魔法省を悩ませる謎の病は私の力が原因でした

さくらぎしょう

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2. 魔法省サラトゥース地方局

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 世界は魔法界と科学界に分かれていて、二つの世界は一部の者を除いて交わらない。
 魔法界の人間は皆魔法が使え、科学界の人間は皆魔法が使えない。その代わり科学というものが発達していると聞く。
 亜人が暮らしているのは魔法界だけで、二つの世界があるのを認知しているのも魔法界側の者達だけ。
 
 私はもちろん魔法界側の人間で、首都クルタルヌから遠く離れたサラトゥース地方という場所で生まれ育ち、今も暮らす。
 魔法界の大陸には魔水晶という石が点在しており、その魔水晶から発せられる見えない振動を感じ取って魔法が発動できる。一つの魔水晶の振動が人々に届く範囲までを境界線として、地方が区分されていた。

 内閣は二つの世界の政治を担い、その下位組織である魔法省は魔法界の統治をする。そして私の採用されたところは、その更に下位の機関である、地方を管理する地方局。

 魔法省サラトゥース地方局厚生労働部生活課。

 私は今、配属先のあるフロアのカウンターの前で待たされていた。

 カウンターの向こう側にはこれからお世話になる職場風景が広がっている。沢山のデスクに沢山の職員。一番奥には課長らしき人も見える。カウンターで私の対応をしてくれた女性が、今まさに課長らしき男性に話しかけた。遠目で見てもわかる端正な顔立ちの男性。こちらをチラッと見たが、すぐに女性に視線を戻して、また長々と話し始める。

 待たされている間、カウンター近くの席、私の左斜め前にいる男女の会話が聞こえた。

「えー、またぁ!?」
「何なんだろうな、この周期的に魔法を使うと頭痛や吐き気がするとか訴える人間が増える現象は」
「この地方だけなんでしょ? 調査しても、何かの汚染による健康被害とか、暗黒魔法のテロとかではなかったんだよね?」
「ああ、魔法を生み出す魔水晶も、これといった原因は見つからないって。もうなぁ、ずっと未解決」
「えー、そういうの一番困る。生活課の仕事が増えるだけ」

  周期的に体調不良と聞けば、口を挟まずにはいられない。

「あのー……私は周期性発熱症候群っていう病気で、一定の周期で発熱するんですけど、それも今おっしゃってたのと同じですか?」

 会話をしていた生活課職員の男女がぴたりと会話を止めて私を見た。

「あ、聞こえてましたか?」
「我々が頭を悩ませてるのはサラトゥース地方特有の病気なんですよ。でも、症状は頭痛や吐き気や眩暈といったもので、発熱は聞いたことはないです。それに、周期性発熱症候群はこの地方だけの病気じゃなく、医学的に認められている病気なので、おそらく違うかと」
「あら、でもその病気って確かほとんどが子供のうちに終わるんじゃなかったかしら?」
「ええ、そうなんです。それで、もしかしてと思って……」

 私が話をしていると、男女の顔の表情が急に強張った。彼らの視線の先である、私の斜め右前方に顔を向けると、そこには背の高い黒髪の男性が立っていた。黒のスーツをビシッと着こなし、黒い髪を整髪料でちゃんと整えている。切れ長の目は威圧感があり、男気がありそうというべきか、若いが年齢以上の貫禄がある男性だった。

「プルム・サンシャインさん?」
「は、はい、そうです」
「オーケ・ブラッドショー。ここ生活課の課長だ」
「よっ、よろしくお願いしますっ」

 私は九十度の角度でお辞儀をした。

「あ、ダイバーシティ枠で採用になった非常勤さんだ!」

 さっきまで会話していた男女の内の女性側がそう言った。
 課長は私を手招きして、カウンターの中に招き入れる。
 会話に付き合ってくれた男女にもペコッと頭を下げて、課長の長い足の歩幅に置いて行かれないよう小走りでついて行く。私はぽっちゃりで、背も低い。足と呼ばれる部分が短い。

 課長はカウンターから離れた個室ブースに私を連れて行くと、先に椅子に腰を掛け、向かいの席に私は座る様にと手のひらを見せて促す。

「さて、君の持病と事情については聞いている。ダイバーシティ採用は、能力があるのに勤務体系がネックでその才能を生かせない者達のために整備された制度だ。採用されたという事は、君に能力があると認められたからであり、発熱の際は遠慮なく休んで貰っていい」
「細やかなお心遣いに感謝します」
「いや、私ではなく、そういう雇用形態での積極採用を促す魔法省のお偉いさんに感謝してくれ。では、あとのことは課のものに説明させる。一年だけだが、よろしく」

 課長は席を立ち、さっさと自席に戻って行った。
 とても好意的な説明をしてくれた割に、その態度はなんだか冷たかった。
 
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