僕がそばにいる理由

腐男子ミルク

文字の大きさ
26 / 37

第26話

光は暗い部屋の中央にポツンと立ち尽くしていた。静寂が支配する中、玄関のノック音が響く。無表情でドアを開けると、探偵が立っている。

「依頼通りの報告です。」

無機質な声と共に渡された封筒を、光は一言も発さず受け取る。ゆっくりとドアを閉め、手にした封筒を丁寧に開く。その指先はまるで震えを抑えるかのように慎重だった。

封筒の中から取り出した書類に目を落とした瞬間、光の表情が微かに動く。目を細め、眉を寄せるが、徐々にその顔が異様に歪んでいく。

「……なんだこれ……」

光は薄暗い部屋の中で封筒をじっと睨みつけていた。その指先は微かに震え、冷たい汗が背中を伝うのがわかる。探偵が渡してきた調査報告書。そこに記された内容を目にするまでは、まだ自分に希望が残されていると信じたかった。

だが、その希望は、たった一枚の紙切れによって無残に踏みにじられた。

“対象者:裕貴(Ω) 現在妊娠4週目。”
“胎児の父親:歩夢(α)との確定。”

一言一句が光の精神を蝕むようだった。血の気が引いた顔で数秒間書類を見つめた後、彼の口元が引き攣るように笑みを浮かべた。その笑いは徐々に抑えられなくなり、やがて異常なほど高い奇声に変わった。

「あぁはははははっ!!裕貴……!俺以外の男のガキを腹の中に……!歩夢だと?あのガキが……!」

光の手は拳を作り、書類を握り潰すようにしてくしゃくしゃにすると、無造作に床に叩きつけた。それでも怒りが収まらず、手近にあった椅子を思い切り蹴り飛ばし、机の上にあったガラスのコップを掴むと壁に向かって力任せに投げつけた。

「歩夢なんてクソガキが……!裕貴は俺のもんだ!俺だけのものなんだよ……!」

声は怒りと混乱で途切れがちだったが、その分光の動作は狂気じみていた。目が赤く充血し、額から冷や汗が滴り落ちる。

ふと、光は床に転がる調査書類を拾い上げた。力で歪んだ紙に目を落とし、歩夢の名前が何度も目に飛び込んでくる。

「裕貴……」

その名前を呟くたびに光の感情はさらに高ぶる。急に書類をビリビリに破り捨てると、光は笑いながら呟いた。

「あのガキなんか、すぐに消してやる……あいつがいなけりゃ、裕貴も俺に戻ってくる……そうだ、全部俺のものだ……」

しかし次の瞬間、光の顔は引き攣り、狂気がさらに深まる。

「でも……どうして俺じゃダメなんだ、裕貴……どうして……!」

その言葉を繰り返すうちに光は自分の頭を両手で抱え込み、床に崩れ落ちた。そして突然、顔を上げると、壁に向かって勢いよく額を叩きつけた。

「戻してやる……全部元通りにしてやる……歩夢も、あのガキも、いらない……裕貴は俺のものだ……!」

血が額から滴り落ちても光は止めなかった。自らの狂気の中に浸りながら、床に倒れ込んだ彼は最後に呟いた。

「裕貴……待ってろよ。俺が迎えに行くからな……絶対に逃がさない……絶対に……」

その声は、静まり返った部屋の中で不気味に反響し、光の異常な執着を一層際立たせていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

妖艶幽玄絵巻

樹々
BL
舞台は江戸風味。 人を嫌い、人から離れて生きていた紫藤蘭丸は、倒れていた侍・清次郎を気まぐれに拾う。 すぐに帰すつもりだったけれど。 清次郎の真っ直ぐな青い瞳に惹かれ、その心に惹かれ。 人に惹かれていく。 霊媒師・紫藤蘭丸と、彼に拾われた貧乏侍・清次郎の。 和風ファンタジー物語。 物語はここから始まる。 *大人度高め。着物度高め。 *この物語は昔の日本の世界をベースにした、和風BLファンタジーです。歴史小説のような難しい話ではありません。また、この物語は大人描写が所々に出てきます。戦闘シーンもあります。苦手な方はご注意を。*以前、ポケクリというサイトで【第二回ポケスペ小説大賞BL賞受賞作品】を受賞した作品です。

クローゼットは宝箱

織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。 初めてのオメガバースです。 前後編8000文字強のSS。  ◇ ◇ ◇  番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。  美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。  年下わんこアルファ×年上美人オメガ。

【完結】あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

すれ違い夫夫は発情期にしか素直になれない

和泉臨音
BL
とある事件をきっかけに大好きなユーグリッドと結婚したレオンだったが、番になった日以来、発情期ですらベッドを共にすることはなかった。ユーグリッドに避けられるのは寂しいが不満はなく、これ以上重荷にならないよう、レオンは受けた恩を返すべく日々の仕事に邁進する。一方、レオンに軽蔑され嫌われていると思っているユーグリッドはなるべくレオンの視界に、記憶に残らないようにレオンを避け続けているのだった。 お互いに嫌われていると誤解して、すれ違う番の話。 =================== 美形侯爵長男α×平凡平民Ω。本編24話完結。それ以降は番外編です。 オメガバース設定ですが独自設定もあるのでこの世界のオメガバースはそうなんだな、と思っていただければ。

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。