魔法省を悩ませる謎の病は私の力が原因でした

さくらぎしょう

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12.気まずい

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 朝から私はオーケと目が合わせられず、机に書類を山積みにして、顔を隠して仕事に励んでいた。私の席はパーテーションで囲われているが、出入りする場所のすぐ横にオーケの席があるので、ちょっと椅子を引けばこんにちはである。

 そして、つい一分ほど前から、突き刺してくるようなこんにちはの視線を、オーケの席があるあたりから感じている。

「おい、サンシャイン」
「はっ、はい!!」

 オーケのいつも以上に低く下がった声に身震いして立ち上がってしまった。

「お前、俺に何か隠してないか?」
「ななな、何を隠すことがあるんです!?」
「朝から俺を避けてるだろ」
「避けるわけないじゃないですか」
「ふーん……じゃあ、メシ行くぞ」
「え」

 オーケに強引に腕を引っ張られ、私は食堂に連れて行かれてしまった。食事が出来上がるまでの間、オーケはずっと調査しているサラトゥースの謎の病について話始めた。

「あの日、お前に転移魔法を掛けた後、急に強い眩暈に襲われたんだ。あんなのは初めてだった。そしたら、あの日はまさに謎の頭痛や眩暈や吐き気が急増する日だったんだよ。お前の熱ももしかして症状のひとつなのかな」
「私もそうなのかなって思ったのですが……ちなみにその病はいつごろからサラトゥースで確認されているんですか?」
「地方局で確認できたのは、ここ十年くらいの話かな?」
「ああ……じゃあ、やっぱり違うかも……私は物心ついた時にはすでに周期的に熱を出していたので」
「そうか。それだと、やはり可能性は低いな……」

 テーブルの上に出来上がった昼食が現れ始めた。オーケはボリュームのあるビーフボールで、私はオムライス。だが、私のトレーには頼んでいないプリンが置かれていた。

「あれ? 私こんなの頼んでないです。間違えてるので返してきますね」

 私が席を立とうとすると、ラミが現れた。

「それは僕が作ったプリンだよ。ぜひ食べて」

 ラミはそのまま私の隣に座り、机の上にコーヒーを出す。オーケはブッと吹き笑いしていた。

「オムライスにプリンってお子様ランチ……ぶはっ。……いや、良かったな、サンシャイン」

 私の隣の席の気温だけが下がっていく気がする……。ラミはオーケを見てにこにこ微笑みながら、机をトンッと指でたたくと、オーケのビーフボールの肉が少し減った。

「俺の肉!? おい、返せよっ!」
「プルムにだけプリンをつけるのは良くないかなと思ったんで、課長さんには少し多めにお肉を入れてあげたんですけど、いらなかったですね」
「いります」

 ラミはオーケから目を逸らし、涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいる。
 しょげながら渋々食べ始めたオーケを見て、ラミはくすりと笑い、またトンッと指で机を叩くと、オーケのビーフボールの肉は最初よりも更に増量された。

「おおおおお! さすがラミ様! 大魔法使い様!!」
 
 オーケは大喜びでビーフボールを口に掻き込み始めた。

「ところで、さっきの話が聞こえてしまったんですけど、課長さんは先日はじめてこの土地の病を経験されたんですか?」
「俺の事はオーケでいい。ああそうだ、初めて経験した。結構酷い症状起こすんだな」
「では遠慮なく、オーケと呼ばせて頂きます。ちなみに、症状が出た時いつもと違うことをしましたか?」
「いつもと違う事? 魔水晶のそばで魔法を使ったくらいだが、他の患者は魔水晶のそばにいなくても症状が出ているから、関係ないと思うし、とするといつもと違う事はこれと言ってなかった」

 私はずっと気になっていたことを聞いてみる事にした。

「あのぉ……高度魔法は……関係ないですか? 私を家に送るために、オーケは転移魔法を使いましたよね?」
「高度魔法?」
「以前ウジェナさんに頼まれた、この病に関する資料を整理していた時に引っかかったんです。症状を出した人の年齢、性別、症状、症状が出た場所の情報があるのに、どんな魔法を使ったのかが書いてなくて、何の魔法を使ったのかなって」
「使った魔法か……確かに確認するべきだったな。よし、サンシャイン、午後は病院回りだ」

 三人でサラトゥースの謎の病について話し込んでいると、カツカツと響くあのヒールの音が近づいてきた。

「オーケ、楽しそうね」
「ああ、ヤーナ!」

 ヤーナさんの登場に、オーケは嬉しそうにし、私は無駄に緊張して身体を硬直させてしまった。
 ヤーナさんは一頻りオーケの身体をベタベタと触りながら猫なで声を出すと、最後に「愛してる」と言って去って行った。
 隣に座るラミを見れば、彼の周辺だけ真冬の極寒のような空気で覆われていて、思わず身震いした。
 
「不躾な質問だけど、オーケ……君は彼女のどこが好きなの?」

 ラミの質問に、オーケは頬を赤らめ照れながらも嬉しそうに答えた。

「どこって……ぜっ、全部かな。めちゃくちゃタイプ。俺、昔から女王様タイプに弱いから」

「「あー……なるほど……」」

 ラミと私はシンクロして声を漏らした。

 ラミは腕時計を見て立ち上がり、私の頭を優しく撫でる。
 なぜ頭を撫でられたのか。ラミを見上げながら、どんな顔をして良いかわからなかった。

「じゃあ、プルム。仕事に戻るから、先に失礼するね」

 そう言って私に微笑んでくれたあと、ラミはオーケにも声を掛けた。

「彼女にフラれたら、僕がもっといい女王様紹介するよ」
「はあ!? 去り際にとんでもない事言うな、お前」
「はは、冗談だよ。半分」
「半分って何だよ!! しかも半分とかいう声色が低すぎて余計怖えーよ」

 ラミはクスクス笑いながら手を振って調理場に戻って行った。

「すげー失礼なやつ」
「あはははははは」

 苦笑いが精一杯で、オーケには何も言えなかった。

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