魔法省を悩ませる謎の病は私の力が原因でした

さくらぎしょう

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1.採用通知

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 三十九度……。

 顔の上に掲げた体温計はいつも通りの体温を表示していた。脱力した腕がベッドの上にドサッと戻ってくる。

 解熱剤を飲んでもたいして体温は変わらない。一~二ヶ月に一度ほどのペースで訪れる発熱症状。物心ついた時からお付き合いしている、この周期性発熱症候群という病気のおかげで、大学をすでに卒業した私は、未だに就職活動中である。

 周期的に発熱してお仕事お休みします。なんて言って、雇ってくれるところなんてそう簡単には見つからない。おまけに大した魔法も使えない。
 今は学生時代から働いている、シフトの融通が利きやすいバイトで細々と暮らしている。

 周期性発熱症候群を発症した人のほとんどは成長と共に発熱しなくなるのに、私は成人しても治る気配がない。
 このまま、一生こうなのか……。
 熱が高くて身体がしんどいせいか、いつもはポジティブな自分も気が滅入る。

 朦朧としつつも、身体を起こし、杖を持ってベッドサイドに置いたコップの中に、魔法で飲み物を満たそうとする。だが、加減が上手くできず噴水の様にコップからボッコンボッコンと白く濁った液体が湧きあがっている。
 これは熱のせいではない。私の魔法がへっぽこなのだ。

 湧きあがるのが収まったところで、ベッドから起き上がり、水浸しになった場所をタオルで拭く。魔法は使わない。

「魔法の方が不便だ……」

 ベッドサイドを片し、やっとコップに満たされた濁った液体を飲んでみると、冷たくて甘くて、予想外にとっても美味しかった。

「くぅーっ! ほてる身体に染み渡るぅー」

 何だか少し元気になってきた。
 両手で頬をパチンっと叩く。

「へこたれるな、プルム! 人生山あり谷ありって言うじゃない。今が苦しいのは登り坂なの。頑張って頂上目指すんだ!」

 すると、玄関チャイムが鳴った。
 赤い髪にぼさぼさゴワゴワのくせ毛頭、そばかすだらけの顔、眉毛の整え方も化粧の仕方もわからない。そしていわゆるぽっちゃり体型。
 若い年頃の女性枠に入ってはいるが、同じ枠内にいる可愛い女子達のような、パジャマ姿の破壊力というものは持ち合わせていない。
 なので何の迷いもなくそのままの姿で玄関扉を開ければ、亜人の男性で、白ヤギ姿の郵便屋さんが手紙を渡してくれた。

「やあ、プルム。いつもの発熱かな? お大事にね」
「ええ、ありがとう」

 扉を閉めてから、ずり落ちかけたメガネの位置を指で直し、手紙の差し出し主を見た。

 私は目を見開いた。

「きた……」

 随分前に履歴書を送ったが長らく返事のなかった、魔法省サラトゥース地方局からだ。職場のダイバーシティに積極的に取り組む国の機関なら、私の様な事情がある者も積極的採用を行ってくれるかと、期待を込めて応募した求人だった。

 手紙は受取人本人の杖でないと開かない、本人限定受取郵便になっていた。
 急いで部屋に置いていた杖を手に取り、緊張しながら手紙に杖先をあてれば、手紙は花が咲くように開き、中から文字がふわふわと浮き上がり、空中に整列を始める。

『これはプルム・サンシャイン様宛の手紙です』

「はい、私がプルム・サンシャインです」

『照合中……確認』
『採用通知 厳選なる選考の結果、貴殿を任期一年の非常勤職員として採用といたしましたのでご連絡申し上げます』

「うそ……本当?」

『はい、本当です。つきましては、入局日を下記日程といたしますので——』
「やったーーーーーーーっ!!!」

 三十九度の熱も吹き飛ぶほどの吉報だった。









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