意味不明小説集『羊の匣』

黑野羊

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ぬりえ

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「今日はみんなでぬりえをしますよー。みんなはどこの国が好きかなー?」

 今日はクラスメイト全員で、国の名前とかを知ってもらいながら、ぬりえをする。そんな授業。

 真っ白い大きな紙に、黒い線で描かれた世界地図。
 6畳ほどの大きな世界地図を目の前に、子供達は歓声をあげていた。

 みんなはまだ小学2年生で、もちろんどのあたりにどんな国があるかなんて知らない。そこで地図帳を使いながら、見つけた国に好きな色を塗らせる。
 昨日遅くまで描きながら、へぇ、こんな国あるんだーと、教えるはずの私も子供みたいに地図帳にお世話になった。
 みんなきゃあきゃあ大騒ぎしながら、クレヨンで色を塗っていく。
 すごいな。真っ白な世界がどんどん賑やかになっていく。

 最初、子供達は地図帳で分けるために塗ってあった色を選んだりしていたが、
「好きな色でいいんだよ」
 というと、ただでさえカラフルになってきていた世界地図はだんだんと騒がしくなっていく。
 アメリカ合衆国には、あの国旗のような星がいっぱい飛んで、アフリカ大陸にはライオンやゾウやキリンが遊んでいる。
 中国は最初真っ赤に塗られていたが、誰かがその上から黄色いクレヨンで万里の長城みたいな線を引いていた。
 オーストラリアにはカンガルー、南極大陸にはペンギンが。
 ぬりえのはずが、いつのまにかおえかき大会。
 でもみんなが笑顔で、楽しそうだ。

 みんなが色んな国を楽しくしている中で、ひとりの男の子が黙々と日本に色を塗っていた。

「マサくんは日本がすきなの?」
「うん!」

 日本も他の国に負けないくらい、鮮やかな国になっていて、びっくりした。

「マサくん。マサくんの中では日本はこんなにカラフルなの?」
「うん!
 あのね、ちょっと前にね、おじいちゃんに昔の日本の写真を見せてもらったんだ。
 そしたらね、すごいんだよ。
 ピンク色の花が咲いたり、黄色の花が咲いたり、木の葉っぱが真っ赤になったりしてたんだ」
「……そっか。いいなぁ。先生も昔の日本の写真、みたいなぁ」
「じゃあ今度おじいちゃんに借りてくる!」

 マサくんはにっこり笑うと、ピンク色のクレヨンで、今はもう見られなくなった『サクラ』の絵を描き始めた。
 日本に四季がやってこなくなって、もうどのくらい経つのだろう。
 灰色に煙る空が窓から見える。
 マサくんが持ってくると言う昔の日本の写真が、とても楽しみだ。
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