理想の萌えシチュ

奏音 美都

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理想の萌えシチュ

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 傾いた太陽の光が校舎の窓硝子に吸収され、圧縮されてから解放されたように、圧倒的な強さで人気ひとけのなくなった教室を眩しく照らし出す。

 たちまち世界は、オレンジのセロファンを重ねた色へと変化する。

 窓を通して怒声とも歓声ともつかない声が耳の遠くに聞こえてきて見下ろすと、運動場の一番広い面積を使って練習しているラグビー部員達がスクラムを組んでいるのが見えた。

 うちの高校のラグビー部、通称ビー部は野球でいうなら甲子園にあたる花園で優勝したこともあるほどの実績を持つ強豪校で、その練習はかなり厳しいことで有名だ。

 沈みゆく眩しい夕陽に照らされた赤と白のボーダーのユニフォームは、そのラインが区別つかない程に赤みを帯びていた。グッと顎を下げて押し合う選手達はヘッドキャップしか見えず、背中の黒で書かれた背番号をひとつひとつ追っていく。

 その中に、一際がたいのいい背中に貼りついた背番号8が見えた。

ーーそれが、私の幼馴染である青田あおた 浩二こうじだった。

 小学生からの幼馴染である浩二は、今まで野球一筋だったにも関わらず、新入生への部活紹介でうちがラグビーの強豪校であることを知った途端、即座に入部を決めてしまった。

 ビー部は高校のない土曜日を含めて週に6日も練習があり、もちろん夏休みや冬休みも関係なく、まともに連続して休めるのはテスト期間中とお正月の三ヶ日だけだった。それでも、何が楽しいのか知らないけど、浩二はどんどんラグビーの魅力にハマっていった。

 それから二年が経ち、浩二は背番号8のユニフォームを着るようになった。ナンバーエイトはフォワードを最後方からコントロールして、統率する選手が付ける背番号で、スクラムの時には後方に運ばれたボールを手で運び出すこともあるらしい。体の大きさ、スピードとパワー、的確な判断力が必要とされ、フォワードの中で最も華があり、守備、攻撃の両面においてチームの中心となる、重要なポジションでもあるのだと浩二が以前に熱く説明してくれた。

 普段は寡黙でぽつぽつとしか喋らない浩二が、ラグビーの話になった途端、まるで人が変わったように瞳をキラキラとさせて雄弁に語る。彼の語る話の半分……いや、3分の1ぐらいしか理解出来ないけど、それでもそんな浩二の話を聞くのは楽しかった。

「美唯《みい》、何見惚れてんのよ」

 不意に掛けられた言葉にビクッとし、一瞬で現実に引き戻された。声のした方に振り向くと、正面に座っている倫子ともこがポテチを手にしながら目を細め、ニタニタと笑みを浮かべてる。
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