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11. 交渉
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午後、王太子の部屋に王太子、ルイーザ王女、そして褐色の肌の異国の男が座って向き合っていた。
ルイーザ王女は異国の男に話を切り出す。
「バラド国王陛下、先日の私との交渉は成立ですか? それともあなたには無理な話だったかしら?」
「まあ、まずは俺の話を聞け。だからお前は行き遅れるんだよ」
「私は行き遅れているのではなく、自分の意思で嫁いでいないの」
「そりゃ思春期に俺と出会ってたら他の男なんて目に入らなくなるよな」
ここで何故かルイーザ王女はバラド国王を見たまま沈黙し、バラド国王はルイーザ王女にその官能的な目で視線を投げ、数秒だけその場が無音になる。
「二百年近く行き遅れてる訳あり物件が何を言い出すことやら」
「残念、俺は行き遅れてない。正妃を迎え入れていないだけだ」
二人の様子を王太子はまじまじと見て感心していた。礼儀や立ち振る舞いに厳しいルイーザ王女が、相手は一国の王であるにもかかわらず、バラド国王にだけは砕けた姿を見せている。二人の空気感もなんだか似ている。それに、喧嘩をしているようで、お互い楽しんでいるようにも見えた。実際、バラド国王の方はルイーザ王女との会話を明らかに楽しんでいる。
「私の姉をここまで手なずけられるのは、バラド国王陛下だけかもしれませんね……」
その言葉にルイーザ王女は目を見開いて威嚇するように王太子を睨みつけた。そしてバラド国王と呼ばれた異国の男は嬉しそうに高らかに笑う。
「ルイーザに行き場がないなら、いつでも俺が貰ってやる。何番目がいいか決めとけ」
「番号振るような二百歳のじーさんなんてお断りです」
「何番目でもいいから二百歳のじーさんに嫁ぎたいとか言う女は山のようにいるんだがな」
そう言ってバラド国王が背もたれに両肘を掛けてくつろいだように寄りかかれば、大きく胸元の開いた民族衣装からは、浅黒い肌に筋の浮き上がった首筋や鎖骨、筋肉質な胸板が見えており、ルイーザ王女は不覚にも視線を向けて魅入ってしまった。
「じゃっ……じゃあ、さっさと正妃を貰いなさいっ! もう! そんな話どうでもいいから、早く本題を!!」
珍しくルイーザ王女が調子を狂わされていた。
「じゃあ、本題だが、長老達が新しい仮説を立てた。当初、ルイス王子の身体の弱い原因は、胎児の時にマナがアロイス王太子に流れたからだと思っていた。だがそうではなくて、元々ルイス王子は胎児の時点で成長できるほどのマナがなかったのではないかと」
ルイーザ王女と王太子は首を傾げる。
「つまり、ルイス王子は本来生まれる事は出来ない生命力だったが、アロイス王太子からマナを送られたことで成長して、生まれることが出来た。アロイス王太子は元々強いマナを持っていたんだろう。だから少しルイス王子に与えたとしても自身の成長に問題なかった」
ルイーザ王女がバラド国王に問う。
「ルイスは……本当は生まれてこれなかったの?」
「その説明の方がしっくりくる。だから、二人が十二の時に施した術で王太子の成長が止まった。当初王太子に流れたと思っていたマナをルイス王子に戻したつもりだったが、そうではなくて、アロイス王太子のマナを更にルイス王子にわけてしまったんだ。それで、王太子の身体が反応して、これ以上王太子のマナが漏れ出ないようにマナの回路のバルブを閉めてしまった。体内でマナの循環が円滑にいかなければ成長や健康に影響が出る。王太子は健康は保たれたが、その分身体の成長に全て影響が出たんだろう。その仮説が正しいかは、今王太子の身体に触れさせて貰えればわかる」
ルイーザ王女は語気を強めて言い放つ。
「王太子の身体を確認して、もしそうなら、マナの回路のバルブを開けなさい」
バラド国王はルイーザ王女の言葉には返事もせず、しばらく黙って王太子をみつめた。
「もしそうだとして……バルブを開けることに成功しても……一度止まったマナの循環がすぐに巡るかどうか……。最悪の場合はバルブを開けたことでマナが一気に流れて心臓に負担をかけるかもしれない」
「安全に行う方法はないの?」
「長老とも話していたが、グリーンハンドがいれば、術を施す事にも積極的になれるんだが……」
