あなたはカエルの御曹司様

さくらぎしょう

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Spring has come

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 会社までの道のりの樹木は、すっかり桃色に色づき、街には真新しいスーツに身を包む新社会人を沢山目にする。

 春爛漫といった感じであった。

 春の陽気か、新しい季節の出会いへの期待か、浮足立って出社をすれば、会社内は異動の人達が荷物を持って慌ただしく行き交っており、秘書課のフロアへ上がれば、萌ちゃんが最初に出社していた。

「おはようございます、綾子さん。今まで大変お世話になりました」
「おはよう、萌ちゃん。今日から人事課だね。たまに秘書課に遊びに来てね」
「はい! あ、先ほど広報課の嵯峨さんから電話があって、本日付の各社朝刊を社長室に置いておいて欲しいそうです。うちの広告が載ってるみたいですよ」
「あ、本当、じゃあカバン置いてちょっと総務部に取りに行ってくる。また今度ゆっくり話そうね」

 今日はどこも異動や新入社員受け入れで慌ただしい。朝礼の前になんとか総務から新聞を受け取らないと、社長の出社に間に合わせられないかもしれない。

 というか、嵯峨が新聞を持って来なさいよ。
 
 いや、やっぱり来なくていい。

 嵯峨も私と顔が合わせづらかったのかな……。

 私は急いでカバンを机に置いて、総務部のあるフロアへ向かった。
 無事に新聞を手に入れ、秘書課に戻ると萌ちゃんはすでにおらず、ちゃんと挨拶も出来ず申し訳なかった。
 新聞を社長室の机に並べていると、フロアの方が賑やかになり始め、皆集まり始めていた。朝礼が始まるのだ。
 私も社長室から出て、輪に加わると朝礼が始まった。

 「紹介する、東堂瑞貴君だ。社長と名字が同じなため、課内で呼ぶ時は名字ではなく名前で呼んであげて欲しい」

 私は彼の姿を見て、瞬きを何度もしてしまった。

 「東堂瑞貴です。よろしくお願いします」

 背は確かに高いが……なんというか……大きい。

 若手達が後ろの方で早速小声でいじっている。

「東堂……トド……」
「ぶっ……」

 トドは失礼だろ。丸みを帯びているだけだ。

 ところで一体だれが、東堂瑞貴はイケメンハイスペックと言っていた?

 秘書課に現れた期待の新人東堂瑞貴は、身長百八十六センチのふくよかな巨体に、ビート〇ズをリスペクトしているかのような綺麗なマッシュルームカット、ナチュラル太眉、黒ぶち眼鏡。眼鏡の奥に見える目は切れ長を通り越えた、切れ込みのようなつり上がり一本線。

 イメージがだいぶ違ったが、それより何だか……ふてぶてしい。

 朝礼が終わり、皆席に着き始め業務を始める。
 中川課長は瑞貴君を私の前に連れて来て紹介をした。

「瑞貴君、君の教育担当で社長第二秘書の藤木綾子君だ」
「藤木綾子です。何でも聞いてくださいね」

 東堂瑞貴は私を見るなり、なぜか怪訝な顔を見せた。

「……お綺麗ですね」
「え? あ、ありがとう」

 言ってるセリフと表情が噛み合っていない。というか、何だその抑揚のない誉め言葉は? というか、というか、初対面第一声にそれはセクハラでは? 
 
 この子を見てると私まで怪訝な顔になって来る。

「あの……美人が苦手で。顔に出ちゃってたらすいません」
「は?」

 言ってるセリフと表情がばっちり噛み合った。つまり私を嫌がってるのか?
 極めつけに、なんと瑞貴君は小さくぼやいていた。

「秘書課配属の時点で、嫌な予感はしたんだよなぁ……」
「はあ?」

 ばっちり聞こえてますけど?

 私は堪忍袋の緒が切れて、瑞貴君改め瑞貴の胸元を強めに小突く。

「まず、その口の利き方と、態度から教育します」

 背の高い瑞貴は、相変わらず不愛想な顔で私を見おろしている。

「はい、不束者ですが、よろしくお願いします」 
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