転生したら嫌われ騎士に番を迫られた

腐男子ミルク

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囁きの森と君の声 編

第41話   Lesson2

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「クソがぁぁぁぁ!!!」  

サーガは絶叫しながら、谷間へ向かって落下していく。
バンジージャンプ。
それは、騎士としてのメンタルを鍛えるための「特訓」だった。

眼下に広がる地面がどんどん迫ってくる。

「これなんの特訓だよ!! どこが“そば付きの騎士”に必要なんだよおおお!!」

空中でジタバタともがくサーガ。
そんな彼の姿を、下から優雅に見上げながら、メイド服姿のクリスはキラキラした笑顔で言い放った。

「はい!! 頑張ってください。メンタルを鍛えるトレーニングですよ」

「メンタルぅぅ!? 物理的に鍛えてんだよコレェェ!!!」
地面ギリギリでロープがピン!と張り、彼の体はぐんっと宙に舞い戻った。

そんなサーガを見ながら、クリスは淡々とメモ帳を開きながら呟く。

「えっと、騎士に必要な素質その一……主を守るための冷静な判断力。うん、足りませんね」
「その二、強靭な精神力……うーん、これもアウト」

「誰が!誰がアウトだっつった!!!」
ブランブランと宙吊りになりながら怒鳴るサーガに、クリスはにっこりと優雅に手を振る。

「次のメニューもございますので、頑張ってくださいね?」

「まだあんのかよぉぉぉ!!!」 

──かくして、“鬼メイド”クリスによる地獄の特訓は、まだまだ終わらない。

(正直、馬鹿にしてた。
この特訓、意味なんて8割くらいないし、どう見ても嫌がらせの塊でしょ?
3日もすりゃ「やってらんねぇ!」ってキレて出てくと思ってたのに──)

サーガは、一度も弱音を吐かなかった。

あんなにぶっきらぼうで反抗的で、口を開けば文句ばっか言ってたくせに。
泥だらけになっても、バンジーで魂抜けかけても、罵声浴びても。
次の日には絶対、ぼさぼさの髪で「おはよーだの、クソメイド」とか言う割には何気ない顔で特訓に集中する。



だから今日は、クリスの方からサーガを呼び止めた。
ふらつく彼の腕をそっと引き、椅子に座らせる。

「少し、手当てをします」

「……ったく。いいってのに」

そう言いつつも、大人しく座るあたり、疲れてるんだろう。
クリスはそっと、布で彼の肘をぬぐう。ひりっと、血のにじむ擦り傷。

「ねぇ、サーガ。ひとつだけ聞いていい?」

「んだよ……。こっちは腰も足も痛ぇんだよ」

「……なんで、そこまで頑張れるの?」

サーガの手がぴたりと止まる。

少しだけ、頬が赤くなったような──気がした。

「は?……そんなの、決まってんだろ」

ぼそっと言ったあと、サーガは視線をそらして、少しだけ顔を伏せた。
それはまるで、自分の言葉に照れ隠しをしているようだった。

「……メビウスのために決まってんだよ」

ぽつりと落とされたその一言。
飾り気のない、だけど胸を刺すほど真っ直ぐな声。

「……好きな奴のために頑張るの、変かよ」

その目は誰よりも不器用で、誰よりも真摯だった。

クリスは無言のまま、手にしていた包帯をもう一度丁寧に巻き直した。
その動作に滲むのは、優しさでも、諦めでもない。

(……メビウス様。彼は、本当に純粋で一途な方ですね。
 誰に認められなくても、貴方のために自分を削って、すべてを差し出そうとしている。ムカつくくらいに、まっすぐで……ずるいくらいに、誠実で)

包帯を留めながら、クリスはそっと目を伏せた。

(……私は、この人に貴方の番になってほしい。
 メビウス様が笑ってくれるなら。
 この人と一緒にいられるなら――)

「よし、終わり。傷が開かないように、今夜はちゃんと休んでくださいね」

「へっ、心配してんのか?」

「いえ。これ以上訓練中にへばられても、私が困るので」

「……お前ってほんと、可愛くねーよな」

サーガがふっと笑う。その顔は、どこか照れていて、だけどどこか嬉しそうで。

(……ああ、やっぱり。
 貴方には、この人がふさわしい)

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