王太子の仮初めの婚約者

さくらぎしょう

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12. 回路の状態

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 バラド国王は王太子のマナの状態を確認するため、席を立ち、王太子の足元で膝をつく。そして手で王太子の身体を触って確認を始めた。

 バラド国王の手が止まり、眉間に皺を寄せる。

「長老が言っていたのはこれの事か? しかもこれは……今すぐにでも少しだけ開かないと……」

 バラド国王がそう呟くと、王太子が苦しそうな表情を始める。それを見てバラド国王は王太子の身体からゆっくりと手を離した。

「ここまでだな」
「国王陛下、大丈夫です! これくらいなら我慢できる。回路をあけて、私の身体を成長させてください!」
「いや、やめておいた方がいい。今は少しでも開けないといずれ回路が破裂する恐れがあったから少しだけ開けたが、やはり一気に開くと負担が大きい」

 王太子は悔しそうに唇を噛み、目を瞑る。
 次に目を開ければ、冷静さを取り戻していた。

「バラド国王陛下、無理を言って申し訳ありませんでした」
「いや、いいんだ。それより、今少し開けたことで、もしかしたら僅かに身体に何かの兆しがあるかもしれない」

 その言葉にルイーザ王女の目が輝き始める。

「それは……成長を始めるという事?」
「いや、それが出来るほど開けてはいない。兆しくらいは現れるのではと」 
「それでもいいわ! ああ、アロイス、希望が見えてきたわね」

 ルイーザ王女は立ち上がって喜び、バラド国王も頷く。

「そうだな。うまくいけば、二十年くらいで成人男性の姿になれるかもしれない」

 その言葉に王太子は一気に明るさを失った。

「……二十年……? そんなに?」
「ああ、グリーンハンドがいない分、安全に少しずつ開けるしかない。だとすると、今触った感覚から、王太子にはそれくらいの時間は必要だ」

 王太子は顔色を悪くして額を押さえ、黙り込んでしまった。
 しばらく思いつめた様子だったが、気を取り直すためにか一度大きく深呼吸をすると、いつもの表情に戻りバラド国王に話しかけた。

「バラド国王陛下、色々とありがとうございます。私達は陛下にどのような事をしてお返し出来るでしょうか?」

 バラド国王はやっと自分の望みを聞いてもらえ、嬉しそうな表情を王太子に向けた。

「その言葉に感謝する。こちらは十年前からお願いしているが、技術支援をしてもらいたい。我々の秘術による落ち度で木材が枯渇したアウルム国では、石炭が主な燃料だが、石炭を採掘していると地下を深く掘るので炭鉱に水が湧くようになってしまった。オーバーランドの資金援助で、不足分の資源は他国から輸入出来たが、そうではなく、自国で十分な採掘を続けられる知恵を貸してほしい」

 それを聞いて王太子はすぐにルイーザ王女に振り向いた。

「姉上……なぜこのような大事な支援要請を今まで私に黙っていたのですか? これは私の問題を解決するよりも先に取り掛からないと」
「技術支援を取引材料にするのは、まだ病に伏す前の国王の判断でした。殿下の治療法に確実なものが無い状況で、先方の望みを先に叶えたら、結局そのまま逃げられる可能性がある」

 ルイーザ王女の発言にバラド国王が目を丸くして呆れた。

「おいおい、どれだけ俺を見くびってるんだ?」

 王太子はルイーザ王女に首を振る。

「姉上、バラド国王陛下はすでにルイスの命を救ってくれています。今は私が国王代理で権限がある。バラド国王陛下の望みは民の生活に深刻に関わっている話です。私達の様に個人的な問題ではない。すぐに何か考えてあげなくては」
「次期国王であるあなたの身体の問題は個人的な問題ではありません」
「民にとっては私の身体の成長などそこまで問題ではない」

 王太子は目に力を入れ、落ち着いた声でルイーザ王女を圧倒する気迫をみせた。ルイーザ王女が黙ると、王太子はバラド国王の方へ視線を戻す。

「バラド国王陛下、大変失礼いたしました。技術支援の件、手探りの状態でさせていただくため、我々もどこまで手助けできるか正直わかりません。ただ、手助けできるように動きたいと思いますので、アウルム国の炭鉱に我が国の者を派遣して調査をさせてもよろしいですか?」

 バラド国王は頷いた。

「もちろんだ、アロイス王太子。派遣される者には滞在用の住居も用意させていただく。王太子の身体の件も真摯に対応すると誓おう」

 ルイーザ王女が感情を表情に表さずに静かに発言する。

「それで、誰をアウルム国へ? 他国に長期滞在で、なおかつ解決の糸口を探して来いとなると、引き受けそうな技術者など思い当たりませんが」

 王太子は適任だと言わんばかりの声色で名前を上げる。

「ウェリントン子爵家の子爵令息に行ってもらう」

 具体的な人物の名前も上がり、バラド国王は上機嫌で立ち上がった。

「礼を言う、アロイス王太子。正式な派遣が決まったらまた連絡をくれ。王太子の身体に兆しが見えた時も連絡をもらいたい」
「わかりました」

 バラド国王は部屋を後にする前に、今度は不機嫌顔で座っているルイーザ王女に近づき、軽く指でルイーザ王女の頬に触れた。

「行き場に困ったらいつでも俺のもとに来たらいい」

 ルイーザ王女はバラド国王を睨みつけた。

「意外と臆病ね。私が欲しいなら、そう素直に言えばいいものを」

 バラド国王はルイーザ王女に満足そうな笑みを見せると、そのまま嬉しそうに何も言わずに部屋を後にした。


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