「グリーンハンド?」
「ああ、アウルムの民は樹齢の長い大木のマナを吸収して寿命を延ばしていたんだが、民族のなかには稀に膨大なマナを持ったグリーンハンドと呼ばれる、自分のマナを逆に植物に与えて成長させることや、循環を整える者がいたんだ。だが最後のグリーンハンドだった女性が随分昔にどこかに消えてしまって、それ以降我が国でグリーンハンドは生まれていない」
「グリーンハンドが生まれていれば、アウルム国の木々が枯渇することもなく済んだのかしら」
「まあ、ありえるな。だがそこは元々は我々が木々のマナを得ていた報いだ」
王太子は終始黙り込み、二人の会話を聞きながら悩んだ様子だった。
「王太子殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、姉上、大丈夫です。ところで、胎児の時の新たな見解ですが、ルイスには内緒にしてもらえますか?」
ルイーザ王女は王太子が何を気遣い黙って考えていたのかがわかり、思わず王太子の手を握った。
「貴方が治れば、ルイスも解放されるわ。だから、必ず治す方法を見つけましょう」
バラド国王は二人の様子を見ながら口を挟む。
「リスクがあるが、心臓に負担がかからないよう、少しずつ様子を見ながらバルブを開けれるか試みてみるか?」
ルイーザ王女はバラド国王を睨みつける。
「十年前も『リスクがあるが』から始まって、結局失敗したわ」
「あれは失敗じゃない。成功だ。王子二人とも生きてるだろ」
ルイーザ王女はバラド国王を睨み、バラド国王はそんなルイーザ王女をどこか余裕そうな目で見つめる。
王太子は二人を見ながら、少し羨ましく感じ始めていた。自分も、シルビアに自分を男性として意識させたい。
「バラド国王陛下……今、私の身体を確認して、もしそうならバルブを開けてもらえますか?」
「今バルブを?」
驚くバラド国王に王太子はしっかりと頷く。
だがバラド国王は首を横に振る。
「さすがにそれは躊躇する。今できる事は、王太子のマナの回路の状況を確認させてもらい、十年前の見落としを探す事」
「そうですか……では、それだけでも今お願いします」
これにはバラド国王は首を縦に振ってくれた。
ルイーザ王女は異国の男に話を切り出す。
「バラド国王陛下、先日の私との交渉は成立ですか? それともあなたには無理な話だったかしら?」
「まあ、まずは俺の話を聞け。だからお前は行き遅れるんだよ」
「私は行き遅れているのではなく、自分の意思で嫁いでいないの」
「そりゃ思春期に俺と出会ってたら他の男なんて目に入らなくなるよな」
ここで何故かルイーザ王女はバラド国王を見たまま沈黙し、バラド国王はルイーザ王女にその官能的な目で視線を投げ、数秒だけその場が無音になる。
「二百年近く行き遅れてる訳あり物件が何を言い出すことやら」
「残念、俺は行き遅れてない。正妃を迎え入れていないだけだ」
二人の様子を王太子はまじまじと見て感心していた。礼儀や立ち振る舞いに厳しいルイーザ王女が、相手は一国の王であるにもかかわらず、バラド国王にだけは砕けた姿を見せている。二人の空気感もなんだか似ている。それに、喧嘩をしているようで、お互い楽しんでいるようにも見えた。実際、バラド国王の方はルイーザ王女との会話を明らかに楽しんでいる。
「私の姉をここまで手なずけられるのは、バラド国王陛下だけかもしれませんね……」
その言葉にルイーザ王女は目を見開いて威嚇するように王太子を睨みつけた。そしてバラド国王と呼ばれた異国の男は嬉しそうに高らかに笑う。
「ルイーザに行き場がないなら、いつでも俺が貰ってやる。何番目がいいか決めとけ」
「番号振るような二百歳のじーさんなんてお断りです」
「何番目でもいいから二百歳のじーさんに嫁ぎたいとか言う女は山のようにいるんだがな」
そう言ってバラド国王が背もたれに両肘を掛けてくつろいだように寄りかかれば、大きく胸元の開いた民族衣装からは、浅黒い肌に筋の浮き上がった首筋や鎖骨、筋肉質な胸板が見えており、ルイーザ王女は不覚にも視線を向けて魅入ってしまった。
「じゃっ……じゃあ、さっさと正妃を貰いなさいっ! もう! そんな話どうでもいいから、早く本題を!!」
珍しくルイーザ王女が調子を狂わされていた。
