転生したら嫌われ騎士に番を迫られた

腐男子ミルク

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囁きの森と君の声 編

第42話   初めてのおつかい?

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俺は今日も、鬼クソメイド・クリスのもとで雑務に追われていた。
メビウスが執務をしている間、服の整理に部屋の掃除――地味だけど、地味に大変なやつばかりだ。

そんな中、いきなりクリスが声を上げた。

「しまった!!」

「うおっ、なんだよ急に!」

俺が振り向くと、クリスは珍しく本気で焦った顔をしていた。

「私としたことが……メビウス様の下着の補充を、すっかり忘れていました!」

「……だったら買いに行けばいいだろ、馬鹿メイド。いちいち声出すな。」

「それもそうですね!では――よろしくお願いします!」

「は?」

気づいた時には、俺の手にはエコバッグ。
目の前では、クリスが満面の笑みで親指を立てていた。

「はぁ!?なんで俺が行くんだよ!」

「だってサーガ、男同士でしょ?抵抗ないでしょ?それに、あなたも王子のお世話係なんですから当然です!」

「抵抗あるに決まってんだろ!!俺が一人で男の下着選んでたら変な目で見られるだろーが!」

「大丈夫です!堂々としてれば誰も気にしませんから!あ、デザインはお任せしますね?王子はSサイズですから!」

「細けぇ情報いらねぇよ!!」

「ではいってらっしゃ~い♪」
ぱたんとドアを閉めたあと、クリスの鼻歌が廊下の向こうから聞こえてきた。

「クッソ……なんで俺がメビウスのパンツ買いに行かなきゃなんねぇんだよ……!」

俺はエコバッグをぶんぶん振り回しながら、全力で現実逃避するしかなかった。




誰もいない城下の裏通り。
サーガは、汗ばむ手で紙のメモを握りしめながら、目の前の店を見上げていた。


“魅惑の布地屋 ラ・ラパン”


「ここで……あってるのか?」

意を決して扉を押すと、中には妖しげなムードの漂う空間と――

「いらっしゃ~い……おやまぁ、今日はまた格好いいお客様ねぇ」

とろけるような声で現れたのは、長い髪を結んだ、細身の男の店主だった。

「……あの、男の下着、見たいんだけど……こ、これ、サイズ……」

「んまぁ~、いらっしゃい坊やぁ~。誰かのおつかい?……それとも、あなたが履くのぉ?」

「は、はぁぁぁ!?履くわけねぇだろ!つ、つかいだっつってんだろ!!」

ブンブン手を振って否定すると、店主はくすくす笑って、ひとつウインク。

「ふふっ、顔真っ赤にしちゃってぇ~、ほんっと可愛いわねぇ?……ま、ゆっくり見ていってちょうだい?」

そう言ってヒールでカツンと床を鳴らし、棚の方へ案内する。
俺は「うわ……やべぇとこ来たかも」と思いつつ、棚の前で立ち尽くした。

……っていうか。
あいつのパンツってどんなだよ。派手?シンプル?レースとかないよな?さすがにねぇよな?

「そういえばさ~」

店主が俺のすぐ隣にぴたっと立つ。近い!

「君は、どんな子の下着を探してるの?ふふ……恋人?それとも、まだ片想い?」

「ど、どんなっ!?……そ、そんなん……」

顔がカーッと熱くなるのを感じた。
視線を逸らす俺に、店主が肘をちょんと当てて、ふふっと意味深に笑う。

「……番の子、でしょ?」

「は、はあああああ!?ち、ちげぇしっ!!」

思わず後ずさった俺に、店主が軽やかにステップを踏んで一回転。

「キャッ、かわいい~!!ちょっと、童貞くんってほんと純粋よねぇ。好きだわぁ、こういうの!」

「ど、どどどど、童貞じゃねぇし!!!」
俺の声が、店中に響き渡った。

(な、なんだこの店……地獄か……)

棚の前で腕を組みながら、俺はゴチャゴチャに並んだ下着を前に、ひとりで頭を抱えていた。

シンプルなやつか?黒?白?
まさかレースとかフリル付きじゃねぇよな……いや、アイツって意外と――

「うーん……」

「……ふふっ、迷ってるわね?」

不意に後ろから声がして、ビクッと振り返ると、さっきのオネエっぽい店主がひょっこり顔を出していた。

「そ、その……知り合いに頼まれて来たんだけど、どれがいいのかわかんなくて……」

「ふーん?」

店主はにやりと笑って、片手を顎に添えて俺をじっと見つめる。

「だったらさぁ――」

少し身を乗り出して、優しく、でも妙に含みのある笑みを浮かべながら言った。

「あなたが、その子に履いてほしい下着を選んだら?」

「……えっ」


店主の声はなぜか、すとんと胸に落ちた。
……俺が、メビウスに履いてほしい下着。

(なんだよそれ……なんか、想像したら……ちょっと、やべぇ)

