魔法省を悩ませる謎の病は私の力が原因でした

さくらぎしょう

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7.魔水晶

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 昼休憩が終わり、ラミと別れて私はオーケと共に魔水晶のある庁舎の地下へと向かう。向かう道中で、私はオーケに話した。

「さっきのラミもダイバーシティ採用だそうです。どんな事情があるかまでは知らないですけど、一般的な勤務形態がネックで仕事の選択肢がないんだと思います。だから、魔法省の本庁試験には本当に興味がないんじゃないでしょうか」
「あいつがダイバーシティ採用? それはうってつけだな」
「え? うってつけなんですか?」
「ダイバーシティ採用の説明は最初にしたはずだ。能力があるのに、会社の働き方に合わせられず勤務出来ない者を失くすための採用だ。高い能力があればあるほど、ダイバーシティ採用でそういった人材を確保したい。あいつは魔法省の本庁で働くだけの能力がある。俺が本庁に思い入れがあるから、ついゴリ押ししてしまってる部分もあるが、それでもラミの才能は相応しい場所で開花させるべきだと思ってる」
「本庁に思い入れ?」
「あそこには、外務部の科学界課があって、そこを目指して大学時代も過ごしていた。あそこは……俺の夢だ。だけど、俺は地方局に入るだけで精一杯だったよ。でもいいんだ。ここで運命の女性に出会えたから」
「ヤーナさんですね。でも、地方局に入れたなら、本庁の人間からの推薦で異動できませんでしたか? 今からでも遅くないですよ。受かったら、ヤーナさんと首都に行けばいいじゃないですか」
「簡単に言うけどな、本庁で勤務している一部の上澄みの人間しか推薦する権限はないんだよ。首都から遠く離れたサラトゥース勤務の俺をどうやって知ってもらう? 知ってもらったところで、首都で勤務している人間に、推薦されるだけの成果を見せる時間はないだろ。それに、何よりもヤーナがサラトゥースを離れたくないそうなんだ。俺は、生まれ育った土地を愛するヤーナが好きだ。だから、今はもう本庁でなくても満足している」

 私には、オーケの表情からは決して今が満足といった感情は感じ取れなかった。まだ、諦めたくないのを必死で自分自身に理由をつけて言い聞かせているようだった。でも、ヤーナさんを愛しているといった一途な想いも、ひしひしと伝わってくる。

「オーケに愛される人は幸せですね。同じ位、オーケも幸せであれば、私が言うべきことはないかと」
「ああ、ヤーナといられて幸せだ」

 地下の魔水晶管理室に入ると、各地の魔水晶が映し出されたモニターが設置された部屋を通り過ぎ、最奥にある扉を開けると、そこは大きな洞窟で、中央に巨大な水晶があった。その大きさは民家と同じ位ありそうで、青い神秘的な輝きを放っている。

「魔水晶って、こんなに大きいんですね」
「ああ、このサイズでサラトゥース全域の魔法発動が出来る。魔水晶の力が届く範囲が一つの地域だ」

 私は魔水晶の輝きに魅せられ、見上げながら惚けていたら、いつの間にか人一人分くらいの距離まで近づいていた。

「魔水晶って……近くだと身体がぽかぽかしてくるんですね」
「いや、しない」
「え?」
「おい、サンシャイン、お前顔が赤いが大丈夫か?」
「え?」

 魔水晶に見惚れてボーっとしていたと思っていたが、そういえば、本当に頭がボーっとしている。
 額に手をあてれば、体温が上がってきているのがわかった。

「すいません……周期性発熱症候群です」
「えっ!? おいおい、もう家に帰れ。って、帰りは一人で大丈夫か?」
「ええ、それは大丈夫です。いつものことなので」
「じゃあ、もうここで転移魔法使っていいから、すぐに帰って休め」
「あ、いえ、私、高度魔法使えないので、ちゃんと上にあがってから箒で帰ります」
「俺がする。座標を頭に浮かべて動くな」

 オーケが私に向かって杖を振ると、次元が歪み始めた。
 気がつけば、私は自分の部屋にいた。
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