王太子の仮初めの婚約者

さくらぎしょう

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21. いつか紹介して

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 ルイス王子は深夜に王宮に戻った。挨拶をしてこようとする見張りの兵士を見かけるたびに、人差し指を口元にあてた。
 音を立てないように自室に入り、誰にも気づかれないよう、そおーっと扉を閉めると、安堵で大きな溜息が出る。

「はあぁぁ、見つからなかった」
「誰に?」

 ルイス王子は扉にバンっと大きな音を立てて身体をぶつけた。肝を冷やしながら声のした方向を見て目を凝らせば、月明りしかない薄暗い室内に人影があった。暗くて相手の顔は良く見えないが、それが誰かは声だけでわかっている。

「姉上……なぜ私の部屋に?」

 ルイーザ王女は姿が確認できる位置までルイス王子に近づく。

「私こそ、なぜ? と、あなたに聞きたいわ」

 ルイーザ王女の全てお見通しといった表情を見て、ルイス王子は下手な言い訳だけはやめる事にした。

「すいません、王都に出掛けていました」

 だがルイーザ王女はあっさりと引き下がってくれた。

「今回はユルゲンも連れて行ったという事で、許しましょう」
「いえ、ユルゲンは……」

 ルイス王子は咄嗟にユルゲンは連れて行っていないと言うところだったが、このまま居たことにした方が都合がいい事に気がつき、黙った。

「ところで、なぜ私がここに居るか」
「約束を破って王都に行った私を注意するためです」
「違います。いえ、半分はそうですが、それよりも伝えたいことがあったから」
「なにか?」
「シルビア嬢が目を覚ましました」

 ルイス王子は目を見開き、ルイーザ王女を見た。

「兄上は……目覚めましたか?」

 ルイーザは首を横に振る。

「殿下はまだ眠ったままです。なのでシルビア嬢には殿下が目覚めるまで王太子室で過ごして頂き、定期的に殿下のマナの循環を整えてもらっています」
「そうですか……」

 ルイーザ王女は肩を落とすルイス王子を軽く抱きしめてから、部屋の扉の方へと歩いて行く。

「きっと殿下もすぐに目覚めるわ。だから、あなたも今日はもう寝なさい」

 ルイーザは扉を開けた。

「ユルゲンもご苦労様。今日はもういいわよ」
「はっ」

 扉の外からユルゲンの声がして、ルイス王子はまたも肝が冷えた。
 ユルゲンはもしかしたら本当に自分と一緒に王都まで行っていたのかもしれない……。

 ルイーザ王女は出て行き、部屋の扉は閉まった。

 ♢

 朝、目覚めると隣にはサナギから蝶へと羽化したアロイスが眠っている。
 見慣れない姿に緊張するが、彼が早く目覚めるようにと、その手を握った。

 グ~ッ、キュルキュルキュル~……。

 ——お腹が鳴ってしまった……。
 今はアロイスが寝てくれていて良かったと思った。

 兄はしばらく王宮のゲストルームに滞在することになったが、慣れない社交界に来てくれた兄はもう少しゆっくり寝かせてあげようと思い、今朝の朝食は一人で行くことにした。

「シルビア!!」

 廊下を歩いていたら、私を呼ぶ声がした。振り返れば、ルイスが両手を広げて立っている。

「ああ、目覚めて嬉しいよ!!」

 ルイスは勢いよく私の元まで近づいてくると、きつく抱きしめた。今までのことも、ルイーザ王女から言われていた事もあり、すぐにルイスを離そうとしたが、それよりも早くあっさりとルイスの方から離れた。

「今から朝食? 一緒に食べよう」
「え? ああ、そうね」

 朝食くらいは一緒にとっても平気よね……? そう思い、頷く。

「シルビアが寝ている間に季節は春になったよ。まだ少し朝は肌寒いけど、よかったら外で朝食をとろうよ」

 ルイスはすぐに使用人に指示を出して、庭園のガゼボに朝食とひざ掛けを準備させた。
 ルイスは紳士らしく腕を差し出してくれたので、一瞬迷ったが、儀礼的なものなので私も軽く手を添えた。チラッとルイスの顔を見たが、どこか雰囲気が変わった気がする。あまり警戒しなくてもいいような気がしてきた。

 ルイスにガゼボまでアテンドしてもらい、開放的な六角形の空間に準備された椅子に腰を掛ける。
 まだ朝なので少し寒いが、優しく吹き抜ける風は春の匂いがした。

「ルイス、なんだか雰囲気が変わったわね」
「え? そう?」

 ルイスはにこにこしながら、ナイフとフォークでチーズ、半熟卵、キノコなどが乗せられたガレットを切っている。

「そうそう、良い友達が出来たんだ」
「友達? ああ、そういえば社交シーズンが始まったのよね」
「はは、社交界で出会ったわけではないんだけど、色々と姉上に知られると怖いから二人だけの秘密ね」

 そう言ってルイスは私にウインクする。

「その友達なんだけどさ、女性なんだけど、凄い馬鹿力で、豪快で、それでいて器が大きいんだ」
「そう」

 あまりにもルイスが楽しそうに話していて、私も何だか嬉しくなった。きっとこれからは本当にルイスとは、普通の気のいい友人になれる気がしてきた。

「それでね、シルビア」
「ん?」
「ラヴィニア嬢に求婚しようと思うんだ」
「え? ちょっと待って、今ルイスが話していた女性は?」
「え? それは友達だよ。出来れば親友になりたいと思ってるけど」

 昔、お父様が言っていた。親友のようなお母様は最高だと。

「ねえ、ルイス、もっとちゃんと考えた方がいいんじゃない?」
「どうしたの? シルビアはラヴィニアを薦めていたでしょ?」

 そうだった。随分寝ていたものだから、すっかりマーレーン伯爵の事を忘れていた。私はルイス王子とラヴィニアをとり持たなくてはいけなかった。でも……。

「でも、ルイスには幸せになってもらいたくて」

 ルイスはきょとんとした目で私をみてから、とても大人びた優しい眼差しを向けてくれた。

「幸せにしたい人たちがいるんだ。それが満たされたら、私は凄い幸せ者だと思う」
「ルイス……本当にあなた変わったわ」

 ルイスは最後の一口を口に入れて、それから紅茶を口にした。

「ああそうだ、いつかシルビアにもその変わった友達を紹介したいな。でも出来るかなあ……」
「ぜひ、紹介して。必ずよ」
「ああ。そうなる日が来るように頑張るさ」





















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