僕がそばにいる理由

腐男子ミルク

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第29話

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家のドアを開けた瞬間、歩夢は違和感を覚えた。部屋は真っ暗で、人気がない。普段なら「ただいま」の声に応じて裕貴が迎えに出てくるのに、それがない。

「……まだ帰っていないのか?」

不安が胸の中で広がるのを抑えながら、部屋の中を見渡す。台所、リビング、寝室。どこを探しても裕貴の姿は見当たらない。

(スーパーに行ったまま戻ってきてないのか?それともどこかで寄り道でも……)

歩夢は携帯を取り出し、裕貴に電話をかけた。しかし、繋がらない。ただの電源切れか、それとも――。

「……何かあったわけじゃないよな?」

そう自分に言い聞かせながらも、胸の鼓動は早まるばかりだった。不安が冷たい手のように心を締め付ける。

その時だった。電話の音が突然鳴り響く。画面を見ると「東京産婦人科」の表示。

(婦人科……?)

恐る恐る電話に出ると、静かな女性の声が耳に届いた。

「佐藤裕貴さんのお宅で間違いないでしょうか?担当看護師の一ノ瀬と申します。」

看護師?裕貴?一瞬で血の気が引いた。

「あ、はい……確かに裕貴はこの家に住んでますが……」

自分でも声が震えているのがわかる。何か良くない知らせなんじゃないか、という考えが頭をよぎる。

「旦那様でしょうか?」

「えーと、まぁ、はい。番と言いますか……」

曖昧な答えしか返せない自分に苛立ちながらも、次の言葉を待つ。しかし、次の瞬間、看護師の口から出た言葉に頭が真っ白になった。

「なら、よかったです。奥様の次の妊婦定期健診のお話しなのですが――」

「待ってください!」

思わず声を張り上げる。頭の中で言葉がぐるぐると渦巻く。妊婦?定期健診?それって、どういうことだ?

「先輩……裕貴が妊娠してるって、本当ですか?」

その言葉を口にした瞬間、鼓動が一気に跳ね上がった。驚きと混乱、そして言葉にしがたい感情が一気に押し寄せてくる。

(裕貴が妊娠してる?俺の子?いや、それ以外にありえない……けど……どうしてそんなことを今まで黙ってたんだ?)

耳鳴りがして、看護師の言葉が遠くに聞こえるような感覚になる。だが、同時に、腹の底から沸き上がる感情もあった。

(俺……親になるのか……?裕貴が俺の子供を……?)

混乱の中にも、湧き上がる喜び。しかしその一方で、不安と焦燥も押し寄せる。どうして裕貴は黙っていたのか。彼が何を思ってこれを隠していたのか。

「……裕貴……なんで……」

呆然としながらも、歩夢は拳を握り締めた。

(とにかく、早く帰ってきてもらわないと。それからちゃんと話をしないといけない。裕貴が何を考えてたのか、俺がどうすればいいのか……)

決意を固める歩夢の耳には、心臓の鼓動だけが響いていた。
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