顔がまた熱くなっていくのが自分でもわかる。
俺は棚にズラリと並べられた下着の中で、ひときわ目を引く白いレースのやつに目を奪われていた。

(……これ、布面積少なすぎじゃねぇか?ほぼ紐だぞこれ……)

なのに目が離せなかった。
想像してしまったのだ、あいつがこの下着を履いている姿を。

(白い、ふわっとしたシャツの裾から……このレースがチラッと……)

メビウスが無防備に椅子に座って、足を組んだ瞬間。
シャツの間から、チラリと覗く白い――

(や、やばい!なんだこれ!!マジで変態じゃねぇか俺!!)

頭をブンブン振って正気に戻ろうとしたその時、店主の声が耳元で囁いた。

「それ、気に入った?」

「なっ、ななな、何がだよッ!!」

「いいじゃない、そのレース。色もいいし、なにより想像したでしょ?その子が履いてるとこ~」

「してねぇし!!してねぇよ!!!」
(めっちゃしたけど!!!)

「うふふ、可愛い~。じゃあこれ、ラッピングしておくわね♪」

「ま、待て待て待て落ち着け!俺はただその……あのっ、普通のやつ!!もっと布多いやつ!!」

俺のこの日最大の敵は、エロい下着と笑顔がやたら眩しいオネエの店主だった。






***

「……何やってるんだ、俺は」

部屋の前で俺はしゃがみ込み、頭を抱えていた。
手には、明らかに2種類の下着が入った袋。ひとつは、いたって普通のもの。
もうひとつは――例の、レースの布地が面積ギリギリの、あれだ。

「くっそ……オカマの店主にペース握られて、ノリで買っちまったじゃねぇか……!こんなもん、渡せるかよ!!」

顔が熱い。脳裏に浮かぶのはさっきの想像の残像。
ふるふると頭を振って消そうとした、そのとき――

「……サーガ?」

ビクッと肩が跳ねた。

「なっ……!?」

振り返ると、そこにはメビウスがこちらを見下ろしていた。
相変わらず涼しげな目元。けれど、ほんの少しだけ首を傾げて、不思議そうにこちらを覗き込んでいた。

「どうしたの?そんなところで……何かあった?」

「な、なにもねぇ!!なんでもねぇって!!」

俺は慌てて袋を後ろ手に隠す。けど、動きが不自然すぎた。
メビウスの視線が、じわりと下がる。――手元に向かって。

「……それ、何?」

「っち、ちがっ!これは……あの、クリスに頼まれて、その、下着を……!」

「ふうん、そうなんだ。ありがとう。……見せて?」

「や、やめろおおおおお!!!」

俺の情けない叫びが、廊下に響いた。
でも、メビウスはまるで聞こえてないかのように袋を開いて――あの、致命的にやばい下着を覗き込んだ。

「ちょ、ま、待てっ、それは、見んなってっ!!!」

間に合わねぇ。あいつの目にしっかり焼きついた。
その瞬間、メビウスの体がピタリと止まる。

「……これ……サーガが、選んだの?」

「はっ……!?は、はぁ!?ちっ、ちげぇしっ!!あれはっ……!その……!!」

喉がひっかかって言葉が出ねぇ。
心臓がバクバクして、なんか熱い。暑い。息、苦しい。

「オカマの……っ、いや、店のやつが、勝手に、なんか!あいつがっ……!すすめてきてっ……!!で、でっかい声で“これ絶対似合うわよ~ん”とか言ってきて……っ!!」

焦りすぎて、ろくに言葉になってねぇ。
俺は手をぶんぶん振って否定してんのに、メビウスはそれを抱きしめて――

「……次のヒート、これ……つけてみようかな」

「っ、ぁ゛っっっ!!?」

息が詰まった。まじで、何か止まった。
背筋から何かが走って、膝がガクンと抜けそうになる。

「お、お前っ……な、なな、なっ……なんで、そんなっ……!!」

俺は必死に言葉を探す。けどどこにも見つからねぇ。
目は逸らしてるのに、頭の中はメビウスのその下着姿でいっぱいだ。

「や、やべぇだろ……それ……っ、お、俺が、俺……!!もっ、もう、それ、なんか……!!!」

メビウスはふわっと微笑んだ。

「……サーガって、ほんとにわかりやすいね」

「っ……うるせぇよ……っ!!」

顔が熱すぎて、ぶっ倒れそうだった。
でも、目の前のメビウスがその下着をつけるって言ったその一言だけが、頭の中で何度も何度もリフレインしてた。

(……あの下着で、ヒート、って……まじかよ……死ぬわ俺)
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