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はじまり
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東京丸の内に自社ビルを構える大手総合商社東堂商事の最上階にある秘書課。
エレベーターを降りればすぐ、フロア中央に秘書課のデスクがいくつもあり、秘書達が仕事をしている。その秘書デスクの島を囲うような配置で、社長、副社長、専務、常務の部屋のガラス窓と扉があった。
重役達は、出張や朝から立ち寄る場所が多かったり、夜遅くまで続く会食会議等も多く、基本この朝の時間帯にはこのフロアには秘書しかいない。
エレベータのついた音と共にその扉が開くと、秘書達がエレベータ―の方を一瞥する。広報課の期待の星である嵯峨が、今春の新商品の広告原稿を持って降りて来た。
広報課の嵯峨宗一郎は、ワックスで前髪を立ち上げたアップバングツーブロックの髪型に、爽やかな容姿とずば抜けたコミュ力、そして出世有望株ということで女性にとても人気があり、秘書課のデスク島に来るまでの距離を、堂々とにこやかに、颯爽と歩いて向かってくる。
嵯峨は、社長第二秘書の藤木綾子のデスクの前で歩みを止めた。
「綾子さん、これ、社長に最終確認とって校了でまわしてくれる?」
広告原稿を受け取る際、二人は原稿の下で指を絡め合う。はにかむ笑顔を必死に堪えて、互いに視線を合わせて合図を送り合った。
「承知いたしました」
そう。実は私達は内緒で付き合っている。
嵯峨は原稿を渡し終えると、他の秘書達にも柔かに会釈をして、またエレベーターに乗って帰って行った。
「嵯峨さんかっこよすぎる~。大人の色香で酔いつぶれそう~」
「綾子さん、嵯峨さんから資料渡されて羨ましいー!」
秘書達が色めき立ち、私は少し気分が良かった。本当だったらここで「実は付き合ってるんだ」と言いたいのだが、それは何とかぐっと堪えた。
「嵯峨さん、彼女いるのかなあ?」
(い・る・よ)
「あんなにカッコよくてハイスペックならいるでしょ。年齢も三十二だよ? まだ独身なのが奇跡だよ~」
(うんうん、本当、まだ残っててくれたのが奇跡)
私の人生は、思い返せば、シングルファザーの貧乏家庭で育ち、母がいない代わりに弟の面倒と、家事を一通りし、青春時代は着飾ることも出来ず、漫画のようなスクールラブも経験せずに、一瞬で過ぎ去った。
将来は絶対にキラキラした人生を歩むと決めて、死に物狂いで勉強し、奨学金を満額で借りて国立大学を卒業し、尋常じゃない倍率を潜り抜けてこの一流企業に就職して、弟も独り立ちし、キラキラマイウェイを順調に歩み始めていた。
奨学金返済費用、プロポーション維持のためのジム代、綺麗なゆるふわロングヘアーを維持するための美容代、ボーナスとセールを駆使して十代で出来なかったオシャレを目一杯して、これらを賄うために切り詰められるところは徹底的に切り詰める生活だけど、それでも今がとても充実している。美しくあるため、瞼だってアイテープでばっちり二重にしている。
そして、キラキラ人生計画最後のミッションは、高学歴、高身長、高収入、そしてイケメンであるスーパーハイスペックな旦那を捕まえ、可愛い子供に恵まれた幸せな家庭を築く!
そしてそして、とうとう、三十歳を迎える今年、私は滑り込みで捕まえた! 嵯峨宗一郎という最優良物件を!!
