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囁きの森と君の声 編
第51話 エピローグ
しおりを挟む春の風が柔らかくカーテンを揺らす。
王都の空は青く澄み渡り、花の香りがふんわりと部屋に入り込んでくる。
メビウスは大きなお腹をなでながら、窓辺に座っていた。
服の上からでもはっきりわかるほどの丸みに、もうすぐ会える命の気配を感じて、自然と表情がほころぶ。
「サーガ、今朝も元気に動いてるよ。……あなたに似て、やんちゃなんだろうね」
そう呟いてから、振り返る。
キッチンではエプロン姿のサーガが、慎重におかゆを温めていた。
「……似るなよ。俺みたいなのは大変だ」
「ううん、似てほしい。……強くて、不器用で、でも優しくて」
「……褒めてるのかそれ」
サーガはバツが悪そうに眉をしかめたが、声には照れが滲んでいた。
「ねえ、サーガ」
「ん?」
「今度は……あなたが“お父さん”だね」
その言葉に、サーガの手が止まる。
スプーンが鍋にカコンと当たった音が、静かに響く。
「……誰が?」
「え?だから……お父さんだよ、あなた。子どもが生まれたら、あなたは“お父さん”になるんだよ」
「……まじか……っ」
ぽつりと呟くその声は、いつになく真剣だった。
サーガはゆっくりこちらを振り返ると、困ったように頭をかいた。
「……どうしよう、全然自信ねぇ」
「大丈夫。俺もいるよ」
そっと手を伸ばし、メビウスが彼の手を取る。
そのぬくもりに、サーガはきゅっと指を絡めた。
「お前は……すげぇよな。ちゃんと受け入れて、前に進んで……」
「ううん、俺も怖いよ。でも……あなたが一緒にいるから、平気になれるの」
その言葉に、サーガは目を細めて、優しくメビウスを抱き寄せた。
彼の胸の音が、どこかぎこちなくて、でも真っ直ぐで愛おしかった。
「……俺さ、たぶんきっと、不器用なお父さんになると思う」
「うん。きっとそうだね」
「そこ、笑うな」
「ふふ……でも、子どももきっと、そんなあなたが大好きになるよ」
そう言って微笑むメビウスの頬に、サーガはそっとキスを落とした。
静かに、あたたかく、未来へと繋がるキスだった。
「……楽しみだな。お前と、子どもと、3人で生きてくの」
「うん、俺も」
春の陽射しが二人を包み込み、窓の外では、希望の風がまたそっと吹いた。
――そして、新しい家族の物語が、今、始まろうとしていた。
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