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その愛は造花
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『愛』を花で例えるならば、私と彼が育てていたのは造花である。
枯れることもなければ変わらない美しさを保ち続ける一輪の薔薇の造花。お互いを傷つけあうことも、濃密な愛を確かめ合うこともない。そしてその薔薇が増えることもない。その関係性が楽で良いと思う人もいるだろうが私は違った。
造花に水をあげたところで育たないことは分かっているのに、いつか育ってくれることを夢見て、私は毎日のように水をあげ続けていた。彼の期待に応えよう。彼が満足するように頑張ろう。彼氏でもない一人の男性と性に乱れた毎日。そんな無駄な努力を続けた大学生活。
そんなことを繰り返しているうちに、造花はカビだらけになっていた。
三十路のゴールテープが見えはじめた頃、大学の同窓会が開かれた。
参加者は大学の同ゼミに所属していた数名で、教授の日程に合わせて山形県の銀山温泉に旅行しようという話になった。一泊二日の小旅行は観光というよりも酒と料理と温泉がメインで、学生の頃に思い描いていた同窓会そのものだった。
同ゼミのメンバーとは大学卒業以来で、久しぶりの再会に最初はぎこちなさが目立っていたが、時間が経つにつれて学生の頃のように冗談を交えて話せるようになった。そしてこの旅行には彼も参加していた。大学生の頃、共に快楽に溺れたセフレである。
彼は食事の席で婚約者がいることを告白した。驚きが薄かったのはその場にいる半数以上が結婚していたからであろう。それでもおめでたいことには変わりない。
だから余計にお酒がすすみ、私含め他のメンバーは社会人になって自制できていた酒リミッターを軽々と超えてしまい、すぐに深い眠りについた。和室部屋には酒瓶を片手に眠る野郎どもと、律儀に布団を敷いて眠る女性らがいた。旅行というより合宿のようだった。
途中で目を覚ました私は、頭にまとわりつくような酒残りに不快感を覚え、あまり好ましくないが温泉で軽く酔いを覚ました。久しぶりの旅行で疲労困憊である。温泉でほぐれた体が眠りたがっているため、一息ついて部屋に戻ろうとした――が、旅館のリラクゼーションスペースに彼がいた。イスに座って天井を見上げている。酔いを冷まそうとしているのだろうか。
私は心配になって彼に声を掛けた。大丈夫だと言っているが、上半身が常にふらついている。酔いが冷めるまでゆっくりお話ししていようよ。そう訊ねると彼は同意してくれた。それから彼とあまり大きな声で言えないような思い出を語り合った。恥ずかしい話もツライ話も。
盛り上がるような話題ではないため、わんこそばのように思い出したらそれを口にしていく。意外にも話が尽きることはなかった。顔を合わせることなく一点を見つめて、お互いにリラックスしながら語り合った。同窓会と酒のせいだろうか、当時の恋心がよみがえる。
心に淡いピンク色の炎が灯った気がした。
私は彼に婚約者に対する不満を訊ねた。するといくつか不満を口にした彼。それから私は話題を切り替えて和室部屋が一部屋空いていることを告げる。本当は男女で一部屋ずつ用意していたが、結局一部屋しか使っていない。だからその部屋は自由に使える、そうつけ加えた。
彼は分からないふりをしてそろそろ部屋にもどろうかと提案するが、彼の指のあいだに私の指を絡ませ、逃げられないようにホールドする。逃がすものか。
浴衣の襟を引っ張ってわざとらしく胸元をはだけさせる。ほんのりと熱を帯びた肉体を彼にだけ見せるように前かがみに動いた。下着はつけていない。だから彼の目には私の裸が映っているだろう。
彼の瞳を静かに見つめる。焦らして、焦らしてから彼に身体を密着させた。
人肌の温もりに身体と脳が溶けていくような感覚は久しぶりだった。抵抗する彼を黙らせるには言葉は必要ない。首を伸ばして唇を奪った。数年ぶりの彼とのキスの味は何一つ変わらない。
彼は私を知っている。私との体の相性を知っている。そう簡単に忘れられないくらいの快楽を彼に覚えさせてきた。ズルい言われるだろうが、これが大人の女性のやり方でもある。だからこうすれば自然と歩み寄ってくることは必然だった。
「え」
肩に手が置かれ、グイっと引き離される。やめてもごめんも何も言わなかった。ただ、申し訳なさそうに目線を下げる彼に、私は渇いた笑いを浮かべるほかなかった。
『愛』を花で例えるならば、私と彼が育てていた花は造花であった。
枯れることもなければ変わらない美しさを保ち続ける一輪の薔薇の造花。けれど数年ぶりに会った彼の腕には100本の薔薇の生花を抱えていた。それを持って私の前から立ち去って行った。