「綾子さん、嵯峨さんの持って来た新商品の広告モデル、人気雑誌モデルのエリカですよね!」
一人悦に浸っていたところ、若手秘書の咲良ちゃんに聞かれ、私は我に返り手に持っていた広告を見る。
今やCMやテレビにも引っ張りだこで、今秋には主演映画まで公開されるという超人気モデルである。
すらりとした手足に、モデルというだけあって身長は百七十三センチもあるそう。私と違いぱっちりとした二重の大きな瞳で、少し小悪魔な雰囲気のある、気の強そうな美人である。
「このモデル、社長のご子息の元カノって噂ですよ」
噂好きな咲良ちゃんの耳打ちに私は驚いた。この子の情報収集能力には毎度脱帽する。
「エリカって、実家が製鉄会社のお嬢様で、社長の息子さんと幼稚園から高校までずっと一緒だったみたい」
「なんか住む世界が違うわね」
「綾子さん、社長のご子息はお会いした事ないんですか?」
「ないない。名前くらいは勿論存じてるけど、社長と行動を共にするのは第一秘書の中川課長だから、私レベルがご家族にまではお会いしないわ」
「まあ、第一秘書でなければ、なかなかご家族までは会う機会はないですよねー」
雑談中にまたエレベーターが鳴り、扉が開いた。噂をすれば中から降りて来たのは、社長第一秘書で秘書課課長の中川雄二だった。
「おはよう。ミーティングを始めよう」
エレベーターを降りればすぐ、フロア中央に秘書課のデスクがいくつもあり、秘書達が仕事をしている。その秘書デスクの島を囲うような配置で、社長、副社長、専務、常務の部屋のガラス窓と扉があった。
重役達は、出張や朝から立ち寄る場所が多かったり、夜遅くまで続く会食会議等も多く、基本この朝の時間帯にはこのフロアには秘書しかいない。
エレベータのついた音と共にその扉が開くと、秘書達がエレベータ―の方を一瞥する。広報課の期待の星である嵯峨が、今春の新商品の広告原稿を持って降りて来た。
広報課の嵯峨宗一郎は、ワックスで前髪を立ち上げたアップバングツーブロックの髪型に、爽やかな容姿とずば抜けたコミュ力、そして出世有望株ということで女性にとても人気があり、秘書課のデスク島に来るまでの距離を、堂々とにこやかに、颯爽と歩いて向かってくる。
嵯峨は、社長第二秘書の藤木綾子のデスクの前で歩みを止めた。
「綾子さん、これ、社長に最終確認とって校了でまわしてくれる?」
広告原稿を受け取る際、二人は原稿の下で指を絡め合う。はにかむ笑顔を必死に堪えて、互いに視線を合わせて合図を送り合った。
「承知いたしました」
そう。実は私達は内緒で付き合っている。
嵯峨は原稿を渡し終えると、他の秘書達にも柔かに会釈をして、またエレベーターに乗って帰って行った。
「嵯峨さんかっこよすぎる~。大人の色香で酔いつぶれそう~」
「綾子さん、嵯峨さんから資料渡されて羨ましいー!」
秘書達が色めき立ち、私は少し気分が良かった。本当だったらここで「実は付き合ってるんだ」と言いたいのだが、それは何とかぐっと堪えた。
「嵯峨さん、彼女いるのかなあ?」
(い・る・よ)
「あんなにカッコよくてハイスペックならいるでしょ。年齢も三十二だよ? まだ独身なのが奇跡だよ~」
(うんうん、本当、まだ残っててくれたのが奇跡)
私の人生は、思い返せば、シングルファザーの貧乏家庭で育ち、母がいない代わりに弟の面倒と、家事を一通りし、青春時代は着飾ることも出来ず、漫画のようなスクールラブも経験せずに、一瞬で過ぎ去った。
将来は絶対にキラキラした人生を歩むと決めて、死に物狂いで勉強し、奨学金を満額で借りて国立大学を卒業し、尋常じゃない倍率を潜り抜けてこの一流企業に就職して、弟も独り立ちし、キラキラマイウェイを順調に歩み始めていた。
奨学金返済費用、プロポーション維持のためのジム代、綺麗なゆるふわロングヘアーを維持するための美容代、ボーナスとセールを駆使して十代で出来なかったオシャレを目一杯して、これらを賄うために切り詰められるところは徹底的に切り詰める生活だけど、それでも今がとても充実している。美しくあるため、瞼だってアイテープでばっちり二重にしている。
そして、キラキラ人生計画最後のミッションは、高学歴、高身長、高収入、そしてイケメンであるスーパーハイスペックな旦那を捕まえ、可愛い子供に恵まれた幸せな家庭を築く!
そしてそして、とうとう、三十歳を迎える今年、私は滑り込みで捕まえた! 嵯峨宗一郎という最優良物件を!!
「綾子さん、嵯峨さんの持って来た新商品の広告モデル、人気雑誌モデルのエリカですよね!」
一人悦に浸っていたところ、若手秘書の咲良ちゃんに聞かれ、私は我に返り手に持っていた広告を見る。
今やCMやテレビにも引っ張りだこで、今秋には主演映画まで公開されるという超人気モデルである。
すらりとした手足に、モデルというだけあって身長は百七十三センチもあるそう。私と違いぱっちりとした二重の大きな瞳で、少し小悪魔な雰囲気のある、気の強そうな美人である。
「このモデル、社長のご子息の元カノって噂ですよ」
噂好きな咲良ちゃんの耳打ちに私は驚いた。この子の情報収集能力には毎度脱帽する。
「エリカって、実家が製鉄会社のお嬢様で、社長の息子さんと幼稚園から高校までずっと一緒だったみたい」
「なんか住む世界が違うわね」
「綾子さん、社長のご子息はお会いした事ないんですか?」
「ないない。名前くらいは勿論存じてるけど、社長と行動を共にするのは第一秘書の中川課長だから、私レベルがご家族にまではお会いしないわ」
「まあ、第一秘書でなければ、なかなかご家族までは会う機会はないですよねー」
雑談中にまたエレベーターが鳴り、扉が開いた。噂をすれば中から降りて来たのは、社長第一秘書で秘書課課長の中川雄二だった。
「おはよう。ミーティングを始めよう」
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