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高揚
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美姫と秀一の宿泊する部屋はフィルハーモニカー通りに面しており、ウィーン国立歌劇場---通称、オペラ座の真後ろに位置する高層階の角部屋のペントハウスだった。扉を開けてすぐに広大なリビングルームが広がり、そこには漆黒のグランドピアノが置かれていた。
「わぁっ、お部屋にピアノがあるんですね!」
そう言った美姫に、秀一が笑みを深めた。
「ある、というか…置いてもらったのですよ。一日でも指を動かさないと鈍りますからね」
そう、だったんだ……
考えてみれば、美姫が秀一と一日中一緒にいる時は、必ず彼はピアノを弾いていた。プロフェッショナルのピアニストなのだから、当然といえば当然なのかもしれないが、大学生の美姫にとってみれば、本当に凄い……と改めて秀一を尊敬した。
「まぁ、さすがに今日は本格的に弾くことは無理そうなので、指慣らしぐらいしか出来ませんが……それより、ここからの景色は素晴らしいのですよ、ほらこちらに来てみて下さい」
秀一がテラスの窓へと歩み寄り、美姫を呼び寄せた。
「わぁ…すごいっ!!」
テラスの窓から外を眺めると、オペラ座から遠くはラットハウスの塔まで望むことが出来た。まるで星屑を散りばめたように金色の光がキラキラと眩く街中に溢れている。
秀一が扉を開け、ふたりでテラスへと出た。
テラスには硝子が上にカバーされた焦げ茶色の籐製の丸テーブルと、同じく籐製の椅子が二つあり、その横には緑の観葉植物が置かれていた。硝子の柵は低めになっており、ちょうど美姫が肘を掛けやすい高さだった。
このテラスハウスはホテルを改装した際に増築されたものだと聞いていたが、室内もテラスもエントランスの雰囲気とは真逆のモダンな造りになっていた。外観は古く荘厳な雰囲気を残しつつも、快適性を重視する国民性なのかもしれない、と美姫は感じた。
窓越しに見ていた時よりも更に煌めきが増し、目に光が射し込んでくるようだ。だが、夜空の光を遮ることがないのは、東京とは違い、高層ビルに囲まれていないせいだからだと気が付いた。ウィーン市内を一望できるここからの眺めを見る限り、建物は全て一定の高さ以上のものはない。国か市の条例により景観を害することのないよう決められているのだろう。
星空の煌めきと都会のビルの窓やライトアップされた建物の煌めきが織り成す夜景がこの街をより一層ロマンチックに映し出していて、素敵......
「お気に召して頂けましたか?」
風が吹き付けて寒さで身震いした美姫の肩に秀一が手を回して引き寄せ、髪を一束掬って口づけを落とした。甘く温かな秀一の言葉と行為はホットココアのように美姫の心の奥にじんわりと沁み込み温めてくれた。
「えぇ、とても……素敵です……」
高層階から見える美しいウィーンの夜景を一緒に秀一さんと見られるなんて。幸せ……
秀一の愛情に満ちた自分への態度に胸が熱くなり、美姫は涙が込み上げてきた。
ここへ一緒に来れて……よかった。
日本でのあの苦しかった出来事は全て置き去りにして、また新たな気持ちで未来に向かって踏み出せるような気持ちになった。
肩に置かれていた秀一の手に美姫がそっと触れると、秀一の手がピクッと僅かに震えた。
「……外は冷えますから、そろそろ中に入りましょうか……」
「そう、ですね……」
秀一の離れた手がテラスの扉を開け、美姫を部屋の中へとエスコートした。美姫の中の熱が行き場をなくして、内部に籠もる。
あの事件の後、秀一さんとはプラトニックな関係でいて、それが私にとって心地よかったはずなのに……今はそれが……物足りなく感じてしまっている。
そんな感情と躰の反応に戸惑う自分もいるのに……止められない。
秀一さんにもっと近付きたい。もっと触れたい……
そう、強く願っている心の奥に閉じ込めた思いが、解放されて溢れ出しそうになる……
「わぁっ、お部屋にピアノがあるんですね!」
そう言った美姫に、秀一が笑みを深めた。
「ある、というか…置いてもらったのですよ。一日でも指を動かさないと鈍りますからね」
そう、だったんだ……
考えてみれば、美姫が秀一と一日中一緒にいる時は、必ず彼はピアノを弾いていた。プロフェッショナルのピアニストなのだから、当然といえば当然なのかもしれないが、大学生の美姫にとってみれば、本当に凄い……と改めて秀一を尊敬した。
「まぁ、さすがに今日は本格的に弾くことは無理そうなので、指慣らしぐらいしか出来ませんが……それより、ここからの景色は素晴らしいのですよ、ほらこちらに来てみて下さい」
秀一がテラスの窓へと歩み寄り、美姫を呼び寄せた。
「わぁ…すごいっ!!」
テラスの窓から外を眺めると、オペラ座から遠くはラットハウスの塔まで望むことが出来た。まるで星屑を散りばめたように金色の光がキラキラと眩く街中に溢れている。
秀一が扉を開け、ふたりでテラスへと出た。
テラスには硝子が上にカバーされた焦げ茶色の籐製の丸テーブルと、同じく籐製の椅子が二つあり、その横には緑の観葉植物が置かれていた。硝子の柵は低めになっており、ちょうど美姫が肘を掛けやすい高さだった。
このテラスハウスはホテルを改装した際に増築されたものだと聞いていたが、室内もテラスもエントランスの雰囲気とは真逆のモダンな造りになっていた。外観は古く荘厳な雰囲気を残しつつも、快適性を重視する国民性なのかもしれない、と美姫は感じた。
窓越しに見ていた時よりも更に煌めきが増し、目に光が射し込んでくるようだ。だが、夜空の光を遮ることがないのは、東京とは違い、高層ビルに囲まれていないせいだからだと気が付いた。ウィーン市内を一望できるここからの眺めを見る限り、建物は全て一定の高さ以上のものはない。国か市の条例により景観を害することのないよう決められているのだろう。
星空の煌めきと都会のビルの窓やライトアップされた建物の煌めきが織り成す夜景がこの街をより一層ロマンチックに映し出していて、素敵......
「お気に召して頂けましたか?」
風が吹き付けて寒さで身震いした美姫の肩に秀一が手を回して引き寄せ、髪を一束掬って口づけを落とした。甘く温かな秀一の言葉と行為はホットココアのように美姫の心の奥にじんわりと沁み込み温めてくれた。
「えぇ、とても……素敵です……」
高層階から見える美しいウィーンの夜景を一緒に秀一さんと見られるなんて。幸せ……
秀一の愛情に満ちた自分への態度に胸が熱くなり、美姫は涙が込み上げてきた。
ここへ一緒に来れて……よかった。
日本でのあの苦しかった出来事は全て置き去りにして、また新たな気持ちで未来に向かって踏み出せるような気持ちになった。
肩に置かれていた秀一の手に美姫がそっと触れると、秀一の手がピクッと僅かに震えた。
「……外は冷えますから、そろそろ中に入りましょうか……」
「そう、ですね……」
秀一の離れた手がテラスの扉を開け、美姫を部屋の中へとエスコートした。美姫の中の熱が行き場をなくして、内部に籠もる。
あの事件の後、秀一さんとはプラトニックな関係でいて、それが私にとって心地よかったはずなのに……今はそれが……物足りなく感じてしまっている。
そんな感情と躰の反応に戸惑う自分もいるのに……止められない。
秀一さんにもっと近付きたい。もっと触れたい……
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