私が育てていたカビだらけの造花は、いつの間にか溶けて無くなっていた。
枯れることもなければ変わらない美しさを保ち続ける一輪の薔薇の造花。お互いを傷つけあうことも、濃密な愛を確かめ合うこともない。そしてその薔薇が増えることもない。その関係性が楽で良いと思う人もいるだろうが私は違った。
造花に水をあげたところで育たないことは分かっているのに、いつか育ってくれることを夢見て、私は毎日のように水をあげ続けていた。彼の期待に応えよう。彼が満足するように頑張ろう。彼氏でもない一人の男性と性に乱れた毎日。そんな無駄な努力を続けた大学生活。
そんなことを繰り返しているうちに、造花はカビだらけになっていた。
三十路のゴールテープが見えはじめた頃、大学の同窓会が開かれた。
参加者は大学の同ゼミに所属していた数名で、教授の日程に合わせて山形県の銀山温泉に旅行しようという話になった。一泊二日の小旅行は観光というよりも酒と料理と温泉がメインで、学生の頃に思い描いていた同窓会そのものだった。
同ゼミのメンバーとは大学卒業以来で、久しぶりの再会に最初はぎこちなさが目立っていたが、時間が経つにつれて学生の頃のように冗談を交えて話せるようになった。そしてこの旅行には彼も参加していた。大学生の頃、共に快楽に溺れたセフレである。
彼は食事の席で婚約者がいることを告白した。驚きが薄かったのはその場にいる半数以上が結婚していたからであろう。それでもおめでたいことには変わりない。
だから余計にお酒がすすみ、私含め他のメンバーは社会人になって自制できていた酒リミッターを軽々と超えてしまい、すぐに深い眠りについた。和室部屋には酒瓶を片手に眠る野郎どもと、律儀に布団を敷いて眠る女性らがいた。旅行というより合宿のようだった。
途中で目を覚ました私は、頭にまとわりつくような酒残りに不快感を覚え、あまり好ましくないが温泉で軽く酔いを覚ました。久しぶりの旅行で疲労困憊である。温泉でほぐれた体が眠りたがっているため、一息ついて部屋に戻ろうとした――が、旅館のリラクゼーションスペースに彼がいた。イスに座って天井を見上げている。酔いを冷まそうとしているのだろうか。
私は心配になって彼に声を掛けた。大丈夫だと言っているが、上半身が常にふらついている。酔いが冷めるまでゆっくりお話ししていようよ。そう訊ねると彼は同意してくれた。それから彼とあまり大きな声で言えないような思い出を語り合った。恥ずかしい話もツライ話も。
盛り上がるような話題ではないため、わんこそばのように思い出したらそれを口にしていく。意外にも話が尽きることはなかった。顔を合わせることなく一点を見つめて、お互いにリラックスしながら語り合った。同窓会と酒のせいだろうか、当時の恋心がよみがえる。
心に淡いピンク色の炎が灯った気がした。
私は彼に婚約者に対する不満を訊ねた。するといくつか不満を口にした彼。それから私は話題を切り替えて和室部屋が一部屋空いていることを告げる。本当は男女で一部屋ずつ用意していたが、結局一部屋しか使っていない。だからその部屋は自由に使える、そうつけ加えた。
彼は分からないふりをしてそろそろ部屋にもどろうかと提案するが、彼の指のあいだに私の指を絡ませ、逃げられないようにホールドする。逃がすものか。
浴衣の襟を引っ張ってわざとらしく胸元をはだけさせる。ほんのりと熱を帯びた肉体を彼にだけ見せるように前かがみに動いた。下着はつけていない。だから彼の目には私の裸が映っているだろう。
彼の瞳を静かに見つめる。焦らして、焦らしてから彼に身体を密着させた。
人肌の温もりに身体と脳が溶けていくような感覚は久しぶりだった。抵抗する彼を黙らせるには言葉は必要ない。首を伸ばして唇を奪った。数年ぶりの彼とのキスの味は何一つ変わらない。
彼は私を知っている。私との体の相性を知っている。そう簡単に忘れられないくらいの快楽を彼に覚えさせてきた。ズルい言われるだろうが、これが大人の女性のやり方でもある。だからこうすれば自然と歩み寄ってくることは必然だった。
「え」
肩に手が置かれ、グイっと引き離される。やめてもごめんも何も言わなかった。ただ、申し訳なさそうに目線を下げる彼に、私は渇いた笑いを浮かべるほかなかった。
『愛』を花で例えるならば、私と彼が育てていた花は造花であった。
枯れることもなければ変わらない美しさを保ち続ける一輪の薔薇の造花。けれど数年ぶりに会った彼の腕には100本の薔薇の生花を抱えていた。それを持って私の前から立ち去って行った。
私が育てていたカビだらけの造花は、いつの間にか溶けて無くなっていた。
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