「じゃあ、本題だが、長老達が新しい仮説を立てた。当初、ルイス王子の身体の弱い原因は、胎児の時にマナがアロイス王太子に流れたからだと思っていた。だがそうではなくて、元々ルイス王子は胎児の時点で成長できるほどのマナがなかったのではないかと」
ルイーザ王女と王太子は首を傾げる。
「つまり、ルイス王子は本来生まれる事は出来ない生命力だったが、アロイス王太子からマナを送られたことで成長して、生まれることが出来た。アロイス王太子は元々強いマナを持っていたんだろう。だから少しルイス王子に与えたとしても自身の成長に問題なかった」
ルイーザ王女がバラド国王に問う。
「ルイスは……本当は生まれてこれなかったの?」
「その説明の方がしっくりくる。だから、二人が十二の時に施した術で王太子の成長が止まった。当初王太子に流れたと思っていたマナをルイス王子に戻したつもりだったが、そうではなくて、アロイス王太子のマナを更にルイス王子にわけてしまったんだ。それで、王太子の身体が反応して、これ以上王太子のマナが漏れ出ないようにマナの回路のバルブを閉めてしまった。体内でマナの循環が円滑にいかなければ成長や健康に影響が出る。王太子は健康は保たれたが、その分身体の成長に全て影響が出たんだろう。その仮説が正しいかは、今王太子の身体に触れさせて貰えればわかる」
ルイーザ王女は語気を強めて言い放つ。
「王太子の身体を確認して、もしそうなら、マナの回路のバルブを開けなさい」
バラド国王はルイーザ王女の言葉には返事もせず、しばらく黙って王太子をみつめた。
「もしそうだとして……バルブを開けることに成功しても……一度止まったマナの循環がすぐに巡るかどうか……。最悪の場合はバルブを開けたことでマナが一気に流れて心臓に負担をかけるかもしれない」
「安全に行う方法はないの?」
「長老とも話していたが、グリーンハンドがいれば、術を施す事にも積極的になれるんだが……」
「グリーンハンド?」
「ああ、アウルムの民は樹齢の長い大木のマナを吸収して寿命を延ばしていたんだが、民族のなかには稀に膨大なマナを持ったグリーンハンドと呼ばれる、自分のマナを逆に植物に与えて成長させることや、循環を整える者がいたんだ。だが最後のグリーンハンドだった女性が随分昔にどこかに消えてしまって、それ以降我が国でグリーンハンドは生まれていない」
「グリーンハンドが生まれていれば、アウルム国の木々が枯渇することもなく済んだのかしら」
「まあ、ありえるな。だがそこは元々は我々が木々のマナを得ていた報いだ」
王太子は終始黙り込み、二人の会話を聞きながら悩んだ様子だった。
「王太子殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、姉上、大丈夫です。ところで、胎児の時の新たな見解ですが、ルイスには内緒にしてもらえますか?」
ルイーザ王女は王太子が何を気遣い黙って考えていたのかがわかり、思わず王太子の手を握った。
「貴方が治れば、ルイスも解放されるわ。だから、必ず治す方法を見つけましょう」
バラド国王は二人の様子を見ながら口を挟む。
「リスクがあるが、心臓に負担がかからないよう、少しずつ様子を見ながらバルブを開けれるか試みてみるか?」
ルイーザ王女はバラド国王を睨みつける。
「十年前も『リスクがあるが』から始まって、結局失敗したわ」
「あれは失敗じゃない。成功だ。王子二人とも生きてるだろ」
ルイーザ王女はバラド国王を睨み、バラド国王はそんなルイーザ王女をどこか余裕そうな目で見つめる。
王太子は二人を見ながら、少し羨ましく感じ始めていた。自分も、シルビアに自分を男性として意識させたい。
「バラド国王陛下……今、私の身体を確認して、もしそうならバルブを開けてもらえますか?」
「今バルブを?」
驚くバラド国王に王太子はしっかりと頷く。
だがバラド国王は首を横に振る。
「さすがにそれは躊躇する。今できる事は、王太子のマナの回路の状況を確認させてもらい、十年前の見落としを探す事」
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これにはバラド国王は首を縦に振ってくれた。
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