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17.映像球がみせるもの
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オーケの家の中に入ると、玄関ホールに直結したガレージへと案内される。ガレージには科学界のバイクが何台も置かれていて、見た事のない銀色の道具が沢山壁に飾られていた。
私の好奇心で溢れた瞳がバレたのか、オーケは指をさしてその銀色の道具が何かを教えてくれる。
「あれがスパナで、こっちはレンチ。科学界ではバイクの整備をこの道具を使ってするんだ」
「へえー、さすが科学界ヲタですね」
「ヲタって言うな」
科学界の説明をするオーケは、まるで少年かのように目を輝かせ、熱を持った言葉はスピードを増し、屈託のない笑顔を見せながら話してくれた。
オーケの説明が終わると、バイクの奥にあるテーブルとイスに私達は案内され、腰を掛けた。
「悪いな。ここがうちのリビングで、俺の生活する場所なんだ。家の方はトイレとシャワーくらいしか使ってない」
「え? じゃあ、なんでこんな場所にこんな広い家を買ったんです?」
「買ってない。借りてるんだ。バイクが置ける家がよくて、パラベリの中心部じゃバイクが何台も置けるガレージ付きの家なんて、俺の給料じゃ到底借りれないから、予算とガレージの広さと通勤距離を考えてここにした」
オーケのこの家を借りた目的を聞き、ラミが大きく息を吐いて安堵した。
「良かった。ヤーナさんとか言う女性との結婚を考えて購入されたのかと思い、焦りましたよ」
「おいおい、何だかヤーナとの結婚を反対してるように聞こえるな」
「そうですねぇ……もう少し相手をよく知ってからの方が良いんじゃないかとは思いますけどね」
「はぁ? 俺とヤーナはもう十分にお互いの事を知ってる」
「そうですか?」
ラミはじっとオーケの目を見つめた。最初こそオーケもラミの目を見ていたが、徐々に視線が横に逸れていく。
そして予想外にオーケがため息をついた。
「はぁ……実は……プロポーズしようと思ったのは、ヤーナの気持ちを確かめたいってのもあるんだ」
「気持ちを確かめる?」
「変な……噂を聞いたんだよ。ヤーナがパーティーに参加してると。まあ、パーティーくらい誰でも行くから気にし過ぎだろうが、ただ、ここ最近ヤーナと会話をしていると、彼女の様子にどこか不安になるんだ」
「そうですか。では、オーケは真実が知りたいということですよね?」
「真実? ラミ、お前何か知ってるのか?」
「知ってたら、どんな現実でも知りたいですか?」
「当たり前だろ」
私はラミがまさかヤーナさんの浮気現場を話し出すんじゃないかとハラハラしていた。
だが、悲しくも予想は裏切られることはなく、オーケの返事を聞いたラミは、テーブルを指でトンっと叩くと、一瞬で私たちは映画館の前のカフェの一席に座っていた。
「どこだ、ここ……?」
戸惑うオーケに、ラミは窓の外を指し示す。オーケがラミの指差す方向を見れば、映画館からヤーナさんと疑惑の男性が腕を組んで出てきた。
私はこの光景に見覚えがあり、ラミが何を見せているのか理解する。気分は既に断崖絶壁の上である。
窓の外の光景を目にしたオーケが勢いよく立ち上がると、ヤーナさんのいる場所に向かおうとする。
だが、その瞬間、私たちはまたオーケの家のガレージに一瞬で戻っていた。
「おいっ!! なんでここに戻した!! 今あいつらを問い詰めないと意味ねぇだろ!!」
オーケは完全に頭に血が昇っており、いきり立った猛獣である。
「今のは私の映像球を再生しただけなので」
「は? 映像球?」
「そうです。あれは先日の映像です」
猛獣は鋭い牙を向けながら、ラミの胸元を掴んで睨みつけた。
「おい、今のが偽物だった時の覚悟は出来てるか」
「覚悟は私じゃなくてオーケがするんです。今のが偽物か本物か、自分で確かめたらいい。あなたが真実を知りたいと言ったのだから」
