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焦燥 ー秀一視点ー
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秀一はボストンバッグを手に出口に立ち、殺気立った目つきで窓から階段の位置を確認する。扉が開くと同時にホームに降り立ち、急ぎ足で階段へと向かう。転がるように階段を下りると、駐車場へと直結している日本橋口に向かおうとするが、
あぁ、この時間ではもう無理ですね…
日本橋口の開口時間は夜7時半まで。もう10時を回っている。引き返し、八重洲北口へと急ぐ。改札をくぐり、駐車場へ。赤いロメオは遠目からでもすぐに分かった。さっと乗り込み、車のエンジンをかけるとナビで羽鳥大和の住所を登録する。
早く……美姫の元へ……
大和の住むマンションの前へ車を停める。衆議院議員、羽鳥大蔵の息子とは思えない程、簡素な造りのマンションだ。エントランスには警備員もいなければ、ブザーコードも押すことなく入れてしまう。
エレベーターに乗り込み、6階を押す。エレベーターの位置を知らせるランプを秀一は苛立ちながら見つめ、拳を硬く握り締めた。手に汗を感じる。
美姫…どうか、いて下さい……
エレベーターの案内音が鳴り、扉が開いた。大和の住む603の部屋番号を足早に廊下を歩きながら目で確認すると、インターホンを鳴らす。
暫くして、内側から鍵の開けられる音と共に大和が顔を覗かせた。その表情は憔悴しきっているように見えた。だが、そんなことを構う余裕など今の秀一にはなかった。ゴクリと生唾を飲み込む。
「美姫、は?」
強張った声で尋ねると、大和は視線を扉の閉まっているベッドルームと思わしき部屋へと向けた。
いるのだ、美姫が……
昂ぶる気持ちのまま、秀一はベッドルームへと駆け出した。
「美姫!!!」
部屋の扉を開くと、美姫はベッドに横たわっていた。衣服は着ているが……何かがおかしい。
「美、姫……?」
秀一は、ゆっくりと美姫に近付いていった。
「ハァッハァッ…しゅハァ…いち…ハァッ、ハァ…さ…ハァッ、ハァッ…」
美姫の乱れた呼吸とともに呼びかけられ、秀一の背中がゾクッとする。歩み寄るに連れて、美姫の表情が次第にくっきりと見えてきた。苦しそうに荒く呼吸し、顔を真っ赤にし、尋常じゃない程の汗を流し、躰が小刻みに震えている。
秀一の顔を見て安心したように笑顔を見せようとするが、それも苦しげで見ていて胸が痛んだ。美姫の頬を優しく包み込むと、それだけでビクリッと震えた。
「も、しや……」
薬を……盛られたのですね。
燃え上がるような怒りが嵐のように唸りを上げて秀一の胸の中に渦巻く。
許、さない……許さない、許さない許さない許さない……私の、愛しい美姫に……
あの男が誰の逆鱗に触れたのか……はっきりと思い知らせなければ……
「ハァッ、ハァッ…しゅハァ…いちハァッ、ハァッ、ハァッ…さんハァ…」
美姫の呼びかけに、秀一がハッとする。
まずは、美姫を連れて帰らねば……
「さ、美姫、もう大丈夫ですよ。家へ帰りましょう」
美姫の背中に手を回し抱きかかえようとする。が、美姫は瞳をギュッと閉じて躰を硬直させた。
「ハァッ、ハァ…い...…ハァッ、や……ハァッ、ハァッ…」
美姫の弱々しい拒否の言葉が響いた。
あぁ、この時間ではもう無理ですね…
日本橋口の開口時間は夜7時半まで。もう10時を回っている。引き返し、八重洲北口へと急ぐ。改札をくぐり、駐車場へ。赤いロメオは遠目からでもすぐに分かった。さっと乗り込み、車のエンジンをかけるとナビで羽鳥大和の住所を登録する。
早く……美姫の元へ……
大和の住むマンションの前へ車を停める。衆議院議員、羽鳥大蔵の息子とは思えない程、簡素な造りのマンションだ。エントランスには警備員もいなければ、ブザーコードも押すことなく入れてしまう。
エレベーターに乗り込み、6階を押す。エレベーターの位置を知らせるランプを秀一は苛立ちながら見つめ、拳を硬く握り締めた。手に汗を感じる。
美姫…どうか、いて下さい……
エレベーターの案内音が鳴り、扉が開いた。大和の住む603の部屋番号を足早に廊下を歩きながら目で確認すると、インターホンを鳴らす。
暫くして、内側から鍵の開けられる音と共に大和が顔を覗かせた。その表情は憔悴しきっているように見えた。だが、そんなことを構う余裕など今の秀一にはなかった。ゴクリと生唾を飲み込む。
「美姫、は?」
強張った声で尋ねると、大和は視線を扉の閉まっているベッドルームと思わしき部屋へと向けた。
いるのだ、美姫が……
昂ぶる気持ちのまま、秀一はベッドルームへと駆け出した。
「美姫!!!」
部屋の扉を開くと、美姫はベッドに横たわっていた。衣服は着ているが……何かがおかしい。
「美、姫……?」
秀一は、ゆっくりと美姫に近付いていった。
「ハァッハァッ…しゅハァ…いち…ハァッ、ハァ…さ…ハァッ、ハァッ…」
美姫の乱れた呼吸とともに呼びかけられ、秀一の背中がゾクッとする。歩み寄るに連れて、美姫の表情が次第にくっきりと見えてきた。苦しそうに荒く呼吸し、顔を真っ赤にし、尋常じゃない程の汗を流し、躰が小刻みに震えている。
秀一の顔を見て安心したように笑顔を見せようとするが、それも苦しげで見ていて胸が痛んだ。美姫の頬を優しく包み込むと、それだけでビクリッと震えた。
「も、しや……」
薬を……盛られたのですね。
燃え上がるような怒りが嵐のように唸りを上げて秀一の胸の中に渦巻く。
許、さない……許さない、許さない許さない許さない……私の、愛しい美姫に……
あの男が誰の逆鱗に触れたのか……はっきりと思い知らせなければ……
「ハァッ、ハァッ…しゅハァ…いちハァッ、ハァッ、ハァッ…さんハァ…」
美姫の呼びかけに、秀一がハッとする。
まずは、美姫を連れて帰らねば……
「さ、美姫、もう大丈夫ですよ。家へ帰りましょう」
美姫の背中に手を回し抱きかかえようとする。が、美姫は瞳をギュッと閉じて躰を硬直させた。
「ハァッ、ハァ…い...…ハァッ、や……ハァッ、ハァッ…」
美姫の弱々しい拒否の言葉が響いた。
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