魔法省を悩ませる謎の病は私の力が原因でした

さくらぎしょう

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19.振動吸収

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 ラミとのキスは、初めて飲んだワインのような深い大人の甘さで、胸の奥が熱くなると、その熱はみるみるうちに身体中に広がっていく。
 アルコールに似た高揚感を感じ始めれば、今はもうふわふわと夢心地である。唇が離れてしまえばもう一口と、その味を求めて再び唇を重ね、互いを味わい尽くす。

 息も上がるほど長い時間キスをしていれば、嘘みたいに身体が軽くなり、熱も完全に引いていた。
 一方ラミの方は、唇を指で押さえて戸惑いを見せ始める。その様子を見た私は、一気に酔いがさめた。

「あ……ごめんなさい……私調子に乗ってしまって。もう二度とキスを求めないから」

 そう言いながら、涙が溢れ出してくる。さっきまでが幸せすぎたので、気持ちが追いつかない。
 ラミは慌てて、私の涙を指で拭う。

「違うっ! プルム、違うんだ。君が本当に好きだし、そもそもキスは僕がしたくてしたわけで。いや、だからそうじゃなくて——」

 ラミはじれったそうにもう一度私にキスをしてきた。だが、このキスはどこか事務的だった。
 そのキスで、やはり私に本気になるはずがないのだと思ったが、唇が離れるとラミは想像もしなかった事を口にした。

「やっぱり、君には封印の術が掛けられてる」

 キスの話が急展開した。更に気持ちが追いつかない。

「ふっ……封印?」

 ラミは私の上に覆い被さる体勢から、私の隣に座り直し、私の上半身を起こしてくれた。
 
「キスの最中に、プルムから魔水晶と同じ振動が漏れてくるのを感じたんだ。前にも言った通り僕は魔水晶の振動を吸収できるから、君から漏れる振動を全て吸収したら、ほら、熱はどう?」

 ラミは魔法で手のひらの上に体温計を出して渡して来た。受け取って早速測れば、36.0℃だった。

「熱が下がったのは……ラミが吸収したから?」

 ラミは頷いた。

「おそらく君の身体には魔水晶と同じ振動が出せる力があって、術で封じられてるんだ。例えるなら……」

 ラミは部屋の中をキョロキョロと見回し、サイドテーブルに置かれていたコップと水差しを取りに行きベッドに持って来た。

「封じる術がこのコップだとすると、力は注がれる水だ」

 ラミはコップのふちギリギリまで水を注いで止めた。

「ここまで成長した水の位置に、更に水がコップに注がれるタイミングがあって、その時コップから水が溢れ出す。だけど、水が注がれるのが止まり、ある程度溢れ出れば、またコップの内に収まった状態でキープできる。それが、君が周期的に発熱を出す仕組みだよ」

「じゃあ、術が解術されれば私の周期性発熱症候群は終わるの?」

「そうだ。でも……このコップが急に消えたらどうなるだろう?」

 そんなことは明らかで、コップの中に満たされていた水が全てぶちまけられる。

「水が全部出たら……どうなるの?」
「わからない……でも、良い感じはしないよね? だから、まずは誰が君に術を掛けたのか調べよう」
「そ……そうね」

 私は思わずため息を漏らしてしまった。結局は、今後もこの発熱と闘うことには変わりないからである。

 ラミが私の顔を覗き込んだ。

「そのため息の正体は?」
 
 そう聞いて来たラミは、徐々に距離をまた詰めてきている気がする。気恥ずかしさから、私は上半身だけ後ずさりながら返事をする。

「うん、まだしばらくは周期的な発熱はあるんだなって思ったら思わず」

 ラミの最後の一手に私の背筋が限界を迎え、またもぽすんっと背後に倒れてしまった。ラミはまた私に覆い被さってきて、求めるような視線を向けている。
 今度は事務的ではない、優しくて、甘い、ラミの熱い吐息まじりの、私の胸を高鳴らせるキスをしてくれた。

「これで発熱は収まるでしょ?」
「へ?」
「漏れ出る振動は僕が吸収すれば大丈夫だから」
「でも、これはこれで変な熱が上がってしまう」

 自分で言っておいて、恥ずかしすぎて顔を両手で隠してしまった。ラミはその手を優しくほどく。

「プルムは可愛いすぎる……」
 
 ガードのはずされた私の顔は、ラミの熱い視線とセリフを浴びせられ、自分の視線をどこに向けて良いのかわからず目を泳がせまくっている。

「キスはやっぱり特別だったね」
「私はラミとのしか知らないから、キスについては語れるほど知識がないかな……」
「だから、僕もプルムが初めてだよ」
「うそでしょ!?」
「本当だって。映画に行った時も言ったと思うけど……」
「ファーストキスとは聞いてないっ!!」

 ラミは驚いた目をしたかと思えば、すぐににっこりとして、少し企んだ笑みを見せた。

「そうなんだよ。だからね……」
 
 ベッドがギシリと軋む音を立てる。
 ラミの顔がゆっくりと下がってきて、私の耳元に唇を近づけて囁いた。

「こんなにドキドキする事、どうやって止めたら良いかわからないんだ」

 ラミは囁いた耳と首筋にキスをすると、また私の唇にキスの雨を降らせ始める。
 ラミの情熱は増す一方で、結局夜が明けるまで私を解放してくれなかった。





 


 
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