オーケはしばらくラミを掴んだまま睨んでいたが、その手を離すと、両手で顔を伏せた。さっきまでの高ぶった様子とは打って変わり、俯くオーケに濃い影が落ちた。
「悪いな……今日は帰ってくれ……」
ラミは落ち着いた低い声でオーケに声を掛ける。
「いつでも、何時でも大丈夫ですから、呼びたくなったら呼んでください。力になりますから」
オーケは顔を伏せたまま、力無く片手だけあげて挨拶した。
ラミがパチンッと指を鳴らすと、私とラミは私のアパートの玄関前に戻っていた。
「オーケは……一人にして大丈夫かしら……」
「今は一人の方が良いです」
「そう……」
浮き沈みの激しい一日を過ごし、私も疲れが出たのか身体が重く感じた。今目の前にベッドがあれば即眠りたい……。
突然、ラミが私の額に手を当ててきた。
「プルム……熱が」
私も自分の首に手を当てると、リンパ節が熱を持っているのがわかった。
「ああ、本当だわ。発熱症候群ね。帰って寝るわね。送ってくれてありがとう」
「駄目だ! 一人には出来ない!」
ラミの発言に私は目を瞬き、一瞬無言の時間が流れた。
「あは……だっ、大丈夫よ。いつものことだし」
「駄目だ。もしも一人の時に意識を失ったらどうするんだっ!!」
「え?」
あの事をラミに話した記憶はないが……。
「あ、いや、発熱症候群の人は意識を失うとリスクがあると人から聞いたんだ」
「あー、ええ、そういう場合もあるわね。でも、私なら大丈夫よ。本当に大丈夫だから、ラミも安心して帰って」
ラミに手を振ってアパートに戻ろうとすると、強い力で反対側の手を握られた。
「お願いだ……プルムが心配で、僕の気がおさまらない。君の熱が治るまで一緒に居させて欲しい」
「え!? いや、でも、部屋も片付いてないし……」
「部屋? なら僕の部屋に来ればいい。そうだ、その方が看病もしやすい。そうしよう!」
「えええ!?」
ラミが指を鳴らす音が聞こえれば、またも一瞬で私は転移した。
窓の外にはパラベリ市中心部の景色が広がっており、壁には高そうな絵画が掛けられ、天井も柱も家具も、目を奪うほど豪奢で、おまけに今私が腰をかける天蓋付きのベッドは経験した事がないほどふかふかとしていた。
そこは何もかもが息を呑むような一室だった。
私の好奇心で溢れた瞳がバレたのか、オーケは指をさしてその銀色の道具が何かを教えてくれる。
「あれがスパナで、こっちはレンチ。科学界ではバイクの整備をこの道具を使ってするんだ」
「へえー、さすが科学界ヲタですね」
「ヲタって言うな」
科学界の説明をするオーケは、まるで少年かのように目を輝かせ、熱を持った言葉はスピードを増し、屈託のない笑顔を見せながら話してくれた。
オーケの説明が終わると、バイクの奥にあるテーブルとイスに私達は案内され、腰を掛けた。
「悪いな。ここがうちのリビングで、俺の生活する場所なんだ。家の方はトイレとシャワーくらいしか使ってない」
「え? じゃあ、なんでこんな場所にこんな広い家を買ったんです?」
「買ってない。借りてるんだ。バイクが置ける家がよくて、パラベリの中心部じゃバイクが何台も置けるガレージ付きの家なんて、俺の給料じゃ到底借りれないから、予算とガレージの広さと通勤距離を考えてここにした」
オーケのこの家を借りた目的を聞き、ラミが大きく息を吐いて安堵した。
「良かった。ヤーナさんとか言う女性との結婚を考えて購入されたのかと思い、焦りましたよ」
「おいおい、何だかヤーナとの結婚を反対してるように聞こえるな」
「そうですねぇ……もう少し相手をよく知ってからの方が良いんじゃないかとは思いますけどね」
「はぁ? 俺とヤーナはもう十分にお互いの事を知ってる」
「そうですか?」
ラミはじっとオーケの目を見つめた。最初こそオーケもラミの目を見ていたが、徐々に視線が横に逸れていく。
そして予想外にオーケがため息をついた。
「はぁ……実は……プロポーズしようと思ったのは、ヤーナの気持ちを確かめたいってのもあるんだ」
「気持ちを確かめる?」
