転生したら嫌われ騎士に番を迫られた

腐男子ミルク

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アクセルとの和平交渉編

第27話  起伏

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「では、失礼いたします。」

俺は静かに頭を下げ、扉を後ろ手にそっと閉める。
重々しい音とともにウロボロスの気配が遮断され、わずかに呼吸が楽になる――はずだった。

けれど、すぐ目の前にいたのはサーガだった。

「……サーガ?」

その瞳は、明らかに怒りと戸惑いを滲ませていた。
彼は俺の肩を掴むと、堪えきれなかった感情が爆発するように声を上げる。

「おい、メビウス……お前、どうする気なんだよ!」

俺の名前を呼ぶ声が、いつもより少しだけ掠れている。
きっと彼も、扉の向こうから何かを察していたのだろう。

「……まだ考え中だけど」
俺はそっと目を伏せる。
「……あの条件を飲むしか、ないのかもしれないって思ってる」

その瞬間、空気が変わった。
背後から、何かが爆ぜるような気配がした。

振り返ると、そこにいたサーガの目は血走っていて――まるで、爆発寸前の火薬のようだった。

「お前……本気で言ってんのか、それ」

低い声だった。
でも、その一言で背筋に冷たいものが走る。

「ウロボロスの妃になる? 国のため? 交渉のため? そんなもんのために……お前自身を差し出すのか?」

「サーガ、俺は――」

「違うだろ!!!」

廊下に響いた怒声。
その声に、周囲の空気が一気に張り詰める。

「……だったら俺と婚約しろ。俺が全部背負う。お前を“国のため”に利用させたりなんかさせねぇ!」

「サーガ……?」

「わかってんだよ、ずっと……。お前が無理してんのも、全部自分で背負ってるのも、気付いてた。けど、俺には何も言わない。言わせてもくれない」

彼の拳が震えている。
その目は、何かを振り切るように、強く俺を見つめていた。

「だったら俺が、お前の全部を壊してでも守る。国でも交渉でも、そんなもん知るかよ。俺は――お前が誰かに奪われるのが、耐えられねぇんだよ!」

息が荒くなる。
瞳の奥で、何かが今にも壊れそうに燃えていた。

「俺の隣にいろ。俺と生きろ。……頼むから」

最後の言葉は、必死に押し殺した叫びだった。

だけど――なぜか、心臓の奥が、熱く疼いた。

「⋯サーガはどうして俺をそこまで気にかけくれるの?」

俺の問いに、サーガは少しだけ視線を逸らした。
それでもすぐに、まっすぐに俺を見据え直すと、小さく息を吐いた。

「……メビウス、お前になら……少しだけ、話してもいい気がする」

それはまるで、ずっと鍵をかけていた扉を、静かに開け放つような声音だった。
騎士としての強さも、鋼のようなまなざしも、今の彼にはなかった。

「誰にも話したことはない。いや……話したくなかった。けど……お前には、知ってほしい」

サーガは壁に寄りかかり、空を見上げるように瞼を閉じた。
その仕草は、ほんの少し震えているように見えたのは――俺の気のせいだろうか。

「俺は……昔、王族の血を引く家に生まれた。けど、幸福だったのはほんの短い間だけだった」

言葉と一緒に、空気がひんやりと変わる。

「ある日を境に、すべてが地獄に変わったんだ」

その言葉には、怒りも悲しみも、感情という感情が幾重にも折り重なっていた。

俺は言葉を挟まなかった。
ただ、サーガの物語を――彼の過去を、受け止めるために、静かに耳を傾けた。




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