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8.ドラゴン退治
アンリーゼとソアン王太子は、時間があれば二人でしょっちゅう城の中の探検に出掛けた。道中何が現れるかわからないので、二人は壁に背をぴったりつけて忍び足で先に進んだり、壁に掛けられた絵画の謎を解こうと意見を出し合ったり、隠し扉はないか暖炉の灰に思い切り息を吹きかけて灰まみれになったりして過ごした。
「この絵にはきっと秘密があるぞ、アン!」
「太陽と月の絵ね……確かに対照的なコントラストで描かれてるわね。まるで月を隠すような……」
「アン! 暖炉には隠し通路があるはずだ!」
「よぉーし、灰を吹き飛ばしましょう!!」
「アン! 北の棟にはきっとドラゴンが潜んでいる! 一緒に討伐に行こう!」
「北の棟ですね。では道案内をお願いいたします」
ソアン王太子は普段から護衛や使用人の目を掻いくぐって、こっそり城の中を歩き回っており、アンにドヤ顔で自分の能力を見せつけた。いつもは少しすましたソアン王太子が今は年相応の少年で、その姿にアンリーゼは目を細め、嬉しそうに着いて回った。
「この城は大きくて複雑で、私でもまだ知らない所が沢山あるんだ」
元気にそう話すソアン王太子は廊下を突き進んで行き、進む先にアンリーゼは見覚えがあった。
「さあ、この階段を上ればドラゴンの隠れ家だ。心して行くぞ」
本当にドラゴンでも隠していそうな薄暗い階段をアンリーゼが覗き込んだ時、ここが以前迷い込んだ廊下であることに気が付いた。
「ソアン……ここは上がっては行けないわ」
「なんだ、アンは臆病だな。私がいるから安心しろ」
「いえ、ここは国王の命令で上がってはいけない階段です」
「だから、そんなの私なら問題ない。さあ、もたもたしていれば置いて行くからな」
そう言うや否や、ソアン王太子はアンリーゼを揶揄うように階段を駆け上って行ってしまう。
「なりませんっ! 殿下!!」
だが子供の足はすばしっこく、アンリーゼは肝が冷える思いでソアン王太子の後を必死で追った。
階段を昇りきれば、薄暗い木の扉が目の前に飛び込んでくる。すでにソアン王太子の姿はなく、この扉の中に入ったのは明白であった。
アンリーゼは木の扉を開けようとすると、扉には厚みと重みがあり、少し力を入れて引いた。中の部屋に入ると、そこはまさに独房で、石造りの部屋に暖炉と簡易的なベッド、粗末なテーブルとイスが一脚だけあり、小さな窓には格子がつけられていた。
ソアン王太子は火のない暖炉の前に立ち、呆然と立ち尽くしている。
「ここは……あいつの部屋だ」
「え? 誰ですか?」
アンリーゼの問いかけにもソアン王太子は答えない。
「アン、早く部屋に戻ろう」
ソアン王太子には先ほどまでの威勢はなく、どこか不安そうな様子だった。
アンリーゼは安心させてあげようと、そっとソアン王太子の手を握り、微笑んで見せた。
「ドラゴンは眠っております。気づかれないよう、忍び足で逃げましょう」
ソアン王太子の表情には血色が戻り、顔を赤くしながらも、アンリーゼの目を見てしっかりと頷いて見せた。
「さあソアン、部屋に戻れば、シーラが美味しいおやつを準備していますよ。三人でティータイムです」
ソアン王太子は笑顔でアンリーゼの手をぎゅっと握り返した。
無事に誰にも見つからず階段を降りきり、駆け足で部屋まで戻っていく。廊下まで出ればソアン王太子が迷わず部屋まで案内してくれた。
アンリーゼの部屋の扉を二人で一緒に勢い良く引き、部屋の中へとなだれ込むように転がり入れば、二人で笑いあった。そして、そんな二人のもとにシーラが近づいてきた。
「ソアン様にお友達が出来て安心致しました」
アンリーゼとソアン王太子がシーラを見上げれば、彼女は二人を見下ろしながらクスリと笑った。
「まあ、シーラがそんな風に笑うのを初めて見たわ」
「……見苦しいものをお見せしたようで申し訳ございません」
「え? いえ、シーラの笑顔をもっと見たいわ」
アンリーゼがそう言うも、シーラは表情をいつもの無表情へと戻し、すぐに背を向けてティータイムの準備をしにテーブルへ戻って行った。
ソアン王太子はシーラに聞こえない大きさでアンリーゼへ耳打ちする。