「変な……噂を聞いたんだよ。ヤーナがパーティーに参加してると。まあ、パーティーくらい誰でも行くから気にし過ぎだろうが、ただ、ここ最近ヤーナと会話をしていると、彼女の様子にどこか不安になるんだ」
「そうですか。では、オーケは真実が知りたいということですよね?」
「真実? ラミ、お前何か知ってるのか?」
「知ってたら、どんな現実でも知りたいですか?」
「当たり前だろ」
私はラミがまさかヤーナさんの浮気現場を話し出すんじゃないかとハラハラしていた。
だが、悲しくも予想は裏切られることはなく、オーケの返事を聞いたラミは、テーブルを指でトンっと叩くと、一瞬で私たちは映画館の前のカフェの一席に座っていた。
「どこだ、ここ……?」
戸惑うオーケに、ラミは窓の外を指し示す。オーケがラミの指差す方向を見れば、映画館からヤーナさんと疑惑の男性が腕を組んで出てきた。
私はこの光景に見覚えがあり、ラミが何を見せているのか理解する。気分は既に断崖絶壁の上である。
窓の外の光景を目にしたオーケが勢いよく立ち上がると、ヤーナさんのいる場所に向かおうとする。
だが、その瞬間、私たちはまたオーケの家のガレージに一瞬で戻っていた。
「おいっ!! なんでここに戻した!! 今あいつらを問い詰めないと意味ねぇだろ!!」
オーケは完全に頭に血が昇っており、いきり立った猛獣である。
「今のは私の映像球を再生しただけなので」
「は? 映像球?」
「そうです。あれは先日の映像です」
猛獣は鋭い牙を向けながら、ラミの胸元を掴んで睨みつけた。
「おい、今のが偽物だった時の覚悟は出来てるか」
「覚悟は私じゃなくてオーケがするんです。今のが偽物か本物か、自分で確かめたらいい。あなたが真実を知りたいと言ったのだから」
オーケはしばらくラミを掴んだまま睨んでいたが、その手を離すと、両手で顔を伏せた。さっきまでの高ぶった様子とは打って変わり、俯くオーケに濃い影が落ちた。
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ラミは落ち着いた低い声でオーケに声を掛ける。
「いつでも、何時でも大丈夫ですから、呼びたくなったら呼んでください。力になりますから」
オーケは顔を伏せたまま、力無く片手だけあげて挨拶した。
ラミがパチンッと指を鳴らすと、私とラミは私のアパートの玄関前に戻っていた。
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「今は一人の方が良いです」
「そう……」
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突然、ラミが私の額に手を当ててきた。
「プルム……熱が」
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「ああ、本当だわ。発熱症候群ね。帰って寝るわね。送ってくれてありがとう」
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「あは……だっ、大丈夫よ。いつものことだし」
「駄目だ。もしも一人の時に意識を失ったらどうするんだっ!!」
「え?」
あの事をラミに話した記憶はないが……。
「あ、いや、発熱症候群の人は意識を失うとリスクがあると人から聞いたんだ」
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「え!? いや、でも、部屋も片付いてないし……」
「部屋? なら僕の部屋に来ればいい。そうだ、その方が看病もしやすい。そうしよう!」
「えええ!?」
ラミが指を鳴らす音が聞こえれば、またも一瞬で私は転移した。
窓の外にはパラベリ市中心部の景色が広がっており、壁には高そうな絵画が掛けられ、天井も柱も家具も、目を奪うほど豪奢で、おまけに今私が腰をかける天蓋付きのベッドは経験した事がないほどふかふかとしていた。
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