するほど余裕がない、なんてことはありませんよね?」
「ック......」
大和は歯噛みした。
その時、ヨハンシュトラウス作曲の「美しき青きドナウ」の演奏が流れ始めた。舞踏会でデビュタントとして踊った時の曲だ。
創立記念パーティーには外国人招待客が多い為、ダンスタイムを設けていたのだ。大和はダンスが苦手なため、美姫とふたりで踊る予定はなかった。
「Darf ich bitten(私と踊っていただけますか)?」
美姫に向かって、優雅に秀一の手が伸ばされる。
その手を取りたいという衝動に激しく揺さぶられながらも、美姫は自分の肩を抱いたままの大和の顔を窺うように見上げた。夫の許可なく、叔父とはいえスキャンダルの噂があった秀一と踊るわけにはいかない。
周囲からは、好奇に満ちた視線が集まっていた。もちろん皆は美姫と秀一がダンスすることを期待し、見守っている。
もし大和が拒否すれば、彼らの期待を裏切ることになり、会場の雰囲気を悪くしかねない。それに、大和が美姫と秀一の関係を疑っているとも思われかねない。
先ほど、『余裕のない男』と秀一に揶揄されたのも癪に障っていた。
大和は美姫の肩から手を外し、引き攣った笑みを見せた。
「美姫、せっかくだから楽しんでこいよ」
美姫を手放したくない気持ちを抑え、大和は男のプライドと意地をかけ、『余裕のある男』を演じた。
絶対に許されることはないだろうと思っていた大和の承諾の言葉を聞き、つい先ほどまでは秀一の手を取りたいと熱烈に思っていたのに、美姫は急に怖くなった。
招待客たちは、既にダンスが出来るようスペースを空けている。
目の前に差し出された細く長い指は、溜息が出るほど美しい。
この手を取ってしまったら......抑制、出来なくなってしまう。
躊躇う美姫に秀一が一歩近づくとその手を取り、手の甲に口づけた。
「Darf ich bitten?」
見上げたライトグレーの瞳が心臓まで射抜き、美姫は何もかも忘れて思わず魅入られた。
秀一にクスッと笑われてハッとし、慌てて片膝をついた。
秀一さんは、手の甲に口づけを落とすのは真似だけだと知っているはずなのに......
口づけられた手の甲が、燃えるように熱かった。その熱は全身へと急速に広がり、美姫の躰を侵食する。
「では、参りましょうか」
秀一に引き上げられ、美姫は立ち上がった。優美に差し出された秀一の掌に軽く手を添え、自分たちの為に空けられたスペースの中央へと誘われる。
非現実のような眩い光景にそれを見つめる観衆の女性達がうっとりし、溜息が溢れた。
「来栖財閥創立記念パーティーにお越し下さり、ありがとうございます」
大和が美姫を守るように、肩を抱いていた。
「妻を誘惑しないで頂けますか。
ただでさえ、昔スキャンダルで騒がれて迷惑したんですから」
攻撃的な言葉ではあるものの、大和は笑顔を浮かべて軽く言うことで、周囲には冗談であるかのように見せた。だが、その笑顔は決して柔らかいものではなかった。
秀一は大和の先制攻撃に怯むことなく、切れ長の目を細めると口角を上げた。
「世界有数企業の1つである来栖財閥の新社長ともあろう方が、まさか叔父と姪の感動の再会を邪魔するほど余裕がない、なんてことはありませんよね?」
「ック......」
大和は歯噛みした。
その時、ヨハンシュトラウス作曲の「美しき青きドナウ」の演奏が流れ始めた。舞踏会でデビュタントとして踊った時の曲だ。
創立記念パーティーには外国人招待客が多い為、ダンスタイムを設けていたのだ。大和はダンスが苦手なため、美姫とふたりで踊る予定はなかった。
「Darf ich bitten(私と踊っていただけますか)?」
美姫に向かって、優雅に秀一の手が伸ばされる。
その手を取りたいという衝動に激しく揺さぶられながらも、美姫は自分の肩を抱いたままの大和の顔を窺うように見上げた。夫の許可なく、叔父とはいえスキャンダルの噂があった秀一と踊るわけにはいかない。
周囲からは、好奇に満ちた視線が集まっていた。もちろん皆は美姫と秀一がダンスすることを期待し、見守っている。
もし大和が拒否すれば、彼らの期待を裏切ることになり、会場の雰囲気を悪くしかねない。それに、大和が美姫と秀一の関係を疑っているとも思われかねない。
先ほど、『余裕のない男』と秀一に揶揄されたのも癪に障っていた。
大和は美姫の肩から手を外し、引き攣った笑みを見せた。
「美姫、せっかくだから楽しんでこいよ」
美姫を手放したくない気持ちを抑え、大和は男のプライドと意地をかけ、『余裕のある男』を演じた。
絶対に許されることはないだろうと思っていた大和の承諾の言葉を聞き、つい先ほどまでは秀一の手を取りたいと熱烈に思っていたのに、美姫は急に怖くなった。
招待客たちは、既にダンスが出来るようスペースを空けている。
目の前に差し出された細く長い指は、溜息が出るほど美しい。
この手を取ってしまったら......抑制、出来なくなってしまう。
躊躇う美姫に秀一が一歩近づくとその手を取り、手の甲に口づけた。
「Darf ich bitten?」
見上げたライトグレーの瞳が心臓まで射抜き、美姫は何もかも忘れて思わず魅入られた。
秀一にクスッと笑われてハッとし、慌てて片膝をついた。
秀一さんは、手の甲に口づけを落とすのは真似だけだと知っているはずなのに......
口づけられた手の甲が、燃えるように熱かった。その熱は全身へと急速に広がり、美姫の躰を侵食する。
「では、参りましょうか」
秀一に引き上げられ、美姫は立ち上がった。優美に差し出された秀一の掌に軽く手を添え、自分たちの為に空けられたスペースの中央へと誘われる。
非現実のような眩い光景にそれを見つめる観衆の女性達がうっとりし、溜息が溢れた。
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