魔法省を悩ませる謎の病は私の力が原因でした

さくらぎしょう

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6.庁舎食堂で

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 オーケの仕事はさすが課長というだけあって多忙だった。一年任期の自分は、私の退職後にオーケが困らないよう、すでに引継書も同時進行で作成しながら仕事をしていた。

 オーケが信頼してバンバン仕事を与えてくれるのは嬉しい。その気持ちに意欲が湧くし、遣り甲斐も感じている。だけど、一つだけ悩みがあった。昼休憩は必ず食堂に行くのに、私が不規則な昼食時間のせいか、ずっとラミのシフト時間とタイミングがずれているようで、まったく会えない。

 近くの席に座るオーケは、書類の束を持って、机の上でトントンと端を整えている。

「サンシャイン、昼休憩だ。俺も今日はここで一旦休憩する。せっかくだし一緒に昼メシ食うか?」
「え? ああ、いいですね」
「庁舎の周辺にはうまい店がいっぱいあるからな」
「庁舎の食堂でいいですよ」
「遠慮するな。俺のおごりだ」
「いえ、遠慮ではなく、食堂に行きたいんです。今日はふわとろオムライスで、絶対美味しいですよ! 行きましょう!」
「え、オムライスって……」

 大人の男性フェロモンを放出するオーケが、オムライスのワードに躊躇するのも分からなくないが、でも庁舎の食堂の料理はどれも本当に美味しいので問題ない。ラミに会えるチャンスは一日一回あるかないかなのだから、ここはオーケに折れて貰おうと思う。

 時間も昼を過ぎていたので、食堂の席はだいぶ空いており、あの窓際の席も空いていた。
 代金を払って窓際の席で待っていると、出来上がったふわとろオムライスがテーブルの上に現れた。

「いただきますっ! んーっ、やっぱり最高!」

 オーケがオムライスに舌鼓する私を冷ややかな目で見ている。

「オムライスとか、いったいサンシャインはいくつだよ……って、激うまっ!」

 オーケはたった一口で私の気持ちを理解してくれたようだ。

「そりゃ、僕が作るオムライスは美味しいに決まってる」

 私の声でもオーケの声でもない、あの落ち着いた低い声が急に聞こえ、驚いて二人で顔をオムライスの皿から声のした方へと向ければ、そこにはラミがにこにこと微笑みながら立っていた。

「ラミ!」

 ラミはふわとろオムライスのようなふわっとした笑顔を見せてくれた。

「やあ、プルム。君とまた会える日を楽しみにしていたんだ」

 私とラミを交互に見ているオーケは、やっと気が付いた。

「あー、初日にサンシャインに一食分を作ってくれた人か! あの時は世話になった。ありがとう」
「いいえ。ところで僕も休憩時間なんで、よければご一緒しても?」

 オーケがさらりと断りそうな雰囲気を出したのを見逃さず、それより先に私が声を出した。

「もちろんっ!!」
「ハアっ? おいサンシャイン!」
「ご快諾ありがとう」

 ほぼ三人同時の声だった。

 ラミはオーケの隣に座り、テーブルをトントンッと指で叩けば、コーヒーが現れた。その様子にオーケはあんぐりと口を開ける。

「杖なしで出せるって……レベル高いだろ……」
「そうですか?」

 ラミは涼しげな顔をしてコーヒーを口に運ぶ。

「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。僕は食堂で働いているラミ・シャロンドと言います。気軽にラミと呼んでください」

 ラミはコップを置き、隣に座るオーケに笑顔で片手を差し出す。オーケは戸惑いながらもその手を握り、握手をした。

「俺は、生活課課長のオーケ・ブラッドショー。サンシャインは一年任期の非常勤だが、課長補佐だ」
「生活課のブラッドショーさんですね。お噂は聞いています」
「噂?」
「女性職員に大変人気だと」
「何だ、本当に噂程度の話か。俺には愛する女性がいるから、他は目に入らない」
「はは、冗談ですよ。とても有能な方だと伺ってます」

 ラミは目を細めてにこにこと微笑みながらオーケと話す。細めた目から、たまに鋭い視線をオーケに向けている気もしたが、嫌な感じというよりは、私にはラミが真剣に相手を見定めているように見えた。

「そういえば、生活課課長さんに聞いてみたいことがあったんです。実は僕の友人がサラトゥース地方に越して来てから、魔法を使うと頭痛がする日があるんですよね」
「この地域は毎月頭痛や吐き気を訴える患者が急増する日があるんだが、今のところ公害などは見つかっていない。地形の影響なのか何なのか、何年も調べているが、まったく手がかりもない」
「魔水晶に問題はないんですよね?」
「魔水晶も問題は見つかっていないが、ちょうど昼休憩後にこいつを連れて確認しに行くところだった。地域民には原因を究明できず申し訳ないと思っている」
「そうですか……」

 私は二人の会話に入り、ラミに聞いた。

「ラミは、魔法を使ってそういう症状が出たことはないの?」
「うん、ないよ。僕が特異体質だからかな?」
「特異体質?」
「ああ、僕、魔水晶の振動数を吸収して魔法を無効化出来るんだよ」
「よくわからないけど、凄い体質ね……」

 ラミが軽く話す内容に、オーケはまたもあんぐり口を開く。

「おいおい、サラっというけど、それはとんでもない才能だぞ」
「あっても無くてもいいものですよ」
「おいラミ、俺は真剣に言ってるんだ。お前は今すぐ首都に行って魔法省の試験を受けた方がいい」
「うーん、試験は受けたくないなぁ。でも、そう言って頂けて光栄です」

 ラミはまた涼しげな顔をしてコーヒーを口に運んだ。
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