隠された太陽に涙を流す月〜僕の人生を君に捧げる

さくらぎしょう

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7.友情の始まり

 ベルローズ王子はしばらくアンリーゼの前に姿を現さないかと思っていたが、いつもの夕食時には部屋に戻り、アンリーゼと共に食事を取ってくれた。だが、表情はいつも以上に感情を表わしていない。

 ベルローズ王子はナイフとフォークを皿の上に置き、アンリーゼに声を掛けた。

「アン……昨夜はすまなかった」
 
 アンリーゼもナイフとフォークを皿に置いた。

「何も謝られるようなことはされておりませんが?」
「とぼけなくとも良い。君を無理矢理抱いてしまった」
「無理矢理? 私が望みました」
「アン、もう密の月は終わる。今夜からは自室で寝た方がいい」
「それは、私とは子供を作らないと国王夫妻に誓っているからですか?」

 ベルローズ王子は眉を顰めた。

「……王妃に聞いたのか?」
「はい。そして、本日、ベルローズ様と私の間に子供が生まれても継承権は持たないという書類に同意のサインをして参りました」
「……そうか」
「ベルローズ様がマリー前妃を想っているのは百も承知です。愛して欲しいなどと申しません。けれども、私達は長い人生を王家の王子夫妻として過ごすのです。立場的にこれから沢山の困難を二人で乗り越えなくてはならないでしょう。その為にも、信頼関係は築きたいと願っています」
「信頼関係を築くのに、夜を共にするというのか?」
「そうではなく、一緒に過ごす時間が大切だと言っているのです。ベルローズ様は一緒に過ごすことで昨晩のような事が起こる事を心配されているのでしょうが、昨晩は媚薬が混ぜられていた可能性があることを殿下も気づかれているはずです。昼間に過ごせる時間があればいいですし、日中がお忙しいのであれば、夜に二人で過ごせる時間が欲しいと申しています。それは、夕食でも、今までの様に窓際での添寝でも、形は何であろうと私は構いません。私個人の気持ちとしては、昨晩のようなことが起きても、夫であるベルローズ様となら、殿下の戯れや間違いでもまったく問題はありません」

「アン、君との一夜は間違いだとは思っていないよ。でも、媚薬なんかで推し進める関係は君に不誠実だし、互いにも虚しいだけだろ。だから昨晩の事を私は後悔しているんだ。それと、万が一子供が出来ても、私には幸せにしてあげられる自信がない。国王と王妃から作るなと確かに言われてはいたが、私自身も子を成すことは躊躇する」
「それは……どういうことですか?」

 ベルローズ王子はアンリーゼから視線を外し、深い溜息をついた。

「関係を築く時間が必要なら、昼食は君と必ず取るとする。それでいいだろ?」

 喉に刺さった小骨のように、その答えは引っかかるが、アンリーゼはなんとか呑み込んだ。

「……そうですね。それでしたら、殿下のお望み通り、夜も自室で過ごします」
「了承してくれてありがとう」



 翌日、アンリーゼが自室で読書をしていれば、部屋にソアン王太子が尋ねて来た。予想外の来客に、アンリーゼは目を丸くして王太子を部屋の中へ迎え入れる。

「ソアン様、本日はどうなされましたか?」
「あなたが友達になってくれと言ったのだろ?」
「え? それはつまり……」
「つまりも何も……。ちなみに、あの約束は守れよ」
「ああ、シーラですね。もちろんです。では、早速呼びましょう」
「あ、いや、待て。まずは、その……あなたを……知りたい」

 王太子は気恥ずかしそうに視線を逸らしてそう呟いた。アンリーゼは少しだけ王太子と距離を縮められて嬉しかった。

「では、私の事はアンとお呼びください」
「アン……うん、そうしよう! じゃあ、アンも私の事はソアンで」
「まあ! よろしいのですか?」
「友達なんだから……当たり前じゃないのか?」
「ふふ、当たり前かもしれませんね。ではソアン、何かしたいことはありますか?」
「したい事……?」

 アンリーゼはソアン王太子をジッと見つめ、この年頃の男の子は何が楽しいのか考えてみた。

「じゃあ……城を探検なんてどうでしょう?」

 ソアン王太子の瞳が輝き出すのがわかった。

「それは……いいな!!」
「ドラゴンが現れたら守ってくださいますか?」

 ソアン王太子は鼻息を荒くし、両手の拳を握り締める。

「そうか、ドラゴンか!! もちろん私がアンを守ろう!!」

 





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