「シーラは本当はとても温かい笑顔を向けるんだよ。今は、怒ってるわけじゃなく、笑えないだけだから許してあげてね」
「笑えない?」
「そう。シーラは今は笑っちゃいけないんだ。内緒だよ」
「この絵にはきっと秘密があるぞ、アン!」
「太陽と月の絵ね……確かに対照的なコントラストで描かれてるわね。まるで月を隠すような……」
「アン! 暖炉には隠し通路があるはずだ!」
「よぉーし、灰を吹き飛ばしましょう!!」
「アン! 北の棟にはきっとドラゴンが潜んでいる! 一緒に討伐に行こう!」
「北の棟ですね。では道案内をお願いいたします」
ソアン王太子は普段から護衛や使用人の目を掻いくぐって、こっそり城の中を歩き回っており、アンにドヤ顔で自分の能力を見せつけた。いつもは少しすましたソアン王太子が今は年相応の少年で、その姿にアンリーゼは目を細め、嬉しそうに着いて回った。
「この城は大きくて複雑で、私でもまだ知らない所が沢山あるんだ」
元気にそう話すソアン王太子は廊下を突き進んで行き、進む先にアンリーゼは見覚えがあった。
「さあ、この階段を上ればドラゴンの隠れ家だ。心して行くぞ」
本当にドラゴンでも隠していそうな薄暗い階段をアンリーゼが覗き込んだ時、ここが以前迷い込んだ廊下であることに気が付いた。
「ソアン……ここは上がっては行けないわ」
「なんだ、アンは臆病だな。私がいるから安心しろ」
「いえ、ここは国王の命令で上がってはいけない階段です」
「だから、そんなの私なら問題ない。さあ、もたもたしていれば置いて行くからな」
そう言うや否や、ソアン王太子はアンリーゼを揶揄うように階段を駆け上って行ってしまう。
「なりませんっ! 殿下!!」
だが子供の足はすばしっこく、アンリーゼは肝が冷える思いでソアン王太子の後を必死で追った。
階段を昇りきれば、薄暗い木の扉が目の前に飛び込んでくる。すでにソアン王太子の姿はなく、この扉の中に入ったのは明白であった。
アンリーゼは木の扉を開けようとすると、扉には厚みと重みがあり、少し力を入れて引いた。中の部屋に入ると、そこはまさに独房で、石造りの部屋に暖炉と簡易的なベッド、粗末なテーブルとイスが一脚だけあり、小さな窓には格子がつけられていた。
ソアン王太子は火のない暖炉の前に立ち、呆然と立ち尽くしている。
「ここは……あいつの部屋だ」
「え? 誰ですか?」
アンリーゼの問いかけにもソアン王太子は答えない。
「アン、早く部屋に戻ろう」
ソアン王太子には先ほどまでの威勢はなく、どこか不安そうな様子だった。
アンリーゼは安心させてあげようと、そっとソアン王太子の手を握り、微笑んで見せた。
「ドラゴンは眠っております。気づかれないよう、忍び足で逃げましょう」
ソアン王太子の表情には血色が戻り、顔を赤くしながらも、アンリーゼの目を見てしっかりと頷いて見せた。
「さあソアン、部屋に戻れば、シーラが美味しいおやつを準備していますよ。三人でティータイムです」
ソアン王太子は笑顔でアンリーゼの手をぎゅっと握り返した。
無事に誰にも見つからず階段を降りきり、駆け足で部屋まで戻っていく。廊下まで出ればソアン王太子が迷わず部屋まで案内してくれた。
アンリーゼの部屋の扉を二人で一緒に勢い良く引き、部屋の中へとなだれ込むように転がり入れば、二人で笑いあった。そして、そんな二人のもとにシーラが近づいてきた。
「ソアン様にお友達が出来て安心致しました」
アンリーゼとソアン王太子がシーラを見上げれば、彼女は二人を見下ろしながらクスリと笑った。
「まあ、シーラがそんな風に笑うのを初めて見たわ」
「……見苦しいものをお見せしたようで申し訳ございません」
「え? いえ、シーラの笑顔をもっと見たいわ」
アンリーゼがそう言うも、シーラは表情をいつもの無表情へと戻し、すぐに背を向けてティータイムの準備をしにテーブルへ戻って行った。
ソアン王太子はシーラに聞こえない大きさでアンリーゼへ耳打ちする。
「シーラは本当はとても温かい笑顔を向けるんだよ。今は、怒ってるわけじゃなく、笑えないだけだから許してあげてね」
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