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After Story2 ー夢のようなプロポーズー

祝福の旋律ー3

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 演奏を終えると、カミルに手を取られてモルテッソーニが歩み寄った。

『これでようやく夫婦になれたな、おめでとう』
『ありがとうございます。お体は大丈夫なんですか』

 モルテッソーニはヘルニアを患い、暫く入院していた。その間、カミルはモルテッソーニを献身的に介護した。

 カミルと付き合い始めた頃は、また年下好きの趣味が始まったと揶揄されていたが、今では彼らの愛を疑うものはいない。

『あぁ、大分良くなったよ。カミルのお陰だ』

 モルテッソーニはカミルに穏やかな笑みを向けた。カミルはあの頃よりも大人っぽい顔つきになったものの、いまだその可愛らしさは失われていない。カミルは花の咲いたような笑顔を向け、それから美姫と秀一に向き直った。

『ふたりとも、本当によかった……
 ねぇ、法的にもこれから夫婦となるつもりなの?』

 オーストリアで5年間同棲し、コモンローパートナーとして事実上の夫婦関係は認められたものの、美姫と秀一は、法的にも夫婦として認められたいと願っていた。

 実際、法的に夫婦となっていなくても保証される権利は変わらない為、拘る必要はないのかもしれないが、日本で叔父と姪の禁忌の恋愛に苦しんだふたりだからこそ選んだ道だった。

『えぇ、そのつもりです』

 美姫は、はっきりとカミルに答えた。

 日本で叔姪婚しゅくてつこんが認められていない以上、ふたりはオーストリア国籍を取得しなければならない。国籍を取得するには、30年以上オーストリアに住んでいるか、15年以上オーストリアに住み、かつオーストリア社会に貢献していることを証明できることが条件となるため、秀一は運が良ければあと10年で国籍を取得出来る。

 そうなれば、美姫は秀一の配偶者として国籍を取得することが出来るのだ。

 あと、10年から25年かかるのか……

 その長さを思うと遠い道程である気がするものの、その未来を見据えて秀一と一緒にいられるのだと思うと幸せな気持ちに満たされた。

 モルテッソーニがカミルの腰を抱いた。

『今私たちは、同じ立場だ。
 どちらが法的に早く夫婦になれるか、勝負だな』
『そうですね』

 秀一は笑みを深めた。

 カミルとモルテッソーニも事実婚として夫婦と認められているものの、オーストリアでは同性婚は法的に認められていない。

 ウィーンはヨーロッパ大都市の中でも特に、ゲイやレズビアンにオープンな街だと言われている。オーストリアでは同性の事実婚が認められ、国から保証され、養子縁組も認められているのに、法的に認められていないというのはなんとも不思議な話だ。

 現在、多くの同性愛者が法的に同性婚を認めてもらえるよう大々的にキャンペーンを展開し、国に訴えている。

 もしかしたら、美姫と秀一が夫婦になる前に、カミルとモルテッソーニが法的に夫婦となる日の方が近いかもしれない。

 突然、濃厚な煙草と香水の匂いが鼻腔をついた。

『んもぉ、今日はお祝いの席なんだから、かたい話はなしよ!
 みんなでパァーッと盛り上がりましょ!!』

 ミシェルが美姫と秀一の間に割り込み、秀一の腕に自らの腕を絡ませる。

『あーぁ、あたしの周りの独身イケメン男がどんどん減ってくわぁ。
 シューイチに唾つけられなかったのが、ほんと残念!』

 ミシェルは天を仰ぎ、大袈裟に嘆いてみせた。

 秀一が、クスリと艶やかな笑みを浮かべる。

『このあいだのレインボー舞踏会(同性愛者の為の舞踏会)では、随分楽しまれてたようですが?
 色々と噂は聞いてますよ』
『あらっ、バレてたの?
 でも、シューイチほどの男となると、そうそういないのよねぇ……ほんと、ミキが羨ましいわ。もしシューイチと別れることになったら、すぐにあたしに教えてね』
『そ、そんなことには絶対になりませんから!!』

 思わず大声を上げた美姫に、ミシェルは

『キャハハ……相変わらず真面目ちゃんね、ミキは!』

 と大声で笑った。

 レナードは美姫と秀一の元には寄らず、プラチナブロンドの髪を掻き上げ、眉根を寄せて、ザックを睨んだ。

『時間ねぇんだろ、いつまで待たせるつもりだ。早く準備しろ!』
『ごめん、ごめんってー。これから急いで着替えるから、怒んないでよ!相変わらずレオは厳しいなぁ。
 あ、ミキとシューイチは、隣にある部屋で着替えて来てね。さすがに女性にここで着替えてとは言えないからさぁ』

 ザックは燕尾服に着替える為におもむろに革のジャケットを脱ぎ、Tシャツになった。



 ザッ、ク……



 美姫は、思わず絶句した。ザックのTシャツに、達筆な書体で『巨根』と大きく書かれていたからだ。

 美姫の隣に立つ秀一は、口を抑えて肩を小さく揺らした。

 美姫の釘付けになった視線に気づいたザックは、嬉しそうにTシャツを引っ張った。
 
『これ、この前オランダに演奏旅行行った時に、なぜか日本語のTシャツが売ってる店があって買ったんだぁ。
 日本のカリグラフィー(書道)、カッコイイよねー。意味は全然分かんないけど!』

 ザック、そんなに日本語のTシャツ好きなら、日本語の勉強した方がいいかも……

『ねぇねぇ、ミキー。これって、なんて意味?
 店のおっさんに聞いたら、このTシャツ着てれば女の子にモテモテだよって言われたんだけど』
『え、えーと……』

 美姫は真っ赤になって俯いた。

 とてもじゃないけど、言えない……

 秀一が、美姫の背中に手を添えた。

「では時間もないようですし、隣の部屋に行きましょうか」
「は、はい……」
『ちょっと待ってよー!教えてよー!』

 ザックに申し訳ないと思いつつ、美姫は秀一に促され、ホールを